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ただ歌うだけじゃなくて、共鳴したい。そういうことに一歩近づいた感じがする

──不思議なことに、かつて自分らしい歌ってなんだろう、自分らしい歌詞ってなんだろうってさんざん悩んで書いたものよりも、こうやって自然に書いた曲のほうがものすごく「らしい」ですよね。言うべきことが言えた感は、きっとこっちのほうが全然強いと思う。

「うん、ありましたね。そうなんですよね」

──不思議じゃない?

「確かに。あんまり悩んでなかったかもしれないですね。アルバム全体通して」

──今までだったらもっと大変だったな、みたいなさ。

「(笑)それ、あったかもしれないです。自分の部屋に閉じこもって頭抱えてる、みたいな感じではなくなったかもしれないですね」

──自分の部屋に閉じこもって頭抱えて歌詞を書いてる自分がしっくりこなかったんでしょ?

「そうですね(笑)。なぜか渋谷で書こうって思いましたしね(笑)。それも初めてだ、そういえば」

──それも偶然ではないと思いますけどね。たまたま渋谷にいたから、たまたまカフェに行ったからではないと思いますけどね。

「そうですね。渋谷のTSUTAYAに行ったんですけど、そこで書かないですもんね、普通(笑)」

──でもあそこで書きたかったわけでしょ?

「そうですね。新しい音楽に包まれて(笑)。本来だったら、たぶん拒否反応を起こしてた」

──いろんな人が待ち合わせをする場所で。そこで生まれたのがこの曲ですよね。

「うん」

──その気持ちの変化が何に一番最初に表れるかっていうと、音楽家にとってはメロディですよね。あるいは歌ですよね。そうするとメロディや歌が呼ぶもの、つまり、言葉が変わってくるんですよね。

「そっか……。全部変わっちゃった(笑)」

──ヴォーカルも変わったでしょ、すっごく。

「変わりましたね」

──それはいつ自覚したの?

「いつだっけな、 “スターシーカー”をレコーディングするって日にちが決まってからですかね。それから自分が尊敬してる友達とか、歌い手さんとかにも、自分でどんどん『会いたいです』って言って会って、『どうやって歌ってるの?』みたいな(笑)。そういうの、ヴォーカル同士で訊くってNGなんですよ(笑)」

──(笑)。

「だけど、空気読んでられなくなったっていうか、もう体が自分で動いていく感覚でした。ひとりでスタジオに入って、いろんな声の出し方を試してみたりとか。カラオケだけを流して自分の中に入れるっていうか、内観するんですよ(笑)。音楽が流れるまま体を動かしてみたりとか、自分が今何を考えてるんだろうっていうのを内観する。音楽を聴きながら自分の内側を考えてみようと。それで結構変わったかもしれない。音の捉え方が」

──それをやらないと、歌うのは無理だったんだね。

「そうですね。確かにやらずにはいられなかったな。だってレコーディングはすぐそこに迫ってるけど、この曲はもう、ほんとに自分の中で特別になるなって確信したので。でもそれに自分の歌がついてこないなっていうのもわかったので。どうやってこの歌を自分が求める歌にするんだろうって。そうしたら誰に会いたいっていうのが出てきたり、何をしなきゃとか。だから忙しかったです(笑)。ただ歌うだけじゃなくて、共鳴したいんですよ。そういうことに一歩近づいた感じがするな」

『母親になる必要ないから』って言われた時に、自分じゃなくなる気がしたんですよね。じゃあもっと包み込むぐらい大きくなっちゃえばいいって思ったかも

──で、この作品を聴いて最初に思ったのは、とにかくこの言葉です。「母性」。

「(笑)母性ですか?」

──母性です。今言ってきたことは、すべてこの母性という言葉を説明するために言ってきたところがあって。母性がある、音楽に、声に、視線に。すごく感じる。

「へえー。何か生まれるんですかね(笑)」

──っていうか、文学的な言い方をしてしまうなら、慎乃介やバンドのことをすごく母親的な目線で見れてるんだと思う。

「そうか。前に下北沢レッグのライヴ、観てもらったじゃないですか。その時、『メンバーの母親であるような気になる必要はないから』みたいな(笑)。そういうことを言われた時に、ちょっと自分じゃなくなる気がしたんですよね。たぶんずっとそれでいたから。でもそれを消すのはもう無理だし、じゃあもっと包み込むぐらい大きくなっちゃえばいいって思ったかも(笑)」

──今、慎乃介やバンドに対してどういう気持ちでいる?

「なんだろう……。やっぱり『世話のかかる』って思ってますね(笑)。やっぱり元気でいて、好きな音楽を鳴らしてくれてるのが一番いいし。だから健康にめちゃくちゃうるさくなって、私(笑)」

──これ食わなきゃダメだよとか?

「そう(笑)。ジュース飲んでたら、ジュース飲むなんて信じらんない、みたいな(笑)。水を常温で飲め、みたいな感じですね(笑)」

──わかってほしい、聴いてほしいって思ったり歌ったりする前に、自分からわかったり聞いてあげたりしなきゃいけないんだよね。

「そうですねえ。それはほんとそうですよね。人の幸せを最初に願わなきゃダメですね」

──ダメですよ。

「そう思った」

──これはほんとに蟻が作った作品だと思います。蟻の心の変化と、母性的な大きさが作った作品だと思います。

「また、あれなんですよね。弟とか妹とかね、ずっと母子家庭だったんで、自分が母親代わりにならなきゃ、みたいな。母親は父親代わりにっていう家庭だったんで。妹の成人と弟の結婚が一気に来て(笑)。それもめちゃくちゃ大きかったかも」

──そうか。頑張ってきた役割が1個終わるというか。

「そうですね。終わったら何かまた新しいことが始まりますしね。その何かだったのかも、今思えば」

──だから弟や妹を含めて、何かを抱えようとする、何かを包み込もうとする自分っていうものにすごく自信を持てたんじゃないかな。

「そうかもしれないですね」

──やりきったっていう。

「確かに。やりきったことで自信になったのかも。それ、大きいかもしれないですね」

──自分の人に対しての役割がすごくわかったんだと思う。

「そうですね。自分がわかったんだな。それは大きいですね。なんか、いろんなことがあったから、これがあったからこの歌詞が書けたとか、これがあったから自分が変われたっていう整理がついてなかったけど、話してて、整理がついてきました(笑)」

提供:ノンターミナス

企画・制作:RO69編集部

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