
昨年1月にリリースされた1stアルバム『Sekirara』は実に爽快な作品だった。自分が生きる現実世界に向き合い、人と繋がりを持って生きていく。そして人と繋がることで湧き起こる希望――そんな思いが心地好かった。あれから約1年。今回の3rdミニアルバム『YOUNGSTER』で、ジョゼはまたバンドの可能性をグッと押し広げてくれた。タイトルにも表れているように、溌剌とした「若さ」を力強く歌っているが、その言葉には偽りがなく、どこまでも清々しくてまっすぐに心に響く。焦燥や憂いがどうしても纏わりつく世代にとって、すぐそばに寄り添ってくれる音楽。それを奏でることが今必要だった、その理由を訊いた。
インタヴュー・撮影=石井彩子
今回はずっと、自分のことを考えてましたね。「ここにいるぞ!」っていうものをすごく出したかった
――前作の『Sekirara』でも自分たちを赤裸々にさらけ出していく作業をしていったと言ってましたけれど、『YOUNGSTER』はまた違うさらけ出し方をしていますよね。羽深さんが「人間・羽深創太」っていうものを深く掘り下げていった結果、生まれた作品だなと思っていて。それはなぜかっていうと、歌詞がシンプルなんだけど嘘がないというか、深く刺さるなって感じがすごくしたんですね。
羽深創太(Vo・G) ああ、うれしいです。前作は、相手と自分をイコールで繋ぐような探り方をしてたんですけれども、今回はずっと、自分のことを考えてましたね。歳的に今、インタヴューを受けてる自分は26なんですが、とっくに大人のつもりではあるけれども、やっぱり子どもの羽深創太が存在していて、中途半端な時期というか。まだ全然生意気だと思ってるし、生意気だと思われてるし、でも世間体から見たら大人ではあって。で、そんな自分が次のステップに――音楽的に言うと次のアルバムに進んでいく時に「じゃあ俺はこのタイミングで何を書けばいいんだ」っていうことをすごく考えて、もう一度鏡突き出して自分を見つめた結果というか。
――人間的にもバンド的にも成長してきて、やりたいことを形にできるようになったからこそ、また新たなステップを踏み出すことができたっていうこと?
羽深 自分を題材にせざるを得なかった、という感じが一番正しいかな。『Sekirara』を出した後、新たに違う一歩を踏み出すにはこのタイミングだと思ったので。マンネリがあまり好きじゃなかったんですね。今まで出したCDでも変わったことをやり続けてきてはいるんですけれども、やっぱり長く音楽をやりたいんで。でもその一歩をどこに踏み出せばいいのかっていうところにすごい時間かかっちゃって。結果、「自分」ってことなんですけれども……まだ僕らのことを知らない人たちって、もちろん歌詞を書いてる僕のことも知らないわけじゃないですか。だから、まずそれを知ってもらうにはどうすればいいんだ?と。だから言葉がシンプルになったり、シンプルでわかりやすいけれども、ちゃんと意味がある言葉というか、それを探してたんだと思います。もしかしたら、『Sekirara』と同じようなことは続けてできたかもしれないんですけど、それを選ばなかったんですね。攻撃的にじゃないけど、力強さっていうのがポイントだと思って。
――その自分たちの若さの強みっていうものを、なぜこのタイミングで出したかったんでしょうね。
羽深 「まだ、やれるぞ!」「ここにいるぞ!」っていうものをすごく出したかったんですね。今となっては、いろんなミュージシャンがいるからあまり歳とかは関係ないとは思ってるんですけど、昔憧れていたミュージシャンって、もう僕らの歳で相当先まで行ってるんで……となると、変な見方ですけど、ちょっとクロウトな音楽に走っていきそうな時期ではあるんですよ。でももっといろんな人に知られたいから、そっちに行くのは早いなと思って。まだ自分の中でもがきたいというか、それがすごく強く出てると思います。
――じゃあ結構苦しい作業だった?
羽深 苦しかったですね。聴いてもらう人に、苦しかったって言いたくないんですけど、ゼロから何をやるかっていう、ゼロからイチの間ですごい時間かかったんで、苦しかったですね、ほんとに。設計図がほぼない状態で作業を進めていったので、完成がどうなるかとか、「ああ、こういう作品だな」って思えるのは相当後だったんで、ちょっとドキドキしましたしね。
――それってある意味、バンドが今まで積み重ねてきたものを一度ぶっ壊したというか、更地にしたっていう感覚なんですかね。
羽深 その感覚は大きいかもしれないですね。今回初めてプロデューサーを迎えてレコーディングしたんですけれども、根岸(孝旨)さんに無駄なところとか理論的に間違ってるところを言ってもらえて。それこそスタジオワークから入ってもらって、コードを変えていったりメロディを構築していったんで、スタッフも含めて、ジョゼチームで作った作品っていう思いがありますね。もともと僕は曲を作っていく上で、バンドが思いもよらぬ方向に行くことが楽しいと思うんですよ。それがすごく体感できた日々というか。でもすっごいスリリングでしたけどね(笑)。
――(笑)自分が思い描いてるものでさえも超えていく感じ?
羽深 そうですね。別の方向に行ったりとか、「ああ、こんなふうになったか!」っていう。そう思えることを、その時すごい望んでたんですね。
中神伸允(Dr) 音楽的な目線からしっかりと、僕らの音楽を聴いてこう思ったっていうふうに言っていただいた経験が初めてだったので、それこそ各々が気づかなかったこととか、伝えてるつもりが実は伝わってないんだなっていう発見もすごくあったと思います。
羽深 ちゃんと全部を分解してくれたよね。今まで自分たちの中身を知るのが、なんとなく怖くて避けてたんですけれども、それを隅々まで、全部のネジを取って分解してくれて……あとちゃんと叱ってくれて。
中神 はははは。
羽深 もう一回全部ネジ締め直して、ちゃんと土台を作ってくれたっていう感じですね。
――きっとそこには生まれ変わった感がすごいありましたよね。
羽深 そうですね。今までやってきたことは決して無駄ではなかったんですけれども、今後、荒波に飲まれないように、雨風に負けないように、強くセッティングしてくれたというか、そういう気持ちは大きいですね。
自分の身にまとってるものを全部引き剥がした後「何で闘えるんだろう?」って常に考えていて。そこで出てくる言葉が、嘘偽りのないまっすぐな言葉だった
――吉田さんはどうですか?
吉田春人(B) 根岸さんってもともとベーシストで、今回曲を作る時に自分がこういうフレーズを作りたいって思ってもなかなかそれをうまく言葉にできなかったり、音にできなかった時でも、すぐに汲み取ってくれて「こういうことでしょ?」ってパッと弾いてくれるんですね。さらに言うと、例えば3人でアレンジで煮詰まってる時に「これはこうなんじゃない?」ってポーンって弾いて、自分たちが言葉や音にできなかったことをすべて通訳してくれて。もう、発見の連続でしたね。
――根岸さんは通訳でもあり、3人の潤滑油にもなったっていう。
中神 そうですね。端的に言うと、いつも3人だけで曲作る時は「おまえが悪いよ」「いや、おまえが悪いよ」「いや、俺合ってるし」みたいになるんですけど、根岸さんが来て「いや、全員間違ってるよ」って。
全員 はははははは。
――3人ともバッサリ(笑)。
羽深 でもほんとそう。
中神 俺ら、「ああ!」みたいな。
羽深 音楽に正しいとか間違いとかはないんですけど、そもそも、おまえたちはこれを知った上でちゃんとそれをやってるのか?っていうことを言ってくださって、楽曲がどう良くなっていくのかっていう方法論をいくつも提示してくれたから刺激的でしたね。根岸さんとのファーストコンタクトの時、ほんとに初対面だったからすっごい構えちゃって、こんな大御所の前でどんな演奏してももうヤバいだろう、みたいな思いもあったんですけど。でも歌を届けたいっていう気持ちが今すごくあるっていうことを汲み取ってくれた瞬間に、根岸さんがいっぱい提示してくれて。だから、歌モノへの覚悟を今一度できたというか。
――たしかに、ひとつひとつのメロディがすごく強いなと思って。あと、1曲ごとに曲調も全然違うけれど、羽深さんの歌い方がまたひとつひとつ変わっていて、だからこそメロディの強さが際立っている。例えば“GUILTY”の柔らかいメロディの中で、≪死にたくないなと涙が溢れてきた≫≪誰かに生かされているだけ/この世界は 素晴らしいかな≫っていう言葉を切なく歌い上げていて。今までにもグッとくるメロディに繊細な歌詞を載せる歌はジョゼの中にもあったんですけど、まったく違うものになっている。
羽深 たぶん、人間臭さがすごく出たと思うんですね。なんていうか、リアリティって言うんですかね、泥臭くなって歌った時が一番、そういう美しさが出るのかな?って歌ってる時に思って。今までそういうテンポの、そういう雰囲気の曲はあったと思うんですけれども、そこが歌詞との掛け算にもなってて新しいんだと思います。
――“GUILTY”だけじゃなくて、“ハートソルジャー”の≪足跡の数を数えてる暇などないだろう≫とか、“パステルカラー”の≪汚したいな汚したいな/綺麗すぎた恋心≫とか、アルバムの節々に今までにない泥臭さが感じられますしね。
羽深 ロックですよね――ロックの定義ってわかんないですけど、「男らしさ」っていうのもあると思うんですね、自分の中で言うと、ファンタジーみたいなものでリアルを包み込むとふわっとするじゃないですか。今回はあえてそういうことをあまりしたくなくて。自分の身にまとってるものを全部引き剥がした後「何で闘えるんだろう?」って常に考えていて。そこで出てくる言葉が、嘘偽りのないまっすぐな言葉だったんじゃないかと思いますし、間違いなく「生(せい)」を歌ってるアルバムだなと思います。メロディは僕、得意なんで(笑)、今までどおりの感覚で作っていったんですけれども、歌詞は圧倒的に今までどおりの感覚じゃなかったんですね。何回もミーティングを重ねて――みんなの反応が今回一番気になって、べつにビビってたわけとかじゃなくて、俺がこういうことを歌ったらどうかな?とか、みんなの意見が知りたかった。でもやっぱり結局は自分だったんで、そこは一皮むけたというか、自信を持てました。だからみんなと作っていけて本当によかったなと思います。
中神 それこそ「こうしたほうがいい」とか、歌詞についての根本からのアドバイスをもらうのは初めてだったと思うので、そういう意味では、歌詞を作る根岸さんとの過程も、僕は見ててすごくおもしろかったし。リード曲の“ハートソルジャー”の≪立ち上がれ≫も、自分に対して言ってる言葉でもあると思うんですけど、あきらかに相手がいる上でのそういう言葉、しかもサビの一番伝えたい部分でそういう言葉が出てくるのって、思い起こしてもほぼないんですよね。だから、そういう曲がリードになっていろんなところでみんなに聴いてもらえるっていうことは、バンドとしても進化してるというか、違う一面も見てもらえればなっていう思いはすごくありますね。