Nothing's Carved In Stoneの7作目となるニューアルバム『MAZE』。これは間違いなく、ナッシングス史上最高傑作である。凄腕メンバーたちによる超高性能ロックとしての迫力と圧倒感という、これまでのナッシングスが見せつけてきたものはもちろん健在なのだが、それに加えてこのアルバムはとても自由奔放で有機的な作品になっている。そこがいいのだ。バンドの構造的にも、そして音楽的にも、ひとつひとつのパーツを磨き上げ、それをガッチリ組み合わせ構築していくことでできあがっていたナッシングスが、いつの間にかもっと生き物のようにうごめく「バンド」になっていたということを、このアルバムは証明している。渋谷クラブクアトロで3ヶ月連続の企画イベント(過去のアルバムをすべて再現するというライヴ)を開催し、そのライヴ音源からファンのリクエストによって選び出された楽曲を集めた初のライヴアルバム『円環-ENCORE-』をリリース――と自分たちの積み上げてきたものを振り返った先で、ナッシングスが鳴らした「生」のロックとは? メンバー全員に、その歩みと辿り着いた現在地について語ってもらった。
インタヴュー=小川智宏 撮影(インタヴューカット)=若田悠希
ノリが変わったんじゃないかなと思いますけどね。やっぱり6年やってるとね、すごくバンドになる(生形)
――3ヶ月連続で6枚のアルバム全曲を再現するライヴをやるっていうのは、どういう発想から始まったんですか?
生形真一(G) あれは去年の『Strangers In Heaven』のツアー中だったよね。
日向秀和(B) 新潟で。僕がノリで言っちゃったの。
村松拓(Vo・G) 「Hand In Hand」以外になんかライヴしたいねって言ってて。だいたいひなっちがアイディアマンなんで、パッパッパッていくつか出したなかで一番みんな盛り上がって。
日向 最初はそれじゃあやろうよ、みたいな軽いノリで決まったんですけど、よくよく考えたらとんでもない、大変なことだったっていう。全曲やんなきゃいけないから。
大喜多崇規(Dr) リハが始まった時に、曲数もすごい多いなって。再現するの大変だなあと思って。
日向 スケジュールがすごいタイトだったんですよ。1個のライヴのリハが月に3回ぐらいあって、3回でセットリストも考えて、やってない曲も全部練習して、通し練習しかできないっていうのとかだったんで、もう地獄でした(笑)。
生形 個人練しました、家で(笑)。
――実際やってみてどうでしたか?
生形 いや、楽しかったですよ。緊張もしたけど、やっぱやってよかったなと。
日向 すげえ練習してたね。だって1回もやってなかった曲も1曲あったもんね。
生形 “Terminal”をやったことなくて。再現できないねって言ってやんなかったんだけど、なんかできたね(笑)。全然できた。
村松 むしろすげえかっこよかったよ(笑)。
大喜多 アンサンブルが難しかったんですよ、音源は録れたんだけどね。それを今だったらできるなって思いましたね。ファースト(『PARALLEL LIVES』)の曲でもなんかしっくりきてなかったのもあったんですけど、曲が据わるっていうか、高いプレッシャーのなかでうまくパフォーマンスできるようにバンドがなったのかな、とか思いましたね。
――今回はファーストアルバムの曲もやったわけですけど、その頃と今で、ここ変わったんだなとか、いつの間にかこうなってたんだな、みたいなことは感じました?
生形 ノリが変わったんじゃないかなと思いますけどね。できなかったっていうか、やめとこうって言ってたような曲もできてたりとか。やっぱ6年やってるとね、すごくバンドになるっていうか。
日向 ほんとに思い出すのはファーストの時の一発目のライヴ――もう、俺たちの勢いだけだったライヴ(笑)。めちゃくちゃに近い感じになってしまい、大反省したんですよ。その時のメンタルからすごい成長したなって思いますね。衝動だけだったものが、いい意味でみんな大人になって、自分たちを客観視できるようになってきて、こういうショーを作りたい、みたいなものが形になってきたなっていう感じがしますよね。
生形 その頃と比べたら段違いですよね、バンドの持ってるポテンシャルは。だいぶエンジンが変わったな、みたいな。
――拓さんは昔の曲もやってみて、シンガーとして自分の成長なり変化なりは感じました?
村松 3枚ぐらい作って、だんだんちゃんと自分のバンドになってきたなあっていう。その頃の曲改めて聴くと、すげえかっこいいことやってたなあって思うというか。もっとあの頃乗りこなせてたら、このバンドもっと跳ねてたな、みたいな感覚がありましたね。今改めて全曲やって、ちゃんとNothing's Carved In Stoneっていうものができあがってきたなっていうのはすごい感じました。
自分の持ってるものが惜しみなく出てるような気がしますね。もうブレーキかけてないっていうか、「いいじゃん、やっちゃえば」みたいな(日向)
――そうやってキャリアを総括するみたいな試みも経て、次に向かう上で心境の変化とか新しい気分が生まれたりとかってありました?
生形 そんな深くは考えてないですけどね。ただやっぱり、何かしらは絶対あるんだろうなあとは思いますね。
日向 自分たちの通ってきたルーツみたいな、好きなアーティストっていうのが如実に出たっていうか。自分の持ってるものが惜しみなく出てるような気がしますね。もうブレーキかけてないっていうか、「いいじゃん、やっちゃえば」みたいな感じだったもんね。
――アルバムの曲を作っていく上で、イメージしてたものとか特別に考えてたことってあるんですか?
生形 どういうアルバムにしようとか、そんな話もしてないかね。もう1曲1曲単発で。
日向 「こういうのやりたい」って言って、「じゃあやってみよう」って。
生形 そうそうそう。だからそういう意味では今まではだんだん曲が増えてきて、こういう曲が足りないからこういう曲入れようとかあったけど、今回はもっと自由だったかもしれないですね。
――確かに中盤の展開とか、結構やりたい放題ですよね(笑)。
全員 (笑)。
日向 そうなんですよ。やんちゃアルバムですね。
生形 より振り切ってる感じはありますね。まあ、新しいこともやりたいっていうのはあったかもしれないですね。ナッシングスを最初から聴いてる人は、すごく構築された音楽で、理路整然としててっていうイメージがある気がするんですけど、そこをもう少し今回は違うようにというか。曲によってはもっとシンプルに、ジャムの延長みたいな曲もあるし。ギターの本数も減らすとかそういう物理的な話もあったし。
メンバーを横で見てても才能がすごく開花してるというか。自分も今、すごく理想的なバンドのミュージシャンでいられてるなって(大喜多)
――“YOUTH City”はリード曲としてナッシングスらしい曲というか、ストレートな曲なんですけど、そこから始まるアルバムの中で、ナッシングスこんなこともやるんだっていう発見だらけで。“Discover, You Have To”とか――。
村松 ナッシングスだと今までだったらありえない曲ですよね。
日向 制作期間最後の30分で作ったんですよ、この曲。こういうのやりたくない?みたいになっちゃって、もう怒涛のごとく(笑)。
――確かにそのノリ一発って感じがする(笑)。でも、かと思うと“Perfect Sound”みたいなスケール感がある、どっしりした曲もあって。今までで一番幅は広いのかもしれないですね。
村松 ロックっていう枠には一応入ってると思うけど、すごいジャンルレスだと思う。
日向 拓のキャラクターもいろんな側面あるよね、このアルバム。
村松 気持ち云々っていうよりは、自分の喉の楽器みたいな側面をもっと際立たせる方法っていうのは結構気を使ったかもしれないですね。サウンドメイクとかメロディラインのつけ方も、今までにないくらい低いとこいってみたりして。そういう新しいことしてみようみたいなアプローチがそこにつながってたとは思うんですけど。
大喜多 作ってる時、世界観の決め方とか楽曲をアレンジしていく段階で、メンバーを横で見てても才能がすごく開花してるというか。自分も今、すごく理想的なバンドのミュージシャンでいられてるなって思いましたね。
――ナッシングスに自分の個性なりやりたいことを出すっていうことが前よりもやりやすくなったとか、それがより形になりやすくなったとか、そういうことって感じます?
日向 絶対にありますね。もう全然、ほんとに遠慮してない(笑)。拓がやっぱり芯が出たんですよ。だから拓と一緒に成長してるんですよね、きっと。それはすごく思うな。
村松 そうっすね。僕もなんか、前だったらブレーキをかけてたところがもうないっすもんね、今はね。
――逆に、ある時期までは遠慮みたいなものもあったんですか?
日向 そうですね。楽曲にとらわれてた部分って結構あって。『REVOLT』あたりはもう、グチャグチャだったんで(笑)。楽曲に支配されてる感じがあって、すごい閉鎖的なモードに入っちゃってた、たぶん。ゆえのリアリティだったりするんで、そういう時期とともにできたアルバムっていうのは、これはこれでかっこいいなとも思いますけどね。
生形 だから今、このアルバムができたのもそういう時期なんですよね。もしかしたらまた全然違うのができるかもしれないし。そこはうちのバンドは一番面白いかもしれない。その時のみんながやりたいこととか、個人がやりたいこととかをすごく如実に出してきて、それが曲になってる。