ニューエイジ・ポップ・ユニット「Maison book girl」、アルバム『image』を語り尽くす!

昨年の11月にメジャーデビューして以降、着々とファン層を広げているMaison book girl。待望のメジャー1stアルバム『image』は、刺激的な音楽を欲する人にとっての必聴盤だ。音楽家・サクライケンタが楽曲制作、総合プロデュースを手がけて生まれた世界には、現代音楽とモダンアートの香りが濃厚に渦巻いている。多用される変拍子、斬新な展開、ミステリアスな旋律、ユニークなダンスパフォーマンス……尖鋭性に満ちた表現スタイルでありつつ、J-POPのど真ん中に飛び込み得るキャッチーさも実現したこのような音楽は、おそらく世界中のどこを探してもないだろう。メンバーの矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミが、完成したアルバムについて語ってくれた。
一般的な「かわいい」ではないけど、最近のブクガはそういう部分も出てきた(矢川)
――このアルバムにどういう印象を抱いていますか?
コショージ 春っぽい感じがしました。でも、明るい春というよりは、ちょっとふわふわしたイメージなのかなと思います。
井上 あまり尖っていないというか。でも、ブクガらしさは出ていると思います。
――“cloudy irony”という曲があるくらいですし、曇り空とか靄がかったイメージがブクガには一貫してありますよね。
コショージ そうですね。煙っぽい感じもありますし。
――「明るさ」とか「柔らかさ」は、これまでのブクガの曲を聴いてきた人たちの大半も『image』に対して抱く印象として挙げると思います。プロデューサーのサクライさんの中で何かが変化しているんでしょうか?
井上 どうなんですかね? でも、最近、新曲ができる度に、前とは違う雰囲気を感じます。“faithlessness”が送られてきた時は、「サクライさん、やばい状態なのかなあ」って4人で心配したんですけど(笑)。
――(笑)。“faithlessness”は、去年からライブでやっていますね。
矢川 はい。あと、“blue light”は、『summer continue』(昨年3月にリリースされた1st EP)にも入っていた曲です。
――“sin morning”もライブで聴いたことがあります。
コショージ “sin morning”は“faithlessness”の次にできた曲です。
――“sin morning”辺りから柔らかさが出てくるようになったのかも。
和田 そうかもしれないですね。味わい深いキャッチーさが出るようになっているのかなと思います。
矢川 メロディも弾むような感じが増えています。「やっと私がずっと聴いていたようなタイプのメロディを作ってくださったな」と感じているんですけど(笑)。
――加入前にサクライさんに「Perfumeみたいな」とブクガの方向性に関して言われていて、いざ活動が始まったら「全然違う……」と思ったんですよね?
矢川 はい。「デートのこととか歌ったりしないし、全然かわいくないなあ」と思っていたんです(笑)。一般的な「かわいい」ではないですけど、最近のブクガは、そういう部分も出てきたと感じています。
――みなさんのパフォーマンスも、どんどん磨かれていますね。最近のライブを観ると、かなり練習をしているんだろうなと感じるんですけど。
井上 悲鳴を上げながらやっております。
和田 どうにかなりそうなくらいです。
矢川 「イーッ!」ってなりますから。
コショージ ブクガはそういう悲鳴の下に成り立っているんです。
井上 「血の滲むような」とは、このことではないでしょうか(笑)。
――(笑)。4人が表現することによって、もともとかっこいい曲にさらに立体的な味わいが加わっていますね。
コショージ 今回のアルバムの曲から特に感じたんですけど、サクライさんが作る楽曲が私たちの側に寄ってきているところもあるのかもしれないです。それもあって、より立体的に表現できるようになっているのかなと思います。例えば「かわいらしさ」というのも、メンバーから出てくるものと、楽曲が私たちに寄ってきたことで醸し出されているもの。その両方があるのかもしれないですね。
矢川 自分自身もブクガに染まってきていますし、そういうのもブクガ全体の変化に繋がっているのかもしれないですね。「ダンスがあまり得意ではない自分なりにこの曲に追いつかなきゃ」という意識も出てきています。4人が必死でやることによって、クールな曲に熱をこめられているのかもしれないです。
コショージ サクライさんはあまりいろいろ言うタイプではないので、自分たちで考えるしかないというのも大きいと思います。
――曲のイメージや歌詞の説明とかは、あまりしない人ですよね?
コショージ そうですね。自分たちで考えています。イメージしていることは4人それぞれで違うかもしれないですけど、それも含めて「ブクガ」になっているんじゃないでしょうか。
和田 ボイトレの先生が、歌詞を噛み砕く時間をくださることがよくあるんです。そうやって考えたことをもとにして声色を変化させる表現方法も覚えたので、私たちの感情が、より楽曲にこもるようにもなっているのかもしれないです。
井上 前まではサクライさんが作った楽曲がメインで、私たち自身はどこが正解なのかよくわかっていなかったんです。でも、いろんな経験を積んでいく中で、どういう世界を作っていけばいいのか、進む方向がわかってきたのかなと思います。
「ブクガ」という世界の中でいろんな曲ができているのが面白い(井上)
――ブクガの曲は、想像を無限に広げられる楽しさがリスナーの我々側にもすごくあるんですよ。例えば《時計台》が今作に収録されている“sin morning”と“blue light”、昔の曲の“my cut”(2015年9月にリリースされた1stアルバム『bath room』に収録されている)にも出てきたり、川や雨みたいな水のイメージがいろんな曲に散りばめられていたり。曲同士が関連があるように感じられるのも面白いんですよね。
コショージ たしかに、同じモチーフがいろいろな曲に出てきますよね。例えば《夏》が出てくると「あの曲と同じ夏なのかな?」とか、私もよく考えています。
――でも、サクライさんは、曲同士の関連性についても説明はしないですよね?
井上 説明はないです。
和田 「同じ出来事をめっちゃ元気な時に思い出して作ったのがこの曲で、こっちは元気じゃなかった時に思い出して作ったのかな」とか想像したりしています。
――例えば、“faithlessness”の《裏切られて。裏切るの。》、“snow irony”の《許さない許さない許さない許さない許さない》、“cloudy irony”の《許せない過去とか》も、リンクさせながら想像する人が結構いるんじゃないでしょうか。
井上 「同じ世界の中で、見る角度が違う」みたいなことなのかもしれないですね。「ブクガ」という世界の中でいろんな曲ができているのが、面白いなと私も思います。
――RPGって、ひとつの世界があって、プレイヤーによっていろんな角度から世界を見られて、様々な物語が展開するじゃないですか。そういう感じなのがブクガの曲なのかも。
井上 RPG感? それいいですね。
和田 そういえば、たまに「ゲームっぽい」と言われることがあります。
矢川 RPGっていう感覚、しっくりきます。でも、私はRPGよりパズルゲームのほうが好きなんですけど(笑)。
――(笑)。ひとつの大きな世界を旅するような感じになれるというのは、ブクガの独特さを語る上で欠かせないポイントだと思います。
和田 「誰が何をした」みたいなことが歌詞に描かれているわけではないんですよね。だから「どういう曲ですか?」と訊かれても、なかなか一言では答えられないんですけど。
――アルバムタイトルが『image』なのも、イメージを無限に膨らますことができる曲が詰まっている作品だからかも。
コショージ 「image」って、「虚像」というか「原形がない」みたいな意味もあるようなんです。今回の私たちのアーティスト写真も、はっきり顔が写っていないですし(笑)。CDのジャケットにも私たちはいないですから、ブクガにぴったりの言葉なのかなと思います。
井上 アー写に関しては、好きなタイプの顔をイメージしながら眺めて頂ければと(笑)。