2018年11月25日に東京カルチャーカルチャーで初のワンマンライブ『藤川千愛のACOUSTIC JAM vol.01』を行いソロアーティストとしての活動をスタートさせ、同年12月に配信シングルを3週連続リリースした藤川千愛が、1stフルアルバム『ライカ』を完成させた。「飾らない素の自分」を反映させた楽曲たちには、毒やネガティブな感情などの本音がぶちまけられている。彼女がそんなアルバムを制作した理由とはいったいなんなのか。そこには彼女の歩んできた人生が大きく関係していた。
インタビュー=沖さやこ
歌手活動を長く続けていくためにも自分を偽りたくないし、自分のありのままをみんなに見てもらいたいし、そういう音楽を作りたい
――藤川さんはよくSNSにカバー動画をアップしてますよね。クリープハイプやMy Hair is Bad、あいみょんなどなど。
「すごく好きで、よく聴いてるアーティストさんです。綺麗に整えられた曲よりは、自分の心の叫び、魂の叫びみたいな、その人のありのまま、飾らない自分が表現されている曲が好きで。特にクリープハイプさんは上京する前から好きなんです。私は思ってることやムカついたことをなかなか口にできないんですけど、クリープハイプさんはそういうことも全部歌にしているので、聴いてると心がラクになって。だから私もこれからそういう曲を歌っていきたいし、作っていきたいと思っています」
――3歳の頃から歌手を目指していたんですよね。その信念が揺らぐことはなかった?
「なかったです。すごく人見知りで、すごく口下手だけど、自分の思っていることを表現できるのが歌であり音楽で……それが唯一、生きてると感じられることなんです。生活のなかになくてはならないものだったし、音楽がないと生きていけない。だからほかのことにも目もくれず、一途にずっと歌のお仕事をやりたいと思ってました」
――おじいさまが演歌歌手というお家柄だと、音楽も身近ですよね。
「おじいちゃんは演歌歌手をやりながらカラオケ喫茶も経営していて、歌の先生もやっていたんです。家族全員が音楽を聴くことも歌うことも大好きなので、家にもカラオケの機械があって。音楽がつねに身近な環境でした。歌には気持ちが込められるから、本当に伝えたいことも伝わる気がして。だから10代の頃から前略プロフィールとか携帯のメモに、思っていたことをポエムみたいにして書いたりしてました」
――それだけ歌というものに魅了されてきた藤川さんにとって今回の歌手デビューは夢を叶えたことだと思うんです。だけどアルバム『ライカ』は前向きで晴れやかな作品というわけではないですよね。
「そうですね……曇り空みたいなアルバムだと思います」
――ということは、自分が抱えている痛みや毒までもさらけ出したい気持ちがあったのでしょうか?
「3歳からずっと歌手を目指していたところで、上京してアイドルの世界に入って、3年間活動して――その時期はすごく自分を作ってたんです。全然悪いことをしていなくても悪いと言われてしまったり、思ってることも正直に言えなくて。みんなの理想になろうと頑張って……それに窮屈さを感じて、続けられなくなってしまったんです」
――それが今回のソロデビューにつながる、と。
「歌手はずっと追い続けてきた夢だから長く続けていきたくて。そのためにも自分を偽りたくないし、自分のありのままをみんなに見てもらいたいし、そういう音楽を作りたい。だからデビューアルバムではまず、わたしのなかにあった毒やネガティブな部分をさらけ出したかったんです。だから自分の始まりとしてはぴったしの作品だなって」
お客さんと関わる機会が減ってしまったので、そのぶんライブでみんなとの距離を近くしたいし、みんなで音楽とひとつになりたい
――アルバムに収録されている10曲中7曲の作詞を、藤川さんも担当しています。ものすごく人見知りで、自分の気持ちを言葉にして伝えられないくらい臆病なのに、歌詞だとここまで強気かつ大胆に本音をさらけ出せるんですね。
「そういう気持ちは、ほんとに歌でしか出せなくて……(苦笑)。インタビューとかはすごく緊張するし、ライブもMCはすごく苦手で声も小さくなってしまうんですけど、歌ってしまうと全然平気なんです。だからライブも1曲目を歌うと『ああ、大丈夫だ』と心が落ち着いて。ほんと、歌がなかったらダメ人間なので(苦笑)」
――(笑)。藤川さんは夢を叶えるために努力を欠かさなかった人という印象があって。高校を卒業した女の子が、工場で働きながら歌手の道を目指すという根性にも感心したんです。でも、今のダメ人間発言や“夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして”の歌詞を見ていても、自分を責めるほどのストイックさがあるなと。
「こんなんじゃだめだ、このままじゃだめだ、もっとこうしなきゃっていつも思っちゃうんです。『良かったよ』と言ってもらっても『でもあそこがだめだった』『もっと伝えられたんじゃないか』って考えちゃう。お客さんに自分の気持ちや曲をちゃんと伝えられたらいいライブだと思うんです。前のライブよりもいいライブにしたいし、前のライブよりだめだったら最悪だし……つねに成長していきたいんです」
――藤川さんにとって「歌が伝わる」というのはとても大事なことである。
「そうです。歌うのは好きだし楽しいけど、自分だけで楽しむのは自己満足になっちゃうから、大事ですね。ライブはなによりも音楽が好きなみんなが集まってできる、一期一会の空間だと思うんです。だからみんなが生きているなかで忘れられない日にしたいし、みんなで音楽をもっと好きになって楽しみたい。最近は聴いてくれる人たちの表情を見ながらライブをしています」
――本音をさらけ出した歌を歌うからこそ、その歌を通して聴き手と心を通わせたいということですね。
「それまでの活動のライブではお客さんもそれぞれ好き勝手に楽しんでいるように見えて、『この人たちに私のことは見えてるのかな? 私の歌は聴こえてるのかな?』とずっと思ってたんです。あと、歌手になってから、お客さんと関わる機会が減ってしまったので、それを寂しいと思う人も多い気がしていて。だからそのぶんライブでみんなとの距離を近くしたいし、みんなで音楽とひとつになれたらいいなと思うんです。『藤川千愛のライブめっちゃ楽しいよね!』って言われる人になりたいし、『もっと千愛ちゃんを近くに感じられるな』と感じてもらえるようなライブがしたい」
――うんうん。そういう背景があるから、なおさら「もっと伝えられたんじゃないか」と思うんでしょうね。では歌詞を書くというのは、藤川さんにとっていい方向にはたらいているのでは。
「歌詞を書くようになって、自分の気持ちや考えていることを発信できるきっかけがすごく増えてます。ほんと、演じることに疲れちゃったから、その反動で歌詞も荒い言葉になっちゃって(笑)。『ライカ』は考えないで歌える、自分にとって自然な曲ばかりなんです」