「世界中に届く日本語のロック」を標榜し続け、2014年のメジャーデビュー以降ロックの核心そのものの楽曲とサウンドを提示してきたGLIM SPANKYにとって、2018年5月12日(土)に開催する自身初の日本武道館ワンマンライブはまさに、自らの夢への大きく力強い一歩となるはずだ。
そんなGLIM SPANKYが2018年初の新作としてリリースするのは、映画『不能犯』の主題歌を表題曲に掲げたシングル『愚か者たち』。ワイルドかつストレートなギターサウンド渦巻くミディアムロックナンバー“愚か者たち”と、伸びやかなサイケデリック感あふれる昨年の3rdアルバム『BIZARRE CARNIVAL』との位置関係、さらに「その先」へ向けて沸き立つ思いまで、松尾レミ(Vo・G)&亀本寛貴(G)のふたりにじっくり訊いた。
インタビュー=高橋智樹
毒々しい心の裏側を表現できた(松尾)
――まずは全国ツアー「BIZARRE CARNIVAL Tour 2017-2018」おつかれさまでした。ファイナルの新木場STUDIO COAST公演(1月6日)を見せていただいたんですが、“THE WALL”で始まり“アイスタンドアローン”で終わる『BIZARRE CARNIVAL』の世界観の本編の中に、自分たちの現在地を描ききっていましたね。
亀本 まだデビューして4年ぐらいで、アルバム3枚しか出してなくて……出すアルバムごとに更新していかないといけないと思っていて。ツアーも過去曲に頼るよりは、アルバムありきで観せていく方がいいんじゃないかっていうことをずっと思っていたので。「ライブだし、もっと盛り上がる曲いっぱい入れてもいいかな?」とか――フェスでやった時に盛り上がりやすい曲とかもあったんですけど、あえてそうではなく、アルバムの流れに合う曲を選んでやったので。そういう曲でもいい感じになったのは良かったなあと思いますね。
――“THE WALL”“アイスタンドアローン”はどちらかと言えばBPM遅めの、シビアで重い意思表明の曲なんですけども。それがあのライブの場所で、何よりのロックアンセムになっていくっていう。
松尾 そうですね。アッパーな曲ももちろんやるし。でも、ミディアムな重いテンポのロックもしっかり確立したいなとずっと思っていたので。お客さんも、そういうノリをちゃんと理解して、自分たちで思い思いに楽しんでもらえてるなっていう感じがあったので手応えはすごくありました。
――意志とロックのギアががっちり合ってるライブ空間だったなあと思いましたね。で、そのツアーファイナルのアンコールでも演奏していたのが、今回の新曲“愚か者たち”で――GLIM SPANKYが映画の主題歌という形で「求められているもの」と、GLIM SPANKYが「掲げていきたいもの」とが、いい形のハモり方をしている曲のような気がするんですけども。
松尾 よかったです。昔――っていうか1年ぐらい前に“愚か者たち”ができて、そこから『BIZARRE CARNIVAL』を作ったんですよ。なので、この曲は後から出るんですけど、本当はもともとレコーディングしてあって。
――ああ、時系列的には逆なんですね。
松尾 そうなんです。「これからアルバムを作る」っていうことはわかってはいたんですが、でもどんなアルバムを作るか、自分たちで予想できないので(笑)。「とにかく今、自分たちが純粋にカッコいいと思うものを作れば、たとえ次にどんなアルバムができたとしても、その後に胸を張って出せるものになるだろう」っていうことで、自分たちの好みを反映もしましたし。監督と最初にお話したんですけど……「GLIMらしさ」ってよく言われるんですけど、それって自分たちでは何だかよくわからないんですよね。自分たちはいいと思ってるものをやってるだけなので。まあ、「今までやってきたGLIM的な尖り方は消さないでほしい」みたいな――普通にならず、ちゃんと尖ったままでいいんですよ、っていうことを言ってくれたので、変に「映画だから万人受けを」とかいうことも考えずに、でももちろんいい意味での「いろんな人に聴いてもらえる曲」っていうものは考えて作ってはいるんですけど。それよりも、テレビで流れた時とか、街でパッと聴いた時に「何あれ?」みたいに思われる方がいいかなと思ってたので、サウンドも攻めてますし、歌詞も問いかけてるし、最後は「お前らさあどうする?」ってリスナーに問いかけて終わるっていう。映画のシリアスな部分とか、人間の内面の――何かに依存しやすかったりとか、誰かのひと言ですぐに人生が変わってしまったりとか、そういう毒々しい心の裏側の面も、サウンドとか歌詞で表現できたと思います。
音楽的に自分たちで何か新しい挑戦をした曲ではない(亀本)
――歌詞もそうだし、ギターのサウンドも挑みかかってくるような感覚がありますよね。イントロの印象的なフレーズも効いてるし。
松尾 あのフレーズは、迫ってくる感というか――ちょっと違うんですけど、たとえば『ゴジラ』のテーマ曲みたいな、ちょっと怪しい、怖い感じを出したくて。マイナー音階だけど強い、みたいな感じのリフを作って、それがうまくいったので。
――ロックンロールの常道とか手癖から出てくるフレーズではないですよね。
松尾 あれは亀田(誠治)さんのスタジオで――最初はあのフレーズだけなかったんですよ。あの後の、カメ(亀本)が弾いてるまた違うメロディがあるんですけど、その状態で映画サイドに出したら、「始まりにもうちょっとインパクトが欲しい」って返ってきて、いろんな方法を試したんですよ。亀田さんからもいろんなアイデアをもらったんですけど、しっくりこなくて。「ちょっと休憩しよう」っていうことで、亀田さんちのトイレで「ああ、どうしようかなあ」ってずっと考えて、手を洗いながらひらめいたフレーズが、あのリフだったんですよ。ギターを弾きながら作ってなくて、脳の中で歌いながら作ったので。「手癖で出てくるものじゃない」っていうのは、まさにそうでしたね。
――この“愚か者たち”もそうですけど、あのツアーファイナルでの亀本さんは、今まで以上にギターヒーロー感がありましたよね。
亀本 ありましたか? 特に意識はしてないんですけど(笑)。特にこの曲とかは、音的にもストレートなので、より曲に合ったステージングをした方がいいなって思ってますし、それは他の曲もそうなんですけど。ただやっぱり、この曲は僕ら的には、アルバムの前に作った曲なんで、どうしても「過去にやりたかったこと」というか……映画的に「こういう音が合うでしょう」っていうところで、自分たちのストックの中から作っていったものなんで、音楽的に自分たちで何か新しい挑戦をしたっていう曲ではないんですよね。もし映画の主題歌とかじゃなかったら、「次どんな曲を作ろう?」っていう時に、ばりばりのディストーションの曲とかはたぶんやらないはずなんですけど。でも、そういう音ってキャッチーだし、ストレートだし。観てる人からしたら、「ハードだけどよりキャッチーなものをさらに作った」みたいな見え方もしてるんだろう、っていうのも考えながらライブでもやってる――みたいな(笑)。そういう感覚も、ステージングとかに影響してるのかもしれないですね。
常にロックとして、今いる場所で攻めてることをやる(亀本)
――そういう意味での「禁じ手のなさ」は、『BIZARRE CARNIVAL』で自分たちの音楽的なボキャブラリーを一回解放できたからこそなんでしょうね。だからこそ迷いなく「わかりやすくディストーションペダル踏んだっていいじゃん」って思えるわけで。
亀本 そうですね。「これはマズい」とかもあんまりなく、「この曲にはこの方がいい感じになりそう」っていうことが普通にチョイスできてる感じがするので。どこにでも行けるし、どれをやっても踏み外したようなことにはならない、っていう感覚は今あるので。すごく曲が作りやすいというか。
松尾 逆に、始めからいろんなところに手を出しておいてよかったなって(笑)。私たちは結構、1枚目(『SUNRISE JOURNEY』)の時に「ロックなら何でもいい」と思ってやってたんですよ。サウンド的な幅をすごく広くしてたので、「この曲はGLIMらしくないな」って言われることはたぶん、あんまりないと思うんですよね。自由な振り幅があってよかったなって、今回のツアーをやって改めて思いましたし。で、サイケなアルバムの曲をやった後で、“愚か者たち”みたいな曲を出しても、みんな受け入れてくれるっていう不思議(笑)。それがすごく楽しいですね。
亀本 でも、さっき「ロックなら何でもいい」って言ってたんですけど、ロックじゃなかったらダメなんですよね。他の何であろうと、ロックからハミ出したら絶対にいけない、っていうところだけは今もずっとあるし、それは一生変わらないと思うんです。なので、お客さんも「ロックだったらいい」っていう人……だよね? たぶん(笑)。
松尾 たぶんそう。「ロック全般が好きなお客さん」みたいな(笑)。でもその中には、GLIMの激しい曲だけ好きな人がいてもいいし、優しい曲だけ好きな人がいてもいいし。だからきっと、ちっちゃい子は4歳とかから、70歳ぐらいまでのお客さんまで来てくれたんじゃないかなと思うんですよね。
――今にして思うと、1枚目の『SUNRISE JOURNEY』と2枚目の『Next One』って、音楽シーンっていうアウェイの場所にGLIM SPANKYのロックで攻め込みにいった作品だったと思うんですよね。だけど『BIZARRE CARNIVAL』は、音楽的な冒険もルーツも全開放して、自分たちの音の居場所を作ったアルバムだと思うし。だからこそ、あのアルバムを作れたことは重要だったなあっていう。
亀本 それはすごく大事だなと思っていて。僕らは最初の頃は「他のバンドと違わない」ように聴こえることも大事だったというか。でも今は、他のたくさんのバンドと並んだ時に、「どれだけおかしなことになってるか」っていうことをGLIM SPANKYがやるのが大事だなと思っていて。この間のCDJ(COUNTDOWN JAPAN 17/18)とかでも、普通に“THE WALL”とか“アイスタンドアローン”とかやってるんですけど――バラードだったら他のバンドでも遅い曲はあるけど、ロックチューンで遅い曲を、フェスのステージの最初と最後に持ってくるバンドって同世代ではまずいないし、それがポジティブに働いてるなと思っていて。「GLIM SPANKYはこういうもの」っていう存在として認知されて、そこに突っ込んでいってる感じはするんですけど、より確固たるものにしていくには、さらに明らかに違うっていうものにしていかないといけないなって思うし。
松尾 その、最初の頃の「他と並んで同じに聴こえるように」っていうのは語弊があるんだけど……私たちもみんなと同じく、「他のバンドとは違うことをやってる」と思ってるんですよ。でも、たとえばラジオとかメディアとかで流れた時に――私が好きな60年代風の、音圧はないけどすごく生々しくレコーディングされてるような音にすると、聴けない人が出てきちゃうんです。だから、「ちゃんと違うこともやってるんだけど、他と並んだ時にもちゃんと衝撃のある曲」っていう意味での「違和感がないように」っていうことなので。
亀本 でもそれはさ、音的なことだけじゃないんだよ。スタンス的な問題もあるんですよ。デビューしてサクセスしていく中で――デビュー前は僕らはBPM三桁の曲ってほぼなかったんですけど、それがいきなりBPM=160とかの曲をやるっていうのは、ある意味「攻めてた」ことだったんですけど。でも今、テレビとかフェスに出るようなバンドになった中で、そういう曲を連発しても、それって攻めてないわけじゃないですか。だから、常にロックとして、今いる場所で攻めてることをやろう、っていう感覚でいる――っていうことが言いたいんです(笑)。
健全にロックしてるなって(笑)(松尾)
――先日のライブの後にも話しましたけど、“NEXT ONE”“アイスタンドアローン”の重厚な流れでライブ本編を締め括るバンドは、まず他にいないと思いますよ。
松尾 (笑)濃ゆいですよね。最後にブチ上がり曲を持ってくるのが気持ちいいのかもしれないけど、関係なくやるっていう(笑)。最初に意思表明をしたものを、最後にも持ってきて、とどめの一撃を――っていうのを、最近はライブでも表現できるようになってきました。
――5月12日には初の日本武道館ワンマンに挑むわけですが。今の心境は?
松尾 武道館に関しては、今は特に思うことがなくて。「楽しみだなあ」って(笑)。それよりも、次のアルバムだったり次の作品に、どれだけ自分がワクワクできるかなあっていう――今はそれで頭が支配されてますね。結構クリエイティブなモードです、今は。ツアーも楽しかったし、「ちゃんとミュージシャンとして生きられてるな」っていうのが実感できてる期間ですね。ロックミュージシャンがこういうことを言うとつまらないんですけど……健全にロックしてるなって(笑)。健全に表現して、クリエイティブに生きていられているなって。決してそれをぬるま湯だと思わず、常に挑戦していきたいなっていう気持ちですね。
亀本 もちろん武道館はすごく楽しみなんですけど。ひとつしんどいなあと思うのは――今回このシングルを切りますけど、ツアーでやった曲までで構成しなきゃいけない、っていうのが大変ですね。「新しい曲を作って、今度はこういう見せ方をしよう」っていうことができないんで、今あるものの中で、ツアーと違う見せ方をする、しかも武道館で!っていう(笑)。
松尾 高校1年生の時にGLIM SPANKYを組んで、去年で10周年になって――今年11周年なんですけど、去年何もできなかったんで。自分たちの10年の歴史も見えるけれども、「全然スタートだぜ!」っていう気合も見せられるようなライブにしたいなって思ってますね。
MV
リリース情報
2018年1月31日(水)発売
¥1,300+税 TYCT-30072
収録曲:
1. 愚か者たち ※映画『不能犯』主題歌
2. In the air
3. I Feel The Earth Move(原曲:キャロル・キング)
4. 怒りをくれよ(2017.6.4 日比谷野外大音楽堂 Live ver.)※配信限定ボーナストラック
ライブ情報
「GLIM SPANKY LIVE AT 日本武道館」日程:2018年5月12日(土)
会場:日本武道館
時間:OPEN 16:00/START 17:00
提供:Virgin Music
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部