今年の8月にシングル『彼に守ってほしい10のこと』でメジャーデビューを果たした女性シンガーソングライター(彼女はこの括りをあまり好んでいませんが、わかりやすいので敢えて使います)、植田真梨恵が早くも2nd シングルをリリースする。タイトルはその名も『ザクロの実』。キャッチーなバンドアレンジでまとめた前作からは一転、今回の表題曲はしっとりとしたピアノの音色を軸に、彼女特有の「せつなさ」を全面に押し出したナンバーだ。個人的にも今回のシングルは収録全曲にこの「せつなさ」が通底していると思っていて、この3曲からリスナーは植田真梨恵のさらなる深みを感じ取ることができるだろう。本人にその手応えを語ってもらった。

インタビュー=徳山弘基

(メジャーデビュー時に)あれだけ「前向きな希望を歌いたい!」って話してたんですけど、でも今はそのトーンの差があってほんとに安心しているんです

──9月に原宿アストロホールで行われたワンマンライヴを観させていただいて。非常に力の入ったワンマンだったんですけど、実際はどうだったんですか?

「楽しかったです! ただやる前は心配事が多くて。ワンマンが1週間後ぐらいにあるって頭では思いながらも、着々とそこにピントを合わせていけるような日々ではなかったので、すごく怖かったんですけど。でも、とにかく歌を歌う、届けるっていうのをテーマにしたワンマンライヴでしたね。あたしがパワーをドーン!と出して、皆さんにそれが伝わればいいと思っていたので。ほんとに、身ひとつで行ったっていう気持ちが、当日は大きかったですね(笑)」

──ライヴをする時、自分なりに心掛けていること、こういうふうにしたいっていうイメージはあります?

「ライヴって見世物だし、ショーであり、エンターテインメントではあるんですけど、お金を払って来てもらっている以上、パワーを与えられるようないい時間を過ごしてもらえればいいと、今は思っているんですよ。あたしは今、ライヴハウスでライヴをしてますけど、これから大きい会場になっていけばいくほど、見世物っていう感覚が大きくなっていくと思うので。今みたいに空気を一緒に作りながらやっていくのって、どんどん難しくなってくると思うんです。映画とかサーカスみたいに、ただ流れるようなライヴに、どんどんどんどんなっていくと思うし。そこに巻き込める時間があっても、一瞬一瞬だと思うんですよね。でも今はライヴハウスに来てくれて、せっかくあの距離感でやっているんだったら、変な違和感があったら嫌だなあとは思っています。仮に6畳の部屋で何か歌うとして、普通はその部屋で聞こえるぐらいの大きさで歌うじゃないですか。わざわざ『わーっ!』とは歌わないじゃないですか。それと同じようなことで。ちっちゃいことをしているように思われたらすごく嫌なんですけど、その距離感だからこそ伝わるライヴをしたいし、単純にあたしがいて、2時間ぐらい流れていく時間がいいものであればとは思っています」

──で、そのワンマンライヴでも披露された新曲"ザクロの実"ですね。前回のメジャーデビューシングルが、いわば植田真梨恵の自己紹介曲であるとしたら、今回のシングルは、植田真梨恵のもう少し深い部分が表現された曲だと思います。どういう形で制作は進んでいったんですか?

「デモ自体は2011年ぐらいにできていたもので。書いた時から、これはシングルで出せる歌だと思って書いていたので、いつか出したいなとは思っていたんです。だからメジャーデビューの『(彼に守ってほしい)10のこと』を出すタイミングで、"ザクロの実"をセカンドで出すことは決まっていたんです。カップリングの"朝焼けの番人"っていう曲も結構古い曲で。たぶん"ザクロ~"と同時期ぐらいに書いていますね」

──この"ザクロの実"という曲は、2011年当時の、どういう環境や心境の中で書いたものなんですか?

「この頃は、ピアノのライヴをやり始めた時期ですね。音楽を弾き語りでやったり、バンドでやったりすることだけに飽きてきていて。もっと音楽的に幅を広げたいっていうことで、ピアノライヴを始めたんですよ。だからリハしてもライヴしても、『音楽的なことをしているなあ!』って思っている状態でしたね。だからデモの段階からピアノを弾いてもらって作ったりしていて」

──では今までの自分の引き出しにはない曲、という意識で作った?

「いや。引き出しにある中でも、もうちょっと楽しげな感じ、でもせつない曲、みたいな感じで作りたいなとは思っていました。あとピアノのノリ感っていうか、ライヴしていく中で、縦ノリの曲があったらいいなあっていうのは、すごく思っていたので。そういう面では、植田真梨恵的には新しいのかなとは思うんですけど」

──この曲にも出ていますけど、植田真梨恵のせつなさっていうのは、すごく品がいいですよね。

「ほう!」

──もっとダイレクトな言葉を使って、起伏の激しいメロディを書くことで「せつなさ」を演出する方法もあるんですけど、植田真梨恵の書くせつない曲、要するにこの"ザクロの実"は、すごく詩的で美しい。

「嬉しい。あたし、何曲書いたかは忘れたんですけど、メジャーで出せるようなシングル曲を何曲か書きましょうっていう流れの中で、"~10のこと"も入ってたっていうお話を、前にした気がするんですけど」

──はい。

「そこにこの"ザクロ~"も候補にはあったんです。でも一発目ではないなあとは思っていて。そうしたら会社の人に『セカンドは"ザクロ~"で行こうと思うんですけど』って言われて、『あ、そうなんですか! や、いいと思います。そうしましょう!』って(笑)。むしろ、『"ザクロ~"暗くない? 大丈夫?』ぐらいに最初は思っていたんですけど」

──なるほど、自分としてもメジャーデビューシングルで出すには、少しトーンが重めだと思っていた?

「そうですね。あれだけ『前向きな希望を歌いたい!』ってインタヴューでも話していたんですけど、でも今は逆にそのトーンの差があってほんとに安心しているんです。これを出せることが。これを出すことで"~10のこと"も映えるし、より活きるので」

母にこないだ"ザクロの実"っていう曲を出すんよって言ったら、「あんた、ザクロはカニバリズムの象徴やんね!」って言われた(笑)。

──ちなみにすごくシンプルな質問なんですけど、なんで「ザクロ」なんですか?

「わかんないです」

──ははは。

「かなり感覚的に歌詞を書いてるんですよ。ピアノっぽい曲を作ろうと思って、ダーッと書き始めた時に、♪ザクロの実が~ っていう歌詞が出てきて。インスピレーションですね。ザクロがなんで出てきたのかはわからない(笑)。たまたまです」

──ザクロの実って、見た目は普通の果物なんだけど、切ってみると中身はグロテスクで。

「うん、うん、うん」

──まるで人間のような果実ですよね。

「やっぱり。みんな思うんですね。母にこないだ"ザクロの実"っていう曲を出すんよって言ったら、『あんた、ザクロはカニバリズムの象徴やんね!』って言われた(笑)。『人食いばい!』って(笑)」

──ははははは!

「赤い実が人間の血を象徴していて、白い種が入っているんですけど、あれが骨みたいに思われてるっていう。昔話なんですけど、人食いの家族がいて、たくさん子どもがいるんですけど、お父さんが癖で子どもを食べちゃうんですって。それで子どもが減っちゃったから、和尚さんが、『もし次に子どもを食べたくなったらこれを食べなさい』ってザクロを渡すっていう話があるらしくって。そんな果実の歌にしてしまったんだ……と思いましたね(笑)。もちろんそういう意味をこめたかったわけじゃないんですけど」

──でもここで、アレンジみたいなものは、他のミュージシャンの方やスタッフの方と結構詰めていって、最終的にこういう形になったって感じ?

「そうですね。今、ディレクターを立てずにやっているんですよ。なので、バンドのメンバーとあたしでアレンジは進めている状態で。もうピアノでデモを作った段階から、ここでMAXのテンション、ここでこういうノリになる、みたいなことはある程度見えていたので。それに曲ができたタイミングで、サビは四つ打ちにしようとも決めていたので。だから、すごくシンプルに、そのままスタジオに入って、最低限のことだけをして、あとはベースとドラムを考えたって感じです」

──仮にディレクターがいたとして「植田さん、この曲、サビでストリングスとか入れてもっとドラマチックにしたほうが売れますよ!」みたいなサジェッションがあったら、なんて答えますか?

「入れます、入れます。あたしも散々迷ったんですよ。サビでストリングス入れようか。ただ、今できることと時間と曲の一番いい状態っていうのをいろいろ考えて、この"ザクロの実"は、シンプルで行こうと最終的に決めました。で、こうしました。確かに悩んだので、ストリングスって今言われた時、『あ、やっぱね』と思いました(笑)」

──(笑)そして2曲目の"ハイリゲンシュタットの遺書"、これはもう植田真梨恵節が全開の曲で。

「おお、ほんとですか」

──有名なベートーベンの遺書っていう、テーマとしては非常に重たいんですけど、アレンジとか歌はすごくポップですよね。

「これもめっちゃ悩んで。とにかくいい曲にしたいなと思っていたんですよね。で、ふと『大切な恋人がもしも先に死んでしまったとしたら、どんなことを歌うだろう?』と思って。メロも歌詞も一緒に書いてるんですけど、今回のシングルって1曲目も3曲目も別れとか喪失をテーマにしていて。そういう意味ではこの2曲目も別れとか喪失ではあるけど、本当に天国に行っちゃって会えないっていうシチュエーションだとしたら、あたしは何を歌いたいかなと思って書いた曲なんですよ。でも歌詞の中に『死』っていう言葉を入れるのはちょっと違うなと思っていて。単純に、それが少しだけ薫ったらいいなあと」

──どういう手順で最終的にこのアレンジになっていったの?

「これはピッコピコ、シュワシュワさせて、楽しい曲を作りたいなあと思っていたので。歌詞ではわりと真摯に歌っているようなことを書きたかったんだけど、サウンドは、耳に楽しいものがいいなとひたすら思っていて」

──これ、独特な歌ですよね。

「これについては歌詞を読むぐらいのテンションで歌おうと思っていました。あんまり歌うと、それこそせつなくないなと思って。ただただ言葉が入ってくるような感じで」

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