ヒトリエ、「孤独」との闘いの先に結実した「愛」のかたち――4thフルアルバム『HOWLS』全員インタビュー

ヒトリエ、「孤独」との闘いの先に結実した「愛」のかたち――4thフルアルバム『HOWLS』全員インタビュー

『IKI』『ai/SOlate』は「誰か」を意識しているぐらいの感じだったけど、『HOWLS』は完全に「相手」がいるっていう感じがする(ゆーまお)


――それこそ“ポラリス”とか“コヨーテエンゴースト”とかヒトリエ・アンセム的な疾走感のある曲もありつつ、“SLEEPWALK”みたいなポップな楽曲もあり、“November”みたいなピアノナンバーもあって。僕は最後の“青”と“ウィンドミル”の流れが素晴らしいと思うし、大好きなんですけども――。

wowaka(Vo・G) 嬉しいですね。

――“ウィンドミル”は、切れ味鋭い感じっていうよりは、もっとスケール感と包容力のある手触りの曲になっていて。新しいヒトリエの曲だなと思いましたね。

wowaka ああ、嬉しいですね。“ウィンドミル”は作ってる最中から――歌詞でも《このまま超えてゆけ》みたいなフレーズが入ってたりするし。「もういいよ! 全部受け入れたうえで行っちまえよ!」みたいな(笑)、そういう感じがあったんじゃないかな、自分の中に。だからアルバムの最後の曲にしたっていうのもあるんですけど。希望とか、前を向くとか、そういう言葉ひとつじゃ片付けられないような――大きな人間として生きていくことだったり、「成長していきたい」だったり、「前へ進んでいきたい」だったり、そういう気持ちを全部こめた曲にはなりましたね。

――歌詞の中にも《僕ら》っていう言葉が出てきますけど。「『僕』ひとりの音楽」とか「ひとり対ひとりの音楽」っていうよりは、もっと大きなスケールで共有されるようなイメージがある気がしたんですよね、特にこの“ウィンドミル”は。

wowaka 海外に行ったことも大きいのかもしれないですね、言語が違う人と触れて、去年5本――台湾・上海・北京・成都・深圳でライブをしたんですけど。もう環境から文化から、何から何まで違う人たちが、実は何も違ってなかった、っていう経験をしたんですね。「じゃあもういいじゃん」って(笑)。「みんな違って、みんな一緒じゃん」って。僕はそういう感覚だったし、メンバーそれぞれそういう感覚を得たと思うんですよね。そういう感じが“ウィンドミル”のテーマにハマったのかな?って思いますね。

――wowakaさんから「みんな違って、みんな一緒」っていう言葉が出てくるのって、結構エポックメイキングな出来事のような気がするんですけど?

シノダ(G・Cho) 言われてみれば、そうかもしれない。

――そういう「違いを包容できる」っていうモードは重要な気がしますね。

ゆーまお(Dr) 個人的な主観ですけど、歌詞とかの中でも「他人」っていうものが具体化された、みたいな感じは確かにありますね。『IKI』とか、『ai/SOlate』もそうだったけど、他人がいるような――「誰か」を意識しているぐらいの感じだったんですけど、『HOWLS』は完全に「相手」がいるっていう感じはしますね。

シノダ わかる。

wowaka 自分でもわかるわ(笑)。

ゆーまお っていうか、「自分」の話だったからさ、前は。

wowaka 『ai/SOlate』で「孤立無援」と「愛」を自分なりに考えて作品にして。それが、ライブを重ねることで――これはそれこそバンドマン特有の感覚なのかもしれないですけど、曲をリリースして、それをライブで演奏していくわけじゃないですか。日常的に演奏して、だんだんそれが自分に血肉化されていく感覚があるんですよね。「この曲が自分の中に流れている」っていう状態になっていく感覚が、少なくとも僕はあるんですよ。で、『ai/SOlate』っていう、そういうテーマの作品を作って歌い続けることで、その感覚が自分の中で当たり前になっていくんですよね。その中で、「ああ、じゃあ『この感覚を得た自分がやりたいこと』が、次のフェーズだったり、次のアルバムにつながっていく」っていう話だと思うんですよ。それで今回、「他者を意識させる」じゃないですけど、誰かに届けたい、誰かに伝えたい、人と人とのお話をする――っていう感覚で歌詞を作ることがすごく多くて。自分の中でそういう……今言ってて思ったんですけど、結構革命的な変化というか(笑)。僕は今まで、言葉を人に言葉として伝えること、言葉として受け取ることに対して、強烈な危機感と、強烈な恐怖感と、強烈な「それ違うんじゃねえ?感」があったんですね(笑)。

――(笑)はい。

wowaka それは今でもあるし。あるんですけど、そこに対して、じゃあ「人と生きていくってどういうことか」とか、「人に何かを言いたい」とか、「自分を見せたい/見てもらいたい」ってどういうことかな?って――自分なりに考えもするし、考えない部分でも意識してると思うし。そういう時、いろんな経験を経て出てきた歌詞だったり歌だったりに、今回は「誰かに伝えたい」だったり、なんなら「何を言っても、何をやっても、最終的に自分になる、自分らになる」っていう感覚があるのかなあと思いますね。


叫ばずにいられないような言葉が、今までよりも具体的な相手に向かって言われている(イガラシ)


――コミュニケーションの重さも怖さもわきまえているwowakaさんが、それでも明確にコミュニケーションに乗り出していくっていうのは、大きなシフトチェンジだと思いますね。

wowaka そうですね。「コミュニケーションをとりたい」とか「人と関わりたい」、「人にわかってほしい」、「愛されたい」、「愛したい」っていう気持ちは、マジで自分が5歳の頃からずっとあるんですよ。絶対にある(笑)。培ってきた25年分ぐらいの何かが溜まってきて、その気持ちをじゃあどう「自分のできること」で世界に対して発していくか?っていう方法を、ずっと探しているような人生でもあるなあ、って思って。で、今――それこそ言葉とか歌詞とか歌とか演奏とかを通じて、そういうことをしたい、っていうフェーズに入ったのかなあ。「新しいフェーズに入ったぞ! じゃあ、それに見合った歌にするぞ!」っていう感じではないんですけど。順番が逆なんで。「こういう歌を歌ってるっていうことは、そういうフェーズに入ったんだろうな」って。

――イガラシさんからは、そういうwowakaさんのモードの変化はどう見えました?

イガラシ(B) 歌詞がね、前よりも具体的に――ほんと個人的なことを歌ってそうだったり、それがすごく普遍的に聞こえたりするなあと思ってたんですけど。このタイトルもジャケットも、全体の歌詞の感じを汲んでくれてるなあと思って。もっとこう、根源的な、叫ばずにいられないような言葉がいっぱい出てくるんですけど、それが今までよりも具体的な相手に向かって言われているというか、すごくエモいなと思って……でも、たしかにそれぐらい波乱に富んだ1年を過ごしてきたなこの人は、と思って。

wowaka (笑)。

イガラシ だから、到達した感じがすごくして。一番「言わなきゃ気が済まない」ような言葉たちが、そこに向かって言われてるっていう。バンドメンバーとして、純粋にそれを届けたいなと思いました。

――『ai/SOlate』って、「孤(isolate)」と「愛(ai)」の間で身の置き場を探すような作品でもあると同時に、ボカロ曲“アンノウン・マザーグース”をきっかけにスタートした、いわば「ボカロP・wowakaとバンドマン・wowakaの位置関係」もひとつ大きなテーマになってたと思うんですよ。

wowaka ああ、そうですね。

――そういう対立項が、今回の『HOWLS』では対象化されているというか。何かと何かの振り幅の中でバランスを取ってる危うさみたいなものがなくて、両極の在り方を受け入れてる感じがある気がしたんですけど。

wowaka なんかでも、その感じは自分でもすごくわかりますね。『ai/SOlate』を作った時って、「ボーカロイドで曲を作ってたwowakaとは?」とか、「その時に感じたこと」、「それを経て今やってること」にどうやって自分を重ねていけばいいんだろう?みたいなところもあったし。でも結局、そういうものを全部、曲で解決してきたというか。“アンノウン・マザーグース”っていう曲は、僕とヒトリエと初音ミクが一個に同化したような曲なんで、間違いなく(笑)。そこでひとつ、「自分という人間は自分でしかないな」っていう感じになって。俺は俺だなって。たぶん感覚としては、ずっと「自分は自分」で生きてきてると思うし。でもやっぱり、周りの環境だったり、置かれた状況だったり、そうさせてくれないこともあるじゃないですか、人生においては。そういうことを全部引っ括めたうえで、「ああ、やっぱり僕らは僕らだ」みたいな感覚が――『ai/SOlate』っていう作品と、その後の海外公演も含めたツアーのおかげで、その実感がストンと自分の中に生まれて。そういう、自分の居場所の危うさみたいなところに関しては、悩んだり、怒ったり、泣いたり、迷ったり……みたいな自分がいまだにいるんですけど、居場所だったり立ち位置だったりを探して悩む自分みたいなものは、その瞬間に消滅したような気がしますね。


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