J-POPとダンス・ミュージックの
幸福な関係

1980年代から現在に至るまで、ミュージシャンとして、プロデューサーとして、数々のプロジェクトでジャパニーズ・ポップシーンを牽引し続けてきた小室哲哉と、インターネットを表現のベースにして出発し、クラブ・ミュージックとJ-POPの歴史を斜め切りにしつつ新たなポップ・ミュージックを提示するトラックメイカーtofubeats。世代的には「僕の父親よりも歳上」(tofubeats)というふたりによる初の対談が実現した。ともにアグレッシヴに自らのフィールドを押し広げながら常に「J-POP」という視点に自覚的であり続けるクリエイターたちの会話は、お互いの音楽観から世代論にまで及んだ。

司会:小川智宏 撮影:吉場正和

僕が音楽を始めた時にはもういっぱい小室さんの曲が世の中にすでにあった(tofubeats)

tofuくんって、僕からみたら第4世代っていう感覚なんですよ(小室)

――tofubeatsさんにとって小室さんはどういう存在ですか?

tofubeats 僕が音楽始めた時にはもういっぱい小室さんの曲が世の中にすでにあって。ほんとにレジェンドっていう感じですね。

小室哲哉 いやいや(笑)。90年生まれですよね?

tofubeats 90年生まれです。前、1回VISION(渋谷のクラブ)でご一緒した時、きちんとご挨拶できなかったんですけど、あの時にライヴを観て、正直言うと(小室は)父親より年上なんですけど、それでなおああいうバキバキのサウンドをやってらっしゃるのを観てて、ほんとにすごいかっこいいなって。すごい尊敬している大先輩っていう感じですね。

小室 ありがとうございます。

――逆に小室さんは、tofubeatsという名前はご存知でしたか。

小室 わかんなかったですね。僕よりもさらに上にもシンセサイザー世代の先輩がいるんですけど、僕を基準にすると……何さんって呼べばいいのかな?(笑)。

tofubeats あ、「tofuくん」とかで(笑)。すいません、なんか(笑)。

小室 tofuくん(笑)。tofuくんの場合だと、僕から考えたら第4世代なんですよ。

――3世代下っていうことですか?

小室 そう、ジェネレーションでいくと。っていう感覚なんですね。1個下が浅倉大介とかT.M.Revolutionとかの感じなんですよ。2つ下が(中田)ヤスタカとかなんで、その1個さらに下という印象。数曲なんですけど聴かせてもらって、ビデオも観せてもらったんですけど。TM NETWORKがいた当時のエピック、エピックの初期ってすごくとんがってたんですけど、その時のアーティストの印象に近いものを感じましたね。佐野(元春)さんとか岡村(靖幸)くんとか、ああいう人たちに近いものを。

――3つ下の世代がやっていることを小室さんの目から見ると、どういうふうに映るんですか?

小室 相当違うような気がするんですけど、でもひと回りしてるのかわからないんですけど、自然に耳に入ってくるグルーヴ感だったりとか、ギターのカッティングみたいなのも、生か生じゃないかは置いといても、プリンスっぽさを感じて、そういうのに影響受けてるわけないよな、とか(笑)。

tofubeats でも、プリンスすごい好きです。

小室 そういうものとか、要所要所に僕らがオンタイムで聴いている部分を感じる場所はたくさんあるので、違和感はまったくないですね。どっちかって言うと1個前の第3世代のほうが、これからどんどんかけ離れていくんだろうなという気はしたんですけど。いいところをピックアップしてるんじゃないかな。前のほうの時代、70年代、80年代、90年代の。

――逆にtofuさんは小室さんの作品に90年代からずっと触れてこられた中で、どういうものを感じて、どういうふうに影響を受けてきたと思いますか?

tofubeats やっぱりシンセサイザーとか、あと僕(H Jungle with tの)“WOW WAR TONIGHT”すごい好きなんですよ。ジャングルを噛み砕いて人々が聴ける状態にするみたいな、そういうところが全部に亙って ってあるというか。今日(この対談は2014年12月30日、TM NETWORKとtofubeatsが出演したCOUNTDOWN JAPAN 14/15の会場で行われた)のTM NETWORKでもバンドでやってて、シンセサイザーをクロックで同期して、でも実際全部動いてて、それでお客さんにポップな形でかっこよく伝わるみたいな、クラブミュージックとかマシンミュージックの手法をJ-POPのリスナーの人にわかるようにするみたいなことって、自分もゆくゆくできたらいいなと思ってるところなんで、それを実現してらっしゃるなっていう。

小室 ありがとうございます。

J-POPはJ-POPっていう、ちょっと聴いただけでわかるものに育っていくといいなと思っていた(小室)

「ULTRA」が日本に上陸したりとか、そういうのに対して自分がどの立場で回答するか、みたいなのはまだわからないところがある(tofubeats)

――今tofuさんがおっしゃった「J-POP」っていうのは、すごくお二方にとって大きなキーワードだと思うんですね。それこそ小室さんが作られたJ-POPのフォーマットっていうのが今に至るまでずっと影響を及ぼしてきていて、それに影響を受ける形でtofuさんが今クリエーションを行っているっていうところもあって。小室さんはJ-POPっていうワードを頭に思い浮かべた時に、どういうイメージですか?

小室 うーんと、そうだな……。なんとなくその言葉が世の中に浸透してきた頃に、行く末はJ-POPというものがひとつのジャンルでグローバルなものになっていけばいいのになという感じでしたね。J-POPはJ-POPっていう、ちょっと聴いただけでわかるものに育っていくといいなと思っていたので、あんまり欧米のポップミュージックにとらわれないもののままで止まっててほしいなっていうのがどっかにあって(笑)。ちょっといびつっちゃいびつなんだけれども、いびつなところがまた面白いのかなっていう。一番比較しやすいのがK-POPって言われてるもので、日本を飛び越してハリウッドまで行ってしまうというかな。音圧から何からいろんなものをすべて向こうの基準に合わせる、みたいなのとは違うっていう。良くも悪くも、やっぱり(電圧)100ボルトの音楽というか、そういう感じなんですよね。

tofubeats (笑)。

――小室さん自身、海外でも活動されている中で、いわゆるJ-POPというか、日本的なるものを意識しているところもありますか?

小室 ありますね。日本語っていう要因が大きいんですけど、ダブルミーニングとかっていうのがなかなか難しいんですね、特に英語と比べて。そのぶん、それなりに説明しなきゃいけないっていうところで、向こうはヴァースとコーラス、いわゆるAメロとサビっていうことでひとつ完結するけど、日本語だとBメロで何かしら情景か状況か、何かを多少補足説明しないといけないっていう。でもそれがひとつのスタイル、さっきフォーマットっておっしゃいましたけど、それがJ-POPのひとつのスタイルにもなっているので。さらに今の世代にとってはBメロっていうのは非常に大事だったりとかして(笑)、Bメロでどうやってサビまでの助走をつけるか、みたいな。洋楽と言われるものと比べたら、明らかにワンコーラスが長いので。

――tofuさんは、ファーストアルバムのタイトルからしても宇多田ヒカルの影響を受けているとか、あれは非常にJ-POPなアルバムだなと思うんですよね。いわゆるJ-POPの「形」に対して非常にこだわりを持っているのかなと思ったんですけども。

tofubeats 逆に僕はこれまではほんとにクラブミュージックを真面目に作ってたので、メジャーに行くちょっと前ぐらいからJ-POPっていうフォーマットでどのくらいできるのかなとか、自分の好きなクラブミュージックとかとJ-POP的な――さっき小室さんがおっしゃってたフォーマットみたいなところも、ワンコーラスにどうしても1分40秒、50秒かかってしまうから、そういうのとどう折り合いをつけるのか、みたいなのはこのアルバムには入ってはいますね。

小室 とにかく21世紀、シンプルにシンプルにというか、世の中に氾濫するものはとにかくポップでシンプルで簡単なもの、すごく楽なものっていうところにどんどんどんどん行きがちだったような気がして、僕もそっちにちょっと乗っちゃったところもあったりもしたんですけれども。それとはまた全然違う、アニメみたいなものだと簡単に解読できないような難しいストーリーが、伏線とかたくさんあるものが海外でも受けていたりとか、そういったものも一方では進んでいて。だから音だけがどんどんポップというか、イージーなほうに行っているんです。ちょっとシンプルにい行にうって、行きすぎちゃった感はありますね。でもこれは結構葛藤があって、僕もDJとかクラブの状況もなんとなくわかっていて、J-POPっていう立ち位置もわかってる、両方ともなんとなく理解はしているほうなんで。クラブミュージックは難しくてはダメなんですよね、どうしても。難しいこと考えさせにクラブに来させてるわけではないから。だから何も考えなくてよくて身を任せればいいっていうものと、考えたほうが面白いっていうものとの折り合いですよね。クラブミュージックの部分では、これからフェスとかがどんどん日本に上陸してきますよね。その時にJ-POPがどういうふうにいればいいのかなっていう。一時期はちょっとした鎖国のような感じで、J-POPがクラブシーンにもそのまま通用した時もあるんですけど、またこの1、2年で黒船来襲ではないですけど、日本にもほんと遅ればせながらっていう感じで来出してるので、それに対してすごい強い力でJ-POPというものを押し出していかなきゃいけないんだと思うんですけどね、本当は。

tofubeats 僕はどっちにもどっちの要素も持ち込めたらいいなとは思ってるんですよ。前、BBCの番組とか出た時とかは、逆にJ-POPをクラブの番組に放り込んでみたりとか、逆にこっちでやる時は、今日のライヴでもそうなんですけど、大きいハコでやるし、音源には入ってない、クラブミュージック的な、ボディソニックみたいな感じでキックを実は足してたり、そういうどっちにも――僕はまだ結果としてどっちにするかっていうのは決めかねているところもやっぱりあって。「ULTRA」(マイアミで開催されているエレクトロニック・ミュージック・フェス。2014年に「ULTRA JAPAN」として日本初開催)が日本に上陸したりとか、そういうのに対して自分がどの立場で回答するか、みたいなのはまだわからないところがあります。まさに僕と同世代のDJが「ULTRA」に出る、出ないとか言ってるんで、ちょうど20代の僕の友達とかが。それはやっぱり人それぞれで、その中でどういうふうにするかっていうのはやっぱり難しくて。逆にそこで知恵を使って第3の道とかもあるのかもしれないし、そこをうまいこと融合できれば。

小室 そうですね。僕の場合は、これまでの作品で使い分けの手順みたいのは、少しはすでにちょっと心得出しているというか。フィーチャリングが一番わかりやすいと思う。フィーチャリングの人によって使い分けたりとか、そういったテクニックみたいのは、もう少しずつわかってるんじゃないのかなあって。EDMとかの人たちは、フィーチャリングの人で向こうでのいわゆるポップのほうを攻めて、クラブとかの時にはそういうの関係なく、もっと違うもので楽しませたりとかっていう、さらにもう1個先の違うところで住み分け出して、できあがっているので。たとえばAfrojackとか、一番でかいステージの時は、めちゃくちゃそういったフィーチャリングヴォーカルとかでわかりやすいものをやるんだけど、小箱ではディープ・ハウスみたいな自分の好きなものをかけたりとかしてて、その住み分けがはっきりできてる。そこまでまだ日本は成熟してないのかなっていう気はするし、常にずーっと真ん中っていうのはなかなか難しいと思う。自分のストレス解消じゃないけれど(笑)。

tofubeats まあ、でもそれはありますよね(笑)。

小室 tofuくんたちの世代がそういうふうになってくれればいいんじゃないのかなと思うけど。AviciiやZeddやAfrojack、みんな同じ世代だしね。

tofubeats あと、お客さんもそういうのに全然免疫があるっていうイメージがすごいありますよね。

小室 そうだね。アーティストがせっかくこれもやりたい、あれもやりたいって思ってるのにやれない状況が変わって、これもやるしこっちもやりたい時はやれるっていうような環境がどんどんできあがっていくといいと思いますよね。

ネットの中でもすごく庶民的なものからマニアックなものまであるので、アウトプットによって住み分けをするみたいなところはあります(小室)

僕にとってはテレビはよそ行きで、ネットは地元みたいな感じなんです(tofubeats)

――小室さん自身、いろんなフォーミュラにおいて表現をされてきているじゃないですか。今日はTM NETWORKでご出演いただきましたけど、当然ご自身の名義でもやるし、プロデュースもされてますし、そういう部分ではどういうバランスなんですか?

小室 TM NETWORKの場合はちょっと違って、やっぱり自分を育ててくれたグループ、自分をここまで引っ張ってきてくれたグループっていうところでちょっと特別な位置にいるので。TMはJ-POPですからっていうことではないんですよね。なので、楽曲提供であったりプロデュースであったりとか、もしくは地上波とネットで分けるみたいな。

tofubeats 小室さん、確かに『HEY!HEY!HEY!』とかに出ている時と、Twitterでおっしゃってたハイレゾの話とか見てると、まさにそうやって分けていますよね(笑)。

小室 そうですね(笑)。まだ地上波っていうのは強いと思うんですよ、やっぱり。なんだかんだ言って。ポップスも含めて、それがやっぱり日本なのかなって思うし。一方でネットの中でもすごく庶民的なものからマニアックなものまであるので、そこで住み分けをするみたいなところもありますし。たぶんアウトプットによってだと思うんですよね。

――tofuさんの場合はどうですか? アウトプットの住み分けというのは。

tofubeats 僕はまだそんなにひと通りやってないっていうのもありますし、それこそ違いもあるけど、テレビとインターネットということでいえば、今の僕らは昔ほど大きい違いを、たぶん感じてないのかな。僕はネットに曲をアップするのがキャリアの最初なんで、だからテレビはよそ行きで、ネットは地元みたいな感じなんですよね。

小室 確かに今はそれがきれいに分かれてるわけではないよね。地方で地上波しか映らないんだけど、Facebookはコミュニティとしてすごく活用されてたりとかするので。Instagramをみんな使ってたりとか、だけどメディアは地上波だったりとかっていう。

tofubeats そうですね。あとネットもFacebookは地方の人も使ってるけど、Instagramは意外と地方の人はそこまで使ってないとか、そういうベロシティの違いもあって。

小室 うん、そうなんですよね。だからネットはネットで音楽のジャンルみたいな、いろんなアウトプットの使い方が今、混沌としてるっていうか。

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