痛い言葉が突き刺さるようにするためにはかっこよく作りすぎるんじゃなくて、よりリアル感を出すために、ヌケがあったほうがいい(日食なつこ)
大編成になると「表現する」というよりかは「演奏する」に変わってきそうな感じがする(komaki)
── 逆に、最低限の編成のバンド以上にアンサンブルを広げようっていう発想も、少なくとも今はないと思うんですよね。色が増えると、もとの形がわからなくなっていくだろうし。
日食それはすごくありますね。そもそもピアノって88鍵ある楽器なので、何も考えないで作ると、どうやっても音程のある楽器とは潰し合っちゃうんですよね。なので、今の形態で──打楽器と、音階を担当するピアノっていう楽器で、やりたいことをやり尽くすまでは、変なことはしないほうがいいのかなって思ってたりもするので。いろんな打ち込みを入れたりとか、大編成で入れたりっていうのは、もうちょっと先になるのかなと。バンドでやっても映える曲は映えると思うんですけど、大きくしちゃうと、リアルさがなくなるなあって。痛い言葉がちゃんと刺さるようにするには、あんまりかっこよく作りすぎるんじゃなくて、よりリアル感を出すために、ちょっとヌケがあったりするほうがいいのかなって。
komaki大編成だと、「表現する」っていうよりは「演奏する」に変わってきそうな感じがするな。
日食おっ。それ、いいキーワードですね。
komaki表現するっていうより──(とマイクに近づいてもう1回言う)。
── (笑)。世の中に対してどうしても感じてしまう違和感であったり、自分自身の内省的な部分であったり、そういう部分を吐き出す装置として、このリアルさは必要なものだなあって、特に今回のアルバムを聴くと思いますし。ご自身でもそれを選んでやってるんだなあと。
日食その通りです。
── それをふたりだけで再現するライヴも、komakiさんがいればこそ成立してるわけですし。
komaki正直、ちょっとだけ自負してます(笑)。形だけ見ると、いわゆるサポートドラマーって言われる場所にはいるんですけど、「サポート」って言われるのが嫌いなんですよね。それはどのバンドでも──今も結構な数やってるんですけど、どのバンドに入っても、それがたった1本だけのライヴであっても、サポートドラマー感は絶対に出したくなくて。それは日食なつこをやってる時ももちろんそうで。半分「自分のバンド」って思うぐらいの気持ちで挑んでるので。第三者というか、外にいる人からそう言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。
日食確かに、サポートの域を越えてますもんね、いろんな意味で。
── 「いろんな意味で」?
日食私、Ustreamの番組をやってるんですけど。2回目くらいでゲストにkomakiさんをお呼びしたんですね。30分くらいの予定だったんですけど、終わってみたら1時間くらいになってて、半分以上komakiさんがしゃべってたんですよ。途中から、カメラ回してるディレクターがしんなりし始めて(笑)。
komaki(笑)。まあ、関西人っていうのもあって、マイク持たしちゃうともう、しゃべりたくて仕方なくて。あとから録画観てもうびっくりして、普通にスタッフさんに謝りました(笑)。
── 逆にkomakiさんから見て、なつこさんの「ここはちょっと……」っていうところは?
komakiああ……食べすぎちゃうところですかね(笑)。食にすごい貪欲なんですよ。前のツアーのワンマンの当日に、リハ終わってから「本番前に何か食べに行くか」ってなって──絶対カツ丼を食べたがるんですよ、本番前に。
日食願掛けみたいな感じなんですけど。
komakiネットで調べて、会場から一番近いカツ丼屋まで結構な距離なんですけど、リハ終わってから全然時間なかったのに「絶対そこのカツ丼食べたい!」ってなって。途中になか卯があったんですけど、「ここもカツ丼あるで?」って訊いても、聞く耳持たずっていう(笑)。で、急いで食べて帰ってワンマンやって、もうお腹パンパンだったんですけど……あと、盛岡でわんこそば対決もしたなあ。
日食やりましたね。komakiさんが88杯食べて──。
komaki女子が普通は辿り着かない100杯超えして。しかも、「まだもうちょっと行けるけど、100まで行ったしいいか」でやめちゃう、みたいな(笑)。
日食前々回のツアーの時に盛岡がファイナルで、次の日に「みんなで華々しく何かやって帰ろうぜ」みたいな感じになって、わんこそば対決をやって。komakiさんと私と、もうひとり男性のスタッフがいたんですけど、男がふたりいる中で自分が勝っちゃうのも申し訳ないなあと思って(笑)。その男性スタッフのほうが結構食べる方だったので、その方に花を持たせるつもりで、100杯でやめました(笑)。
komaki……そこだけは付き合わなくてもいいかなあって、次のツアーは(笑)。それくらいですかねえ、「ここはちょっと」っていうところは。演奏面はバッチリですね。
── “ヘールボップ”は、このアルバムの中では一番ポップソング的な佇まいの曲ですけど、それでもこのピアノならではの生々しさがある曲だし。歌ってることは完全に挑戦ですからね。
日食そうですね。攻めようと思って書きましたね。
── コンピューターウイルスみたいな曲ですよね。すごくキャッチーなメロとアッパーな曲が一発で頭にすんなり入ってきて、あとから改めて歌詞をひもといてみると「こんなこと歌ってたんだ!」って愕然とするけど、その時にはもう曲が身体に染み付いてるっていう。
komakiそのたとえ、いいっすね(笑)。
日食でも、確かにそれはあるかもしれないですね。1回裏切りたいっていうか。明るいところから飛び込んで、明るいままで終わるのは、普通に考えつくじゃないですか。そこで「おいしい裏切り」があると、よりお客さんも楽しめるかなあと思って。そういうものを仕掛けてるところはありますね。
── そういうテイストは全体的にありますよね。マイナー調の楽曲ではなくて、メジャーコード主体のメロディアスな歌で、シリアスな言葉を突き刺していくっていう。
日食そうですね。そのメジャー感っていうのが、自分で思っているEXILE感とかBUMP感なんですけど(笑)。一番最初にああいう方々を聴いてきたので、あんまり暗い曲っていうよりかは、最後は明るく終わりたいな、っていうこだわりが自分の中ではありますね。言いたいことは突き刺すけど、あまり深刻にならないように終わろうとしてるっていう。
「音楽は娯楽や」って思っておきたいだけで、天変地異が起きても君、絶対歌ってると思うな(komaki)
── 音楽って、いろんな意味と機能があるじゃないですか。人によっては「癒し」であったり「救い」であったり、「闘い」って言う人もいるし、「ただの娯楽だよ」って言う人もいると思うんですけど。日食なつこさんにとって、音楽をやることの意味をひと言で言うとすれば? 今挙げた中になくてもいいんですけど。
日食「主張強めの娯楽」ですね。完全に「娯楽」って言いたいんですけど、やっぱり自分の曲を聴き直すと、「ああ、言いたいこと言っちゃってるな」って思うので(笑)。でも、音楽は最終的には娯楽でしかないと思ってるし。天変地異とかがこの世にあって、切り捨てられるものの一番最初ってこういうものだと思うし、そういう気軽さでやってないと続かないものだなあとも思っているので。これを「生き甲斐だ!」って言って、そこに食いついちゃうと、最終的に心を病んじゃったり、身を滅ぼしたりしそうなので。音楽はあくまでも娯楽として楽しむもので、そこにちょっと突き刺さるものがあればおいしいかなあ、みたいな程度で行こうかな、とは思ってます。
komaki娯楽かあ……嘘、嘘ぉ! 「音楽は娯楽や」と思っておきたいだけで、天変地異が起きても君、絶対歌ってると思うな。
日食そう……ですかねえ? でも、私は娯楽だと思ってやってますよ。
komaki騙されないぞ、俺は!(笑)。一番そばで君の音を聴いてる俺はごまかされんぞ!
日食いやいやいや(笑)。だって、本当に主張したいことがあるんだったら、先生とか大学の教授になったりして、「こういう研究があって、こういう結論が出てます」っていうことを毎日やってますよ。だって、ツアーでも洋楽のコピーとか、完全に言葉が関係ない外国の曲とかもやってて、すごく楽しいじゃないですか。そういうのはどうなんですか?
komakiいや、でもそれは娯楽やん? だけど、それだけでよかったら、それだけやってるやん? そこを自分でわざわざ病みながら疲れながら、それだけの歌詞を書いて、10代からずっとやってきてるわけやん?
日食でも、一個言っておくと、私は今まで曲を作ってて、そんなに病んだことないんですよ。例えば“跳躍”っていう、かなり初期の曲があるんですけど。「ものすごい葛藤を歌った曲だねえ」とか言われてるんですけど、それこそ私の中ではあの曲は──笑われるかもしれないですけど、ほんとにEXILEと同じことをやってるつもりだったんですよ。あの跳ねるリズムの中で、歯切れのいい言葉を並べて、ごった返すようなAメロからの、突き抜けるサビで、みんなをあの音の感じで奮い立たせる、っていうことをやりたかっただけで。そこまで葛藤しながら書いた曲でもなくて、むしろすごく計算して書いた曲なんですよ。だから……別になくても生きていけるんですよ、私は。
── でも、例えば格闘家の人とかは、普段からファイティングポーズを取ってるのが日常じゃないですか。日頃からいろんなことと真摯に向き合うことを実践してる人にとっては、「向き合う」っていうこと自体がそんなにヘヴィじゃなくて、日常の延長である、っていうところはあるかもしれないですね。
日食・komakiああ~。
日食私が普通の感覚で選んでた言葉が、わりとみんなには重かった、っていう感じですか?
── なかなか日常では出てこない言葉を自然に選んでる、っていうことでしょうね。ただ、そこにはやっぱり、日食なつこという人をそういう表現に向かわせる何かがあったんだと思います。そこを掘り下げるには今日は時間が足りないので、また改めてぜひ。
komaki的確かもしれんなあ。
日食そうですね。「普段からファイティングポーズ」っていうのはすごくわかりやすかったですね。
komakiファイティングポーズ取ってるつもりないけど、とってるんやと思うで?
日食……なんか、もうちょっと優しく生きたほうがいいのかな?
komakiいやいやいや! あの、そのままでいてください(笑)。
提供:エル・ディー・アンド・ケイ
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