洋楽ファンも唸るアニメ『キャロル&チューズデイ』、渡辺信一郎監督が音楽愛を語る

洋楽ファンも唸るアニメ『キャロル&チューズデイ』、渡辺信一郎監督が音楽愛を語る

今までの作品も音楽にこだわって作ってきたんですけど、ここいらで音楽の世界を描く作品を作りたかったんです


――『キャロル&チューズデイ』の企画は、どのような形で始まったのでしょうか?

「もともと僕は10代の頃から大の音楽好きなんです。アニメ監督をやってますけど、『音楽マニアがアニメ監督もやってる』というぐらいの感じでして(笑)。だから今までの作品も音楽にこだわって作ってきたんですけど、ここいらで音楽の世界を描く作品を作りたかったんですよね。そういう想いを抱いていた中、ずっとお仕事をさせていただいていた佐々木史朗さん(フライングドッグ代表取締役社長)から、『音楽出身でアニメも手掛けてきた立場として、決定版みたいなものを作りたい』とお話があり、『やります! その企画は、俺でしょう!』と(笑)。とはいえ、いくら音楽が好きと言っても、ただ趣味全開になってもまずいわけです。ポピュラリティもありながら、いい音楽が流れるアニメを模索しました。今のポップミュージックシーンは、とてもいい作品がヒットチャートに入っているんですよね。たとえば、ビリー・アイリッシュが1位になったり、そういう音楽をポップミュージックとして多くの人たちが聴ける健全さがあるので、『自分もそういうものをアニメで作れないかな?』と。それもこの作品が生まれたきっかけです」

――世界的なミュージシャンが、たくさん参加していますよね。俄かには信じられない方々の名前が並んでいますが。

「実は、実際に参加してくださったアーティストの何倍もの人たちにオファーしました。フライング・ロータスとか、サンダーキャットとかは大のアニメファンで、僕の作品を好きでいてくれたので、『ぜひやりたい!』と。最初にモッキーに劇伴を頼んで、ベニー・シングスに楽曲提供を頼んだんですけど、このふたりが早い段階でOKをしてくれたのも大きかったです。彼らはミュージシャンズミュージシャンなので、ふたりの名前を出すことによって、『俺もやろうかな』っていう反応が結構ありましたから」

――フライング・ロータスの“More”のMVは、渡辺監督が手掛けていらっしゃいますし、『ブレードランナー ブラックアウト2022』での繋がりもありましたよね?

「はい。ロータスは、『次は何やるんだ?』『こういうアニメをやるんだけど』『ああ。それ、俺やるから』っていう感じでした。『ポップスだって言ってるだろ。そんな曲、作れるのかよ』って言ったら一瞬言葉に詰まって、『いや……できる』みたいな。『ビヨンセやテイラー・スウィフトみたいな曲はできるか?』って言ったら、『うーん……それはちょっと無理かな』と(笑)」

――(笑)サンダーキャットは、いかがでした?

「サンダーキャットはロータスのお友だちで、腕に僕のアニメのキメ台詞の“SEE YOU SPACE COWBOY…”という入れ墨をドカン!と入れてるので、『頼まなかったらすねちゃうよ』と(笑)。だから『もちろん頼むよ』という感じでした」

――スティーブアオキも、アニメが好きなんですよね? 彼は『キャロル&チューズデイ』の劇中でも一瞬登場しますが。

「はい。アオキさんは、自分が主人公のアニメを作りたいくらいの気持ちがあるそうです。まあとにかく、作る前の段階からNetflixを通じて190ヶ国以上で放送されることが決まっていたので、世界中のどこでも通用するようなものにしたいと思っていて、『英語で歌う曲にするというのは、基本だろう』というのもありましたね。参加していただいたミュージシャンは、日本人も結構いますけど、世界に通用する方々という基準でお願いをしました」

アニメは絵なので、放っておくと嘘っぽくなってしまう。だからリアリティと存在感を出すように常に意識するんです


――声優さんと、歌を歌うアーティストを分けたのは、英語に関する部分が大きかったんでしょうか?

「そうですね。声優さんも、歌が上手い人はたくさんいるんですけど、やはりネイティブの英語ではないですから、ネイティブの英語で歌える方々にお願いしました」

――キャロルの歌を歌っているナイ・ブリックス、チューズデイのセレイナ・アン、アンジェラのアリサとか、とてもイメージに合っていますね。

「彼女たちを選んだ時点では、まだアニメを作ってなかったので、お互いに影響を受け合ったところもあったと思います。彼女たちの動きを撮影して、歌うシーンでそれをトレースしましたし」

――彼女たちが出演したライブを先日、観させていただいたんですけど、「本物が現れた!」という印象でした。

「まさに実写化ですよね(笑)。アニメを作る前からライブもやるつもりでいたんですけど、思っていた以上に上手くハマって良かったです」

――このアニメは、音楽に関係した様々な実在のものが登場するのも、ワクワクさせられるところです。ギブソンのアコースティックギター、ノードのキーボード、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)とかも出てきますね。

「はい。アニメは絵なので、放っておくと嘘っぽくなってしまうんですよね。だからリアリティと存在感を出すように常に意識するんですけど、本物の何かが出てくるというのもその一環です。関係者各位、頑張ってもらって、許諾を取って、なるべく本物を出すようにしました。前例があまりないので、最初は『アニメですか?」』という感じでも、実際に放送を観ていただけると、好評でしたね。SXSWからも、『いいね!』という反応をいただけて嬉しかったです」

――20世紀辺りのアメリカを彷彿とさせる風景や建物も印象的です。

「未来っぽい部分を入れつつも、やはり、キャラクターたちがそこで生きてるという生活感も出したかったんです。あまりにも超未来っぽくすると、観る人が馴染めないですからね。だからちょっと古い感じの建物とかも出てくるんです」

――リアリティという点ですと、物語の中で移民排斥の動きが出てくるのも、今の世の中と重なる生々しさを感じました。

「最近は、ミュージシャンたちが危機感を抱きながらアルバムを作ったりしていますしね。『そういう時代において、政治から切り離したものを作って、はたしてリアリティはあるのか?』というところで、自然とこういうストーリーになっていったんです」

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