蟲ふるう夜にの最新ミニアルバム『スターシーカー』は重要な変化作と言っていいだろう。これまででもっとも開けた、母性を感じさせるほどの大きなメッセージを何ら恐れることなく堂々と歌った作品だ。これまで、ヴォーカル・蟻の内面を赤裸々に叫ぶようなセンセーショナルなテーマも多かった蟲ふるう夜にの音楽世界だが、本作はエグさや痛みで共感を呼ぶ作品ではない。リスナーが抱える傷を受け止めたい、その上で前向きな願いだけを歌うんだ、という蟻の強く大きな思いが否応なく感動を呼ぶ作品になっている。素晴らしい変化である。
彼らにとっての最高傑作『スターシーカー』が生まれた背景を、蟻が語ってくれた。

インタヴュー=小栁大輔、撮影(インタヴューショット)=塚原彩弓

(“スターシーカー”は)自分の曲で初めて感動して泣いた

──いい作品ですね、すっごく。

「やった。ありがとうございます」

──手応えとしてはどうなんですか? 自分としては。

「今まで作った曲の中で一番って言ってもいいぐらい、大事なものになりました。全部ストーリーがあって大事なんですけど、“スターシーカー”は一番かな」

──それはどうして?

「うーん、自分の曲で初めて感動して泣いたっていうか(笑)。いつも感動してるんですけど、それとはちょっと違うんですよね。いつもは感情が入りすぎて泣いちゃうっていうパターンなんだけど、“スターシーカー”は聴いた瞬間に泣いた。で、今すぐ歌詞が書きたいってなって、そのあとの予定をキャンセルして、渋谷の好きなカフェに駆け込んで歌詞をバーッて書いたんですけど。そしたら15分ぐらいで書けちゃって。それまでずーっと悩んでたのに。これ、すごい大事なやつだって思って(笑)」

──できた時にそう思ったんだ?

「そうなんですよ。なんでそう思ったのかもちょっとわかんないけど。なんかうまく説明できないですね、その時の感情は」

──僕はちょっとわかってるんですよ、なんで大事なのか。

「ほんとですか(笑)」

──うん。今回の5曲っていうのは、どの曲も根本的な生まれ方がすごく似ていると思うんですよ。本人はどう思う?

「うん。そうですね、確かに。全部説明できるっていうか、ガツンガツンガツンって同じ熱量でできた気がする。そういう意味ですかね?」

──うん。で、また曖昧な言い方なんだけど、リスナーにどういうふうに、いつ、どういう気持ちで受け取ってもらっても構わないですよ、というか、いつでも聴けるもの、いつでも寄り添えるものというか。そういうものを作ったっていう意識はすごくあると思うんですよ。

「うん」

──今までは「こういう気分の、こういう時に聴いてほしい曲」って、ポイントをしぼってそこに突き刺すように作っていた。でも、今回はまるごと包み込むような考え方ですよね。

「あ、そうか。そこはだいぶ違うかもしれないですね、確かに。自分の声が、人の会話を止めちゃうような声だと思ってて。でも、お茶してる時にも流れててほしいじゃないですか(笑)。会話のうしろで、本を立ち読みしてる時でもなんでもいいけど、その中にある音楽を作りたいなって思った時でもありましたね」

──なるほどね。自分の声が人の会話を止めちゃうって今言ったけど、正確に言うと止めたかったんじゃない?

「あ、そうかも」

──「なんで聴いてくれないの」って思って歌ってたんだよね。

「(笑)はいはいはい」

──「聴いてよ」って。だから言葉も強くなっていったし、センセーショナルなテーマが自分にしっくりきてると思ったし、自分の声はセンセーショナルなテーマを歌う声なんだっていうふうに思ってたと思うんだよね。

「なるほど。確かに(笑)」

──手を止めて聴いてほしかったんじゃない? かつては。

「そうですね。まさに」

ギターの慎乃介の病気は結構大きかった。1年に1回風邪引くか引かないかぐらい元気なやつが、いきなりいなくなっちゃって。そしたらスタジオで何もできなくて

──でもそれが少しずつ変わってきたと思うんだよね。この1年とか2年ぐらいの活動で。自分でもそう思う?

「変わってきてますね、すごく。歌詞の書き方と、メロディの作り方が全然変わってきて。難しいことはしないようにしようっていうか、生まれたものをそのまま出すっていう。前までは確かに、どうこじらせようって思ってたかも(笑)」

──今回のアルバムはほんと自然だし、水が高いところから下に流れるみたいな自然の摂理に近い感じで曲が生まれてきたところがあるでしょ。

「確かにメロディはそうだし、歌い方もそうですね。流れるように歌うっていうのは意識していて。音符が階段になってるんだなって気づいて、それをなめらかな坂にしようっていうのが今回の目標っていう。そこは全然変わりましたね」

──それはなんで変わったの?

「なんでだろう。やっぱりギターの慎乃介の病気が結構大きかったですね。それまで1年に1回風邪引くか引かないかぐらい元気なやつが、いきなりバッといなくなっちゃったみたいな。そしたらスタジオで何もできなくて(笑)。3人で固まったまま4時間とか過ごしてる、みたいな状態が2週間ぐらい続いて。それは結構きつかったですね。いつも慎乃介と曲を作ってたので、自分がやらなきゃっていう意識も生まれたし、やることも増えましたしね。そしたら自分個人がやりたい蟲ふるう夜にが見えてきたのかも」

──なるほど。だから慎乃介の病気で、いろいろなことを思った、そしてこの作品の制作が始まっていって、曲が変わっていった。メロディが変わっていった。

「そう、変わっていったって感じですね。変わったから作ったんじゃなくて、作ってる途中にどんどんどんどん変わっていった」

──それはなんで変わったと思う?

「なんで変わったんだろう。……ヒントください(笑)」

──(笑)要するに、蟻はちゃんと人のために曲を作ろうと思ったんじゃないかな。

「ああ……そっか。そうだ」

──自分の言いたいことをわっと言うための、ある種のフラストレーションを含んだメッセージということではなくて。メッセージはあるけれども、その質が変わっていった。じゃあこの曲を誰が聴いたらどう思うんだろうか、慎乃介が聴いたらどう思うんだろうか。そういう意識がいろんな形で入ってきた上で、曲を作ることができたというか、できるようになったというかね。そういうふうにせざるをえなかったんだろうなと。

「なるほど……」

──違ったら違うよって言ってください。

「見透かされてる感じです(笑)。そうですね、ほんと。それまではやっぱり、自分のために歌ってたんでしょうね。身近な人間がそうなって、しんちゃんの両親から連絡が来て、ライヴに出させないでくれって。彼はもう出る気満々で、入院だってイヤだって言ってるからやばいです、みたいな感じで連絡をいただいて。しんちゃんの出たい気持ちと、でも両親が今はやめてって言う気持ちが私の中でぐるぐるってなって。メンバーも悩んでましたけど、私は、やっぱり蟲ふるう夜には恩返しをするために歌うんだって最近ずっと思ってたので、そしたらしんちゃんだって親に恩返しをしなきゃいけないし、だったら、親が今はやめてほしいって望んだ時にやらせちゃダメだなって。その時に自分の中で、あ、そうだった、みたいな感覚ありましたね。結果、7周年のイベントとかはピアノ編成も初めてだったし、残り1週間とかそんな状態だったんで、すごく焦りましたけど。でもそういう芯を貫いていればなんとかなるんだなっていうのは、自信にもつながったかも」

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