三月のパンタシアの最新作『ブルーポップは鳴りやまない』。音楽と小説で描き出す「ブルー」をひもとく最新インタビュー

“たべてあげる”は、これまで三パシが描いてきた青春真っ只中のドキドキ感とは違う、もう少し広義的に見た愛の話

──いくつか、楽曲についても訊いていきたいんですが、まず1曲目はbuzzGさんが手がけた、疾走感のある“いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら”で、2曲目に堀江晶太さん、hiraoさんが手がけた“恋はキライだ”。この2曲は、みあさんの小説『8時33分、夏がまた輝く』から生まれた楽曲で、“恋はキライだ”が“いつか天使になって〜”のアンサーソングになっています。これ面白いアイデアですよね。

「小説をTwitterで公開していって、先に“いか天”──って呼んでるんですけど(笑)──をその物語のオープニング曲として公開したんです。で、小説が最終回を迎えた時に“恋はキライだ”をエンディング曲のような形で紹介して。これまで小説で、オープニングとエンディングという形で展開することはなかったんですけど、去年の夏に初めてチャレンジしてみて、本当にリスナーにもファンの方にも映画のように楽しんでもらえたので。アルバムで並べた時にも、アンサーソングとしての面白さが感じられるものになりました」

──それで、“たべてあげる”は、Nintendo Switch™ソフト『毎日♪ 衛宮さんちの今日のごはん』の主題歌として書き下ろされたもので、これは作曲は堀江さんですが、作詞はみあさん自身ですよね。そしてこの曲にも、みあさんは『コーヒーと祈り』という小説を連動させています。これはどういうふうに作り上げていったんですか?

「すでにあったデモの中に、この主題歌に合いそうだなと思うものがあって、そこにどう歌詞を乗せていくかという作業だったんですけど、先方からは『変わらぬ日常が続いていく安心感や幸せ』みたいなテーマをいただいていて、これまで三パシが描いてきた青春真っ只中のドキドキ感とは違う、もう少し広義的に見た愛の話──親愛とか友愛とか、いろんな愛をテーマにした、愛とは何かというものを知っていく物語が、楽曲でも作れたらいいなという思いから小説を書き始めました。主人公の女性はこれまでいろんな恋愛を経験して、失恋して、傷ついて。そんな女性が初めて純度100%で汚れのない天使のような男性と出会って、愛というものに触れていくという物語で。で、その小説をもとにサウンドアレンジを江口亮さんにお願いしたんですけど、アレンジでめちゃめちゃ変わったんですよ。すごくやさしい音、神聖でキラキラした音を盛り込んでくださって、とても気に入っています」

──タイアップとしてのお題があって、それもまずは小説として書き上げてみる、という手順だったんですね。それは、小説として物語化することで、イメージを具現化する、咀嚼するっていう作業なんでしょうか。

「そうですね。まずタイアップの原作があって、それももちろん全部読ませていただいているんですけど、それを三パシの物語として、どう落とし込むのかって考える作業なのかもしれません。タイアップ曲でない場合でも、自分の頭の中にあるものを整理するというか。小説は本当に、ざっくりとしたテーマから、結末も決めないまま書き出すこともあるので、たとえば、“不揃いな脈拍”という楽曲に結びつく『情緒10/10』という、結構重ためな小説があるんですけど、これは最初に、すごく苦しい恋愛をしている人の話を書きたいと思って書き始めました。苦しい恋愛の中で感じているどうしようもない思いを言葉にするとどうなるかっていう、漠然としたテーマから書き進めています」

──“不揃いな脈拍”はこのアルバムにおける「病み曲」という位置付けだとおっしゃってましたが、この「病み曲」はみきとPさんとの共作で。これはどうやって生まれてきたんですか?

「最初から『病み曲』を収録しようという思いから小説も書き始めて、それをどういうふうに楽曲にしようかと考えた時に、みきとさんに書き下ろしてもらいたいって思ったんです。みきとさん自身の楽曲は、トーンが暗めな世界観のものからすごくポップな曲まで幅広くて、私は中でも“小夜子”とか、“心臓デモクラシー”っていうダークな楽曲が好きだったので、今回この小説をみきとさんが楽曲にしたらどうなるんだろうと思って、お声がけさせていただきました」

──不穏なサウンドで、歌唱も見事に小説の世界観を表現していますよね。他の楽曲も、「この楽曲はこのクリエイターに」という感じで、小説を書き上げた段階でイメージしてオファーすることが多いんですか?

「それぞれ違うんですよね。たとえば“ミッドナイトブルー”という楽曲は、これまでの三パシにはない新鮮味を感じてもらえると思うんですけど、はじめは『アルバムの中に変化球的な曲がほしい』という話から、打ち込みのエレクトロサウンドで1曲作ってみたいっていうことになって、ディレクターが『こういういい曲を書く人がいるよ』ってNorくんのことを教えてくれて。聴いてみたら私もめちゃめちゃいいって思って、お会いしてみたいなと。なのでこれは、先にそういう動機があって、そこから小説を書いて、その上でNorくんとまた打ち合わせをして、という流れでした」

──なるほど。n-bunaさんが手がけた“煙”はどうですか?

「これは先に小説があって、それを読んでいただいて。その中に地方の小さなライブハウスが出てくるから、n-bunaさんは『なんとなくそこで鳴っているような音楽がいいなと思っています』ということをおっしゃっていて。なので、音数は少なめでバンド色の濃い楽曲がいいという話はしていました。私からは『さよなら』と『ありがとう』という言葉をどこかに入れてほしいというお願いをして、n-bunaさんは『ありがとうとか、歌詞で言ったことないよ』って言っていましたけど(笑)、そこはお願いして。でもすごくいいところでその言葉を入れてくれました」

“ランデヴー”は、みあとファンとの1対1の物語。その物語は一緒に見てきた景色とか、これまで歩んできた道の中にある


──様々なクリエイターと共に多様な「ブルー」を描いた今作ですが、ラストの“ランデヴー”は、特に小説とは連動させない、しっかりライブ感を感じさせる曲ですね。

「この曲は、そもそもライブでお客さんと一緒に盛り上がれる曲を作ろうというところから制作したので、じゃあ、そこで何を歌いたいかと考えた時に、みあとファンとの1対1の物語を書きたいなと思ったんですよね。だから、それに基づく小説はないんです。物語はもうすでに、一緒に見てきた景色とか、これまで歩んできた道の中にあると思ったので、ここで新たな物語を創作で書くっていうのは違う気がして」

──フィクションではない関係性っていうことですよね。これがアルバムのラストにあることで、今後の三パシの活動がまた楽しみになるという。

「こういうふうにライブで出会ったよね、楽しかったね、こうやっていつも助けられているよっていうのを歌詞に書きました。アルバム全体のテーマとしても、新型コロナウイルスの影響で、世の中のブルーが、制作当初に考えていたものよりもかなり具体性を帯びてしまったこともあって、そうした日常に入り込む憂鬱な気分を拭い去るようなアルバムにしたいなという思いも、完成までの間に強くなっていきました。だから、最後はより明るい気持ちになって、これからの物語を空想してもらえるようにしたかったんですよね」

──「ブルー」でありながら、とてもポジティブに音楽を楽しめる作品です。小説と音楽とイラストで表現していくという手法は、今後も引き続き追求していきたいと思っていますか?

「自分の中で、もの作りに対する興味がどんどん膨らんでいる気がしていて、小説も書けば書くほど面白くなってきているんですよね。なので小説での表現は個人的には続けていきたいと思いつつ、たとえば今YouTubeで公開している動画とかも、これがアニメーションだったらどうなるんだろうって考えたりもしていて、さらに新しい表現にもチャレンジしていきたいです。前に進んでいくことは変化していくことでもあるので。三パシが描く『終わりと始まりの物語を空想する』とか『言いたくても言えない切なさ、もどかしさ』っていうテーマは大切にしつつ、これからも新しく前に進んでいく姿を見せられたらいいなと思っています」

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