1年10か月ぶりとなるnever young beachの4thアルバム『STORY』。これまでより長めのインターバルを経て届けられた今作は、もしかしたら今までの陽気で開放的で夏っぽくてユルいネバヤンをイメージして聴くと面食らうかもしれない。とことんシンプルに削ぎ落とされたアンサンブルとリズム、そしてメロディが醸し出す平熱感は、今までの彼らとは明らかに違うからだ。しかしその新しい感じが、聴いているとじつによく僕たちの毎日にハマる。そして聴き終えると、なんだかなんでも話せる友達に出会えたような気持ちになるのだ。いいアルバム。バンドが今作で望んだ変化と変わらない根本姿勢について、安部勇磨(Vo・G)に話を訊いた。
インタビュー=小川智宏
「みんなのプレイと持っている楽器で十分素敵だと僕は思うから、感覚的にやるのはやめてほしい」っていうことは1回言いました
――『STORY』は変化作といっていいと思うんですが。
「そうですね。3枚目を出した後に変化があって、『音数を減らしたいな』って思ったんです。今まで僕ら、わりと感覚的にやってたので……まあそれがいちばん楽しくてやってたんですけど、それを今後続けていくのかって考えたときに、なんか飽きてきたな、みたいな。悪い意味じゃなくて、新しいことやってみたいなっていうふうに思ったんです。だから音数に対してはメンバーにもかなり強く言いました。ドラムがシンバル叩いたら『なんでそこでシンバル叩いたの?』とか。あってもなくてもいいなら叩かなくていいし、ベースが動くにしても『なんで動かしたのか意図がないんだったらやめてほしい』とか。『みんなのプレイと持っている楽器で十分素敵だと僕は思うから、感覚的にやるのはやめてほしい』っていうことは1回言いました。そういうルールの中でみんなの色が出たらおもしろいんじゃないかって」
――確かに今回、ドラムのシンバルほとんど鳴ってないし、タムも鳴ってないですよね。必要最低限の音になっているというか。
「そうですね。シンバルが鳴っているのは4か所とか、10いかないくらいだと思います。ギターも本数減らして、そのかわりピアノだったりマリンバだったりスティールパンだったりを入れて。いろんな楽器のもつ音色のアタック感とかグルーヴへの興味も湧いてきていたので」
――今までやったことのないやり方で、メンバーとしても大変だったんじゃないかと思うんですけど。
「だから最初はふとした瞬間にピリッとして。健ちゃん(鈴木健人/Dr)とか……僕はもうイメージがある中で『それ叩かなくていいからね』とか言うんですけど、健ちゃんがたまにパーンって叩くんですよ、適当に。『なんで今叩いたの?』って僕が言うと健ちゃんは『いや、ちょっと試してみただけ』って。でも僕はもう試すのもイヤなんですよ。だから『聴きたくない、やめてください』みたいな。するとスズケン(鈴木)も『そんなに言われるか』って感じでピリッと……。たっさん(巽啓伍/B)のベースが動いたときにも『やめて』って言ったし、阿南(智史/G)にも『それじゃないね』とか結構言ってました。でも、その都度スマブラとかやって仲直りして(笑)。そうやって少しずつ僕のモードとみんなのモードをすり合わせていきました」
――それだけ強い意志を持って変えようとしたということですね。
「そうですね。僕ら3枚出して、なんとなく夏のイメージとか、こういうことを歌ってるっていうイメージができてきてるんだろうなって思うんですけど、それがなんか安牌な気がして。ちょっとやったことない不安なことのほうがやってる最中はおもしろいから」
歌詞も音も、いい塩梅にいろんな人と出会ったり、いろんな音楽を聴いたりする中でどんどんおもしろく振り切った方向にいったなと思います
――歌詞でいえば、1曲目から《地獄》って言ってますからね(笑)。
「はははは。そういう使ったことない言葉、今までの僕のイメージとかけ離れた言葉を使っても、メロディとアレンジがあいまったことで結局never young beachなんだな、根本は変わってないのかもなっていうような印象になったらいいなと思います。でも、歌詞はすっごい迷いました。わりと今回は曲が先行でできてたので、リズムをどう出すかとかで悩むことが多々ありまして。くるりの岸田(繁)さんと一緒に新木場スタジオコーストでライブをさせていただいたあとの打ち上げで音楽の話をさせていただいたり、あと星野源さんとごはんを食べに行ったときに歌詞の書き方の話をして。そこで『なるほどなあ』と思ったのがありましたね」
――「なるほどなあ」っていうのは具体的にはどういうこと?
「『使ったことない言葉を使うことが大切だと思う。慣れてしまった言葉では昔の自分に勝てないと思うから、使っていない言葉を探して僕は書くよ』っていうことを星野さんはおっしゃってくれて。でも僕がリスナーとして聴くと、結局星野さんが歌う歌は星野さんの言葉になっているわけで、僕も怖いけどチャレンジしなきゃなって。だから僕なりにチャレンジしたけど、最終的に『安部勇磨が歌ってるんだな』って思ってくれたら嬉しいです」
――というか、むしろすごく安部勇磨的なのかもしれないなって思うんです。今までカラフルな絵の具で描いていたとしたら、今作は鉛筆でスケッチするみたいな歌詞で、だからこそより素朴に安部くんの人間の部分が出ている気がします。
「ありがとうございます。歌詞も音も、いい塩梅にいろんな人と出会ったり、いろんな音楽を聴いたりする中でどんどんおもしろく振り切った方向にいったなと思います」
――ちなみに、今回作っているときはどんな音楽を聴いてたんですか?
「バハマスとか、ヴルフペックとか。3枚目までのときはデヴェンドラ・バンハートとか細野晴臣さんのソロとか、もっと土臭いものを聴いてたんです。最近は真逆ですね。土臭かったり温かかったりところは共通してるんですけど、バハマスとかヴルフペックも空気が今っぽいというか。リズムの立て方とかが今っぽいんですよね。バハマスも前のアルバムまではもっとデヴェンドラとかに近かったんですけど、去年の『Earthtones』っていうアルバムから一気にモダンで清潔感のある音になって。今回はそこに僕もチャレンジしたいなと思って、女声のコーラスを入れてみたりとかしました。今までの音と変わったのはそういう人たちの影響がすごくありますね」
――確かに最近、土臭いサイケって減ってきてる感じはありますよね。なんでなんだと思います?
「時代の問題なのかなと思いますけどね。サイケとかロックってやっぱりものすごくアナログなものなんだなって。僕らが洞窟の絵を見て『古いな、わかんないな』って思うのとおんなじようなものになってきてると思うんですよ。どう反骨して、どう世の中に溶け込むのかっていう部分が変化して、ああいうものはなくなっていくんだろうなっていう。ヴルフペックとかも、やってることはオーソドックスで、ジャクソン5みたいな曲があったりとかするけど、当時は黒人の人がやってたことを白人の人がああいう格好でやってるのがすごく今っぽい。同じような音楽でも文化的な違いがあるだけで全然違って聴こえるおもしろさとか、そういうところが今はロックだったりするのかも」
今の世の中、運命を掴み取ろうって言ってる人が多いなって思って。別に掴み取らなくてもいいし、なるようになるし、その中でどう楽しく生きるかっていうのも大事
――そういう精神性、文化の変化に安部くんの中でシンクロする部分もあるってこと?
「そうですねえ。なんか……人に対しても音楽に対してもフラットにいたいなとか。もちろん感情が動いたときに歌詞ができたりするんですけど、それをどう直接的じゃなく、ユーモアだったりとか、『そっち』だけに加担しないような言い方にできるかなっていう。すごく怖いことだなって思うんです、最近ゼロか100かみたいになってきて、世の中結果論だけになりすぎている感じがするので。音でも迫力とか音圧だけじゃなくて繊細なよさがあったりとか、もしかしたらアレンジが寂しいって思われるかもしれないけど、倍音の余白だったりとかにおもしろさや気持ちよさがあるとか。とにかくフラットにいきたいなっていう。そういうものを細野さんの作品とかからもすごく感じてて。飄々としてるっていうか」
――まあ、細野さんは熱く何かを言ったりはしないもんね(笑)。
「そうそう、だけど奥にものすごく熱いものを感じる瞬間があったり。それは音と言葉とか、細野さんの生き方で教えてくれるっていうか。それを受け手が感じたりすることが大切なのかなと思うので」
――なるほどね。今までの安部くんの歌詞は、わりと「ここへ行こう」とか「こっちに向かおう」みたいなニュアンスが多かったように思うんですけど、今回は言ってしまえば「どこでもいい」っていう感じになっていますよね。
「ああ、そうですね。だから、僕はこう思ってるし僕の正解はあるけど、僕と真反対の考え方を持っている人にもかっこいい人はいるかもしれないし。自分がどの道をどう選んで、それを正解だと思って生きていくかってことだと思うんで。みんなも思うようにやって、みたいな。受け手の人によってどう聴こえるか、ふとした瞬間に聴こえ方が変わったりするアルバムかなと思いますね。今までは確かにドンって言ってる感じがあったんですけど、今回はスルメを噛むかのように――(笑)」
――いや、ほんとそう。
「ふとしたときに、僕もたぶん今後聴こえ方が変わっていくし、時が経っていくごとに『こういうふうにも聴こえるな』とか、そういう余白のある言葉とアレンジになっているかなと思います」
――このアルバムって、ある種の人生観とか態度の表明だと思うんです。象徴的だなと思ったのが、“Let’s do fun”と“STORY”で《運命》って言葉が出てくるじゃないですか。運命って言葉を、これほど意味もなく使うっていうのはなかなかできない(笑)。
「(笑)やっぱりパンチのある言葉だと思うし、ドラマチックな言葉ですからね。確かに僕も、生きている中で運命っていうものはあるなと思うし、人と会っていく中で運命が動いてるんだなっていうのも感じるし。それは自分たちのひとつひとつの選択がつくっていくものだと思うんです。たまには落ち込むときもあるけど、それも運命の中のただのひとつで、それはそこから上がっていくためのものかもしれないし、でも上がったらまた下がるし。それの繰り返しなんだっていうのを、どううまく、劇的なドラマチック感もなく言えるかなと。使ったことなかったし、今までの僕だったら使えなかったんですけど」
――運命は「掴み取る」ものだったり「切り拓く」ものだったりするじゃないですか、ロック的には。そうじゃなくて「そこにある」っていう感じがおもしろいし、真理だなと思うんですよね。
「今の世の中、運命を掴み取ろうって言ってる人が多いなって思って。別に掴み取らなくてもいいし、なるようになるし、その中でどう楽しく生きるかっていうのも大事だっていう。掴み取るぞ!って前向きにいきすぎた結果負荷がかかることもあるし、それはじつは前向きなのかな?って。それももちろんひとつの正解ではあると思うんですけど、全体のバランスとしてそっちにすごいスピードでいってしまってるなという。僕は今ありがたいことにメジャーで活動させてもらっているので、その中で『こういうやり方もありなんじゃない?』っていうのを伝えられたらいいなって」
(このアルバムは)いちばん未来志向かもしれない。フラットなアルバムだけに、10年後とか20年後に、自分でいちばん聴けるアルバムになってるかも
――このアルバムに“魂のむかうさき”という曲があって、この曲すばらしいなと思うんです。《大体のことは どうでもいいのさ》ってなかなか言えないですよね。そこに込められたものって、ここまで話してもらったことにつながっていると思う。
「まあ、僕が今まで話してきたこともどうでもよかったりするし、ひとつの僕の側面でしかなくて。人間いろいろな面があると思うので、こんなこと言ってるけど楽しけりゃいいやとか、これ楽しい、この曲好きだなっていうだけでやってる部分もありますから。大体のことはどうでもいいし、なるようにしかならないなとも半分思うし。でもそんな中でもみんな生きていくし、楽しいことも悲しいこともある。そうやって世界は続いてきたわけで、結局気持ちいいところとか、自分の魂が本当に思うところに向かうしかできないから、すべて受け入れていこうよっていう」
――それがつまり安部くんのいう「運命」ってことなのかなと。それを肯定するこの曲があることで、アルバム全体がポジティブになる感じがしますよね。だから、たとえば“明るい未来”みたいに直接「未来」って言葉を使ってはいないけど、このアルバムはすごく未来志向だと思う。
「そうですね、確かに。いちばん未来志向かもしれない。もともとアルバム・タイトルも『タイムマシン』にしようと思ってたんですよ。フラットなアルバムだけに、10年後とか20年後に、自分でいちばん聴けるアルバムになってるかもなって思って。そういう気持ちもあって、“タイムマシン”っていう曲も作ってたんです。今までもそういうつもりで作ってましたけど、いちばん普通に作れたので、これが未来形のアルバムなのかもしれないなと」
――そう思います。だって、アルバムの最後に“Opening”というトラックが入っているわけですから。
「でもこれ、それこそティン・パン・アレーとかも英語のセリフがある曲があったりとかするじゃないですか。あんなかっこよくできてないんですけど、あれをやりたいなとか、バンド紹介をしたいなとか、SEで使いたいなとかいうのがあって。それで阿南が元を作ってくれたんです。じゃあどこで入れるかって考えたときに、いちばん最初はテンション高すぎるかなと思って(笑)。じゃあ短いからケツにもっていって、アルバムが銅鑼の音から始まって、最後に“Opening”が入って、短いアルバムだから最初に戻ってもう1周聴けちゃうねみたいな。それがずっと続けばいいなと。そういう適当な理由で入れたら、思いのほかみなさんが『次なるアルバムに向かっていく感じもしますね』とか言ってくれて、いいかもしれないなって思ってます(笑)」
“STORY”
リリース情報
4thフルアルバム『STORY』2019年5月8日発売【初回限定盤 A】<CD+Blu-ray> VIZL-1581 ¥4,500+税
【初回限定盤 B】<CD+DVD> VIZL-1582 ¥4,000+税
【通常盤】<CD> VICL-65184 ¥2,800+税
【アナログ盤】<LP 12inch 重量盤> VIJL-60203 ¥3,500+税
<収録内容>
01. Let’s do fun
02. STORY
03. 春を待って
04. うつらない
05. 春らんまん
06. いつも雨
07. 歩いてみたら
08. 思うまま
09. 魂のむかうさき
10. Opening
初回限定盤 A・B 特典映像 『Documentary of “STORY”』
10inch Vinyl〈うつらない/歩いてみたら〉Release Tour -NAGOYA- 2018.12.1
01. うつらない
02. なんかさ
03. どうでもいいけど
04. あまり行かない喫茶店で
05. CITY LIGHTS
06. 夢で逢えたら
07. SURELY
08. お別れの歌
09. Pink Jungle House
10. いつも雨
ライブ情報
never young beach HALL TOUR 2019 “STORY”5月10日(金)札幌 道新ホール
開場 18:30/開演 19:00
5月12日(日)グランキューブ大阪
開場 17:00/開演 18:00
5月15日(水)新潟市音楽文化会館
開場 18:30/開演 19:00
5月17日(金)名古屋市公会堂
開場 18:15/開演 19:00
5月24日(金)福岡国際会議場 メインホール
開場 18:30/開演 19:00
5月29日(水)NHKホール
開場 18:00/開演 19:00
提供:SPEEDSTAR RECORDS
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部