飛躍の2ndアルバム『MANTLE』インタヴュー+メンバー解体白書
メジャー2作目となるフルアルバム『MANTLE』が素晴らしい。メロディアスで、ダンサブルで、ときにメランコリックで、しっかりとロックなCzecho No Republicの音楽が、高い純度によって表現されている。前作と異なりセルフプロデュースという形を選択した彼らのポテンシャルが遺憾なく発揮されたアルバムだ。それでいてインディー的なるミニマリズムや、実験的なスタンスが一切なく、しっかりとマーケットと勝負するんだという意気込みも感じることができて頼もしい。一気に飛躍した今作を前に、作品の核に迫るインタヴューとメンバー個々の変化や成長をあぶり出す解体白書の2本立て企画をお届けする。
(インタヴュー/撮影:徳山弘基)
セルフプロデュースの理由とは?
──まず今回のアルバムがセルフプロデュースに至った経緯というのは?
武井メジャー1stで出した『NEVERLAND』はインディー時代の9曲の録り直しと、そこにプロデューサーの方が3人つくっていう形で作って。ただそこで、自分ら的にちょっと足踏みをしたという気持ちも若干あって。メジャーの1枚目としてはとてもいい音源なんですけど、ちょっとしたモヤモヤがあったことも事実で。だから、今回の音源こそはメジャー1stみたいな気持ちで取りかかりたいなというのがあったんですね。で、今回はプロデューサーの方に頼らないで、5人の純度100%の力で、呼吸を整えて作りたかったっていう気持ちですね。
──自分たちだけで、あらゆる物事を決定し、コントロールしていくという意味では、逆に肩の力が入りすぎるということはなかった?
山崎や、あんまなかったですね。プロデューサーを入れるっていうこと自体が前回が初めてだったので、そっちのほうが違和感があったりもして。今回は違和感なく自分たちのやりたいものをそのまんまで出せたって感じですかね。
八木ただ前回やってもらったプロデューサーの方たちから勉強させてもらったこともたくさんあって。それに今回のエンジニアさんはそのときのプロデューサーさんから教えていただいた人で。そういう経験がすごく活かされて、なおかつ自分たちのものにできたので、そこはすっきりした気持ちですね。
──セルフプロデュースというと、インディーズ的なミニマリズムに逆戻りするんじゃないかと思っていたんですが、そんなこともなくて。とにかく今回のアルバムの音は抜けがいいですよね。
武井そうですね。曲を1曲書くやり方は、ずーっと一貫して同じなんですけど、メジャーになる前ぐらいから宅録に結構こだわってやり始めて。1曲まるまる音像としてしっかり完成させてからメンバーに聴いてもらったんですね。で、自分の中でゴールを見つけてから、あとはメンバーがそれを少し壊してみたり。だから早々に飛び散ることはないし、1曲1曲の表情をみんなが知っている。だからコンセプトじゃないですけど、今回はまとまった1曲をどんどん録っていくってことをしたかったんですね。
──Czecho No Republicというバンドは、音作りにおいては、民主的なバンドなんですか?
武井そうっすねえ。とりあえずは何かを試そうっていう。それこそ前回プロデュースしてくれたいしわたり淳治さんは、「しのごの言わずにまず音を体感して決めよう」っていう派だったんで。とにかく1回は音を体感するっていうのはやってましたね。
──そのやり方は今回も踏襲したと。
武井はい。今回も全曲。
──という意味では、さっきの八木さんが話してくれたように、プロデューサーとの仕事を経たことにも大きな意味があったんですね。
武井そうですね。選択肢をたくさんもらったんで、単純に武器が増えましたね。迷った時は「いしわたりさんが言ってたし」とか「片寄(明人)さんが言ってたし」とか、いろいろ思い出していたんで。
──タカハシさん、制作の雰囲気は前作と比べてどうでしたか?
タカハシ前作はプロデューサーの方に引っぱってもらって、すごくスムーズに「ついていこう」っていう雰囲気でしたね。で、今作はたぶんそれを学んで、やっぱり成長している気がして。メンバーだけでも前作の時みたいな空気感ができたし、その場で「こういう音が良くない?」とか、ドラムの音とかもその場で選んでディスカッションしたりとか。緊張感なくフランクな感じでした。
──この5人のメンバーになって、それなりに時間が経ってますけど、バンドとしての一体感は制作でも生まれていました?
タカハシどうなんだろう。生まれてる気が……する?(笑)
──(笑)。
八木まあ前より。曲に関しても、合宿行って作った曲もあったり。そういう一体感が出てると僕も思いました。
砂川前よりディスカッションをみんなでするようになってきてるんで、そういった意味でひとりひとりのキャラクターが出てきたかなっていう気はします。
「歌えるメロディ」に込めた思いとは?
──あとアルバムについては、今回すごくメロディがいいですね。
武井マジすか? ありがとうございます。
──やっぱりこのバンドって、サウンドとかスタイルが注目されがちなんですけど、僕はCzechoのメロディってもっと評価されていいんじゃないかって思うひとりで。今作でどこか意識したところってあります?
武井誰でも歌えるような曲を多く作ろうっていう気持ちでしたね。難しくはない、みんなで歌える感じが自分の一番の得意分野なのかなあという気持ちもあったし。
──それはライヴとかツアーの経験が大きい?
武井そうですね。ライヴやるとやっぱりみんなが合唱していて。ライヴ行ってほかのお客さんが歌っていると「や、ちょっと聴きたくないんだけど」ってバンドもいるんですけど。
──ははははは。
武井「ヴォーカルの声が聴こえないじゃん」って。ただ俺らの曲は、「オーオー」とか、ある種サッカーの応援曲みたいな、みんなで歌ってこそ意味を持つ曲が多いのかなと思っていて。シンガロングっぽい感じの。そういうのはライヴで映えるし、お客さんありきで完成するんで。別に狙っているわけじゃないんですけど。
──そうですよね。そうやって意識しなくても自然とポップなものができるから、今回のアルバムも、僕はいい意味で節操がないものが出来たと思っていて。
武井いろんな曲を分け隔てなく聴いて愛しちゃうんでしょうね。で、感動した時に、いろんな曲を作りたくなっちゃう。コッテコテのカントリーからコッテコテのエレクトロまで好きな場合、作り手としてカントリーしか作っちゃいけないなんていうルールはないわけで。
──ジャンルでなければ、琴線に触れる自分の中の一番の基準って?
武井やっぱりメロディが1本立っていること、もしくは踊れたり、なんか幸せになる音楽ですよね。でもダークなのも全然好きなんすけどね。
──ちなみに今回のアルバム、単純に前作より売れないと、セルフプロデュースの責任が問われるという、諸刃の剣になりかねないと思うんですが。
武井それヤバいっすね。
八木今気づいた。
──はははは!
武井でもまたプロデューサーに頼ったんだって言われるよりは、「すみません」って言いやすいんで。自分の蒔いた種だから。とにかく、こういうアルバムを1回作っておきたかったんでしょうね。
Czecho No Republicの立ち位置とは?
──ちなみに現在のバンドシーンにおけるCzecho No Republicの立ち位置みたいなものって、客観的にどう分析してますか?
武井そこ微妙なんですよねえ。浮く時は相当浮いているし、かといって洋楽至上主義の洗練されたシーンだとそこでも浮くし。どっちつかずなんですよねえ。でも洋楽だ、邦楽だっていうのが関係なく、ひとつのポップスとして考えると、全然ありだと思うんで。そこは盛り上げたもん勝ちっていう。たとえば6組出るようなハコのイベントだったり、大規模なフェスとかだったり、限られた30分間の中でいかに盛り上げるかっていうイベントだとやり方を考えないと負ける。微妙なんですよね、もう。
──微妙、微妙言い過ぎ(笑)。
武井ワンマンとかだとすぐに対応できます。でも30分でガンガン踊れる曲を出していくっていうのは絶妙に難しいんですよね。「どっちに行きたいの?」って言われた時に、ガンガン無理して踊らせられないんで。だからもうCzechoはCzechoってなるしかないかなと。
──うん。それは今回のアルバムを聴いても思いました。CzechoにはCzechoのマナーと品格があると。
武井うん
──客を踊らせるのも好きだし、楽しんでもらいたいんだけど、でもそこだけでは終わりたくないっていう意地とか品格を、改めてこの音源聴いて思いましたけどね。
八木そういうバンド、少なくなっちゃいましたもんね。
武井うん。それはフェス文化が影響していると思いますけど。ただ、そこに合わないバンドもたくさんいるけど、生き残るにはそこに行かなきゃいけないっていうジレンマもある。
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砂川でもそこは、それぞれがおのれの道を行けたらいいんじゃないでしょうか。
山崎ま、世代もどんどん変わってきてるし。たぶん今の若い世代は、それこそ2000年初頭の音楽に影響を受けてる人が多いから。そういう傾向にあるバンドが多いのかなみたいに僕は思ってたんすけど。