丸腰の戦士は阿修羅と化すのか

M.I.A.『マタンギ』
2013年11月20日発売
ALBUM
M.I.A. マタンギ
リリース日が二転三転し、痺れを切らしたM.I.A.はサマソニ来日のタイミングに「これ以上リリースを遅らせるならアルバムをリークするし、すぐに次回作を用意できる」とツイートしていたのだが、件のサマソニのステージは、ライヴのモードとしては完全に新作のそれであった。遠慮なしに刺激を追求したビートが聴く者を突き飛ばすかのように鳴り、彼女自身の「個」を突き詰めなければ他者に呼び掛けることなど出来ない、と悟りきった凄まじいアルバムである。デビュー作以後暫くは、彼女なりにポップを目指して表現をビルド・アップさせていたこともあったが、もはや彼女の音楽表現は着飾ることをやめた。脱ぎ、ひたすらに鍛え、磨き抜く。明確な目的を持ったポップ・ミュージックが、一流アスリートのストイックな肉体のごとく結晶しているのである。

ただ音の塊をゴロリと投げ出すのではなく、?き出しのラップとビートを端正に纏め上げたプロデューサー陣の仕事は見事だ。M.I.A.作品の要所要所に携わってきたスウィッチは、本作でも優れた働きを見せている。彼が手掛けた歌モノ〝カム・ウォーク・ウィズ・ミー?や、ザ・ウィークエンド客演の〝エクソダス?辺りで求心力の強いポップ・センスが発揮されているのは周知の通りで、一方の表題曲〝マタンギ?などパンチの効いたベース・ミュージック曲とのバランスが保たれている。そして絶妙なフレイヴァーを醸し出すのはもちろん、仏教音楽やバングラなどを下地にした、エキゾで中毒性の高い旋律の数々だ。「個」丸出しの表現で目一杯エンターテインするM.I.A.がこれである。(小池宏和)
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