マリリン・マンソンの最新アルバム『ザ・ペイル・エンペラー』における要注目ポイントは、共同プロデューサーにタイラー・ベイツを起用したことだ。ベイツは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』をはじめ、ジェームズ・ガン監督の作品でスコアを担当してきた映画音楽作家で、他にもザック・スナイダーやロブ・ゾンビといった現在のハリウッドにおける俊英たちの作品で手腕を発揮してきている。2012年にマリリン・マンソンとロブ・ゾンビの共同ツアーが行なわれたので、その辺りから縁ができたのかもしれない。さらに、マリリン・マンソン脱退後はロブ・ゾンビのバックを務めているギタリストのジョン5がレイナード・スキナードに参加したり、遡ってロブの映画『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』のサントラ(※スコアはベイツが担当)でカントリー/ブルース/サザン・ロック系の楽曲がフィーチャーされたことなどにもヒントを得たのか、『ザ・ペイル・エンペラー』には、アメリカ南部風のテイストが感じられる。特にその要素が色濃く出たボーナス・トラック3曲は、新鮮かつ出色な出来映えだ。今作の音楽面を手がけたベイツは、マンソンが過去に築き上げてきたイメージを活かしつつ、南部のサウンドを巧みに取り入れ、全体的なプロダクションをブラッシュアップすることに成功。その結果、ヴォーカルの表現力がググッと増した印象を受けた。キャリア25年を経て、再び確かなステップアップを果たしたと評価できる作品と言えるだろう。

さて、ここではマリリン・マンソンの歴史に大きな役割を担ってきた、過激かつ独自の美学に貫かれたビデオ・クリップを振り返りながら、この希有なアーティストを形作る重要な要素を再確認していってみたい。

※なお、言うまでもなく以下にリンクしたビデオには、不快に感じる映像が含まれている可能性があるので、くれぐれも充分ご注意のうえ御鑑賞ください。

(文=鈴木喜之)

マリリン・マンソンを形成する最重要ファクター9

新潮流インダストリアルの旗手

マリリン・マンソン初のスマッシュ・ヒットとなったのは、ユーリズミックス"Sweet Dreams (Are Made of This)"のカヴァーだった。80年代ブリティッシュ・ニューウェイヴのルーツを活用しつつも、後年にやったデペッシュ・モードやソフト・セルの安直なカヴァーと比べて、まさに「悪夢」ヴァージョンと呼べそうな秀逸なアレンジが施された同曲は、ビデオも含め、それまでのインダストリアル・ロックやヘヴィ・メタルとはまた違う世界観を持ったアーティストの出現を示すには最適だったと言えるだろう。1995年にアメリカまで出張した時、とにかく現地のMTVで流れまくっていたことをよく覚えている。未だグランジ/オルタナティヴの衝撃さめやらぬシーンが、新たなる異形のカリスマ誕生を受け入れる準備は整いつつあるという空気をビシビシと感じた。

“Sweet Dreams (Are Made Of This) ”

アメリカン・カルチャーにおける異形のアイコン

翌1996年、満を持して発表した一世一代の傑作セカンド・アルバム『アンチクライスト・スーパースター』からのシングル"The Beautiful People"は大ヒットを記録。美しき人々=セレブリティを頂点にヒエラルキーが築かれ、ピカピカと小綺麗なイメージばかりで現実を塗り固めていくことをよしとする社会に向けた、虐げられた醜い者からの強烈な憎悪の叫びは一気にセンセーションを呼び起こし、社会不適合者予備軍として不安に苛まれる日々を過ごす者たちから、マンソンは圧倒的な共感と支持を得た。この曲の歌詞にある「資本主義がその道を辿れば、往年のファシズムが復活するだろう」という言葉は、今なお(アメリカを見習って経済を優先させようとしている別の国でも)リアルに響くはずだ。

“The Beautiful People”

秀逸な言葉と映像のセンス

一躍ミュージック・シーンのトップに躍り出たマンソンは、1998年に『メカニカル・アニマルズ』をリリース、当然のように全米チャート初登場1位を奪取した。ここでも「ロックは死よりも死んでいる」「俺はドラッグを嫌いだが、ドラッグが俺を好きなんだ」など刺激的で気の効いたフレーズを作り出し、それに加えて、オメガとかコーマ・ホワイトといったキーワードを用いた意味深なコンセプトを提示。さらに視覚的な演出においても傑出したセンスを見せ、総合的な自己表現の才能を完全に確立した。ちなみにマンソンは、絵画を描いたり、「セレブリタリアン・コーポレーション」と名付けた芸術作品の展示などの活動も行なっている。

"I Don't Like the Drugs (But the Drugs Like Me)"

過激を極めたステージ・パフォーマンス

そして、その音と言葉と映像のセンスは、やはりライヴの場において何よりも凄まじい効力を発揮した。独裁者然とした風体で聖書を引きちぎり、奇妙な竹馬で舞台上を練り歩き、ドサドサと大量の紙吹雪を降らせるなどなど、よくよく考えてみれば、それほど大掛かりではない仕掛けも、ひとたびマンソンが使えば見る者に強烈な印象を与える道具となり、オーディエンスはたちまちのうちに興奮の坩堝へと叩き込まれていった。

"Antichrist Superstar"

VS宗教

マリリン・マンソンの作品から溢れ出る反社会性は、当然のように「良識派」と呼ばれる人々、特に一部のキリスト教団体とそこに属する信者たちから激しい非難と攻撃を浴びる事態を引き起こす。つい先日もロシアで、ライヴ会場を爆破するという脅迫を受けて公演が中止に追い込まれる事態が起きており、彼の表現が飽きられるどころか、今なお恐れられている状況があるのだと実感させられた。マンソンの闘いはまだまだ続いているのだ。"Disposable Teens"では「俺は真の神を憎んだことは実は一度もない/だが、あいつらの神は大嫌いだ」と歌っている。

“Disposable Teens”

他アーティストとの共演

関連人物としては、すでに絶縁状態が長らく続いているとはいえ、マリリン・マンソンを見出し、世に送り出した張本人として、やはりナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーは外せない。NINが2000年にリリースした"Starsuckers, Inc."のビデオ・クリップでは、いったん関係性が悪化した両者が一時的な雪解けを見せたことで、マンソンが共同監督を務め、出演も果たした(※NINのビデオに登場するのは"Gave Up"に続いて2度目)。マンソンを含め当時トレントと微妙な関係にあった人たち──フレッド・ダースト、ビリー・コーガン、そしてコートニー・ラヴなども出てくる(?)この映像作品、いま見返すと当時のトレントが精神面・肉体面ともに、かなり良くない状態にあったことがあらためて分かる。

Nine Inch Nails - “Starsuckers, Inc. ”

その他のアーティストとの客演に関しては、レディー・ガガの"LoveGame"(2009)、スカイラー・グレイの"Can't Haunt Me"(2013)、アヴリル・ラヴィーンの"Bad Girl"(2013)など、自身の曲に刺激を加えたい女性シンガーによってスパイスのように使われるケースが多いかもしれない。エミネムとも2000年に共演している。

Avril Lavigne ft Marilyn Manson - “Bad Girl”

映画作品との関わり

視覚的な演出に優れた才能を持つマンソンだけに、映画作品との相性は悪くない。サントラへの楽曲提供は数多くあるが、特に有名なのは『マトリックス・リローデッド』のサントラに提供された"This Is the New Shit"(2003)だろうか。

"This Is the New Shit"

また、2004年にリリースされた初のベスト・アルバム『レスト・ウィ・フォーゲット~ベスト・オブ・マリリン・マンソン』のプロモーション用に作られた"(s)AINT"のビデオは、『サスペリア』や『フェノミナ』であまりにも有名なホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェントの実娘で女優のアーシア・アルジェントが監督を務めたが、その極めて過激すぎる内容のため、所属レーベルからリリースを拒否されている。

"(s)AINT"

なおマンソンは、デヴィッド・リンチ監督の『ロスト・ハイウェイ』(1997)で銀幕デビューを果たして以降、少しずつ俳優としても実績を積んできているので、今後そちら方面での活躍にも期待しよう。

プライベートと作品の相互作用

マンソンは2005年にモデルのディタ・フォン・ティースと結婚、結婚式では映画監督のアレハンドロ・ホドロフスキーが司式をとり行なったそうだが、2006年には早くも離婚してしまった。直後の2007年には、当時まだ二十歳そこそこだった女優のエヴァン・レイチェル・ウッドとの交際を開始。エヴァンちゃんは、同年にリリースされたアルバム『イート・ミー、ドリンク・ミー』からのシングル"Heart-Shaped Glasses (When the Heart Guides the Hand)"のビデオにも出演しているが、2人の年齢差もあって、背徳的な匂いがプンプンの内容になっている。この関係性は2010年に終了した。

“Heart-Shaped Glasses (When The Heart Guides The Hand) ”

最初の婚約者だった女優のローズ・マッゴーワンが出演している"Coma White"のビデオも傑作。

“Coma White”

憎悪のショック・ロックから、狂気の笑いが響くブルーズへ?

では最後に、ニュー・アルバムから先行公開されたシングル"Deep Six"のクリップで締めくくろう。ワンアイデア勝負といった感じだが、やや過去のものとは違う雰囲気の演出に踏み込みつつ、マンソン以外の人間がやったら単なるギャグにもなりかねない内容を、さすがのキャラクター・パワーでこなしてみせている。このところマリリン・マンソンの音楽から離れていたというリスナーも、ぜひ力作『ザ・ペイル・エンペラー』をチェックしてほしい。

"Deep Six"

提供:JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント

企画・制作:RO69編集部

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