THE BACK HORN、宇多田ヒカルとの共同プロデュース作『あなたが待ってる』を語る!
「新曲のメロディを作るなかで『将司と一緒に宇多田ヒカルの歌声が聴こえた』という菅波が、デモ音源を添えて旧知の仲である宇多田へオファーを行ったことからスタートした」(以上THE BACK HORN『あなたが待ってる』特設サイトより)という、THE BACK HORNのニューシングルの表題曲“あなたが待ってる”に宇多田ヒカルが共同プロデュース・作詞・ボーカル・ピアノで参加する、つまり「ゲスト参加でなく一緒に作る」、ある種事件と言ってもいいプロジェクト。
これはいかに始まり、いかなる過程を経て制作を行い、そしてなにゆえにTHE BACK HORNの新しいドアをばかーんとぶち開けるすばらしいラブソングに仕上がる、という結果になったのか。以下、THE BACK HORNの4人にじっくり訊いたインタビューです。
宇多田さんが歌わないとこの曲はやる意味がない、ぐらいのプッシュのしかただったから(山田将司)
――これはいつ頃話が持ち上がって、いつ頃レコーディングしたんですか?
菅波栄純(Gu) えーとですね、デモの最初の段階のやつが出てきたのは、去年の夏前だと思うんですけど。
岡峰光舟(Ba) 7月前。
菅波 で、録ったのは12月に入ってから。
――宇多田ヒカル参加を栄純さんが言い出した時は、お三方はどう思われたのか。
松田晋二(Dr) まあ、一緒にデモをスタジオで聴いてる中で、「実は宇多田さんに一緒に歌ってくれたらいいなっていう思いもあって」っていう話を聞きかせてもらったので。曲自体も、今までにない新しい雰囲気もありましたし、確かに想像してみると、そうできたらいい感じがする曲だなあと思って。
――THE BACK HORNって、こういう感じでゲストミュージシャンが入ったことって過去にありましたっけ?
山田将司(Vo) ないですね。ピアノとストリングスだけですね、メンバー以外に参加してもらったことあるのは。
――だから、宇多田ヒカルっていうのもびっくりなんだけど、それ以前にそうやって外から人を呼んだことがびっくりという。
山田 でも栄純が、宇多田さんの声が聴こえた、宇多田さんが歌わないとこの曲はやる意味がない、ぐらいのプッシュのしかただったから。でも「彼女……やってくれんのかなあ?」ぐらいの感じですよね、最初は。「そりゃ、やってくれたらうれしいけど……」っていう。
岡峰 栄純が声が聞こえた、っていうのを実際に聴きたいなとは思ったんですけど、実現性においては……うまくいったらほんとにラッキーだな、ぐらいですよね。まあ、昔のちょっとした関係はあったから、「訊くだけ訊いてみるか!」みたいな。
――昔の関係っていうのは、将司くんが『ULTRA BLUE』の“One Night Magic feat.Yamada Masashi”に参加(2006年)したのよりも前?
山田 その前から、THE BACK HORNのことを知ってくれていて、ライブにも足を運んでくれたりしたこともあって。その流れでゲストボーカルに呼んでくれて。そのあとに5人で飲みに行ったこととかもあって。
――そこからあとは……彼女は活動を休んでいたわけだし、全然会ってなかった?
山田 うん。今回がちょうど10年ぶり。
松田 それで、先方のレーベルの担当の方を通して、ご本人にそういう思いを伝えていただけますか、っていう話をして。手紙を書こうって話になって、栄純が書いて、「こんな感じでどうだろう」っていうのをメンバーみんなで読んで、それを向こうのスタッフの方に送ってもらったっていう。そしたら、「やってくれそうだ」っていう話になって。
結論的に言えば、プロデュースの才能、すごかったですね(菅波栄純)
――歌だけじゃなくて、共同プロデュースと作詞でも参加というのは?
菅波 OKになって、「じゃあ具体的にどうしようか」っていう話が始まってから……俺はメールにも「サビのとこでふたりの声が重なって聴こえた」って書いたんですけど、ほんとにありがたいことに、それだけをやるよりも、がっちり組んで一緒に音楽を作ろうよ、って向こうから言ってもらえて。それで、歌詞も完全にできあがっていたわけではなかったので、それも共作にして。「ストリングスとか鍵盤のアレンジもお願いできますか?」「もちろんやります」って。総合的に演奏とか、音を作り上げていくすべての過程もがっちり参加するので、って言ってもらえて。最初の作業的には、鍵盤とかストリングスのアレンジをデモで送ってきてくれて、それがめちゃめちゃよくて。
そのあと歌詞が送られてきて……俺が一番ポイントだと思ってたとこはそのまま残ってるんですけど、まだ歌詞が抜けてたところとかにガンガン新しい言葉が入っていて。それで、アレンジを相談する時に初めてSkypeで話して、歌詞とか全体のアレンジ、あとパートごとのアレンジに対するアイデアとかもらって。あとはレコーディングに入って、ずっとつきっきりでいるから意見を出し合って作り上げていこう、っていう話で当日を迎えました。
――やってみていかがでした?
菅波 結論的に言えば、プロデュースの才能、すごかったですね。やっぱりこう、足していくプロデューサー、引いていくプロデューサー、プロジェクトによってもいろいろあると思うんですけど、今回の曲はかなり引き算してもらったところがあって。本当に必要な要素だけになるように、俺らが演奏してんのを見ながら意見を出してくれて。最終的にできあがったのが、何回も聴きたくなるような仕上がりになってたから、驚きましたね。
岡峰 バンドとしても、この曲調はほぼ初めてって言っていい曲調だったし。そこでどう……まず自分のプレイだったらどう……普段どおりのグイグイいく感じでもないし、自分なりに、ここまで何回もベースラインとかを考えたのも初めてで。その中でも宇多田さんが、引き算がうまいというか。「おいしいところを活かすためにここは引こう、ここは音数を減らして」とか。すごい新鮮でしたね。曲を盛り立てつつ、リズムを支えつつ、低いところでちゃんとウネリを作りつつ……アドバイスももらって、すごいいい演奏と曲になったと思います。全体を俯瞰で見れてるから、曲のおいしいところを伸ばしてくれるというか。
松田 あと、宇多田さんが曲を聴いて感じる人間らしさとか、THE BACK HORNらしさとか、そういう部分を尊重して……「何度かいろいろ試したけど、一回何も考えずにやろう」って言って光舟と俺でバッとやったテイクを「あ、これが一番いいじゃん」って言ってくれたりとか。だから、宇多田さん観点の中で、バンドらしさを残そう、みたいなのがあったんじゃないかなと思って。宇多田さんが思うTHE BACK HORNの一番いいところを、しっかりブレずにセレクトしてくれた印象です。