Tempalayは東京のインディーシーンで長年にわたって強烈な存在感を放ち続けてきたバンドだ。中心人物・小原綾斗(Vo・G)の目を通して見える世界の奇天烈さ、それを繊細かつ大胆に音像化していくふたりのメンバー。サイケで超現実的でめっちゃ楽しい、だけど時々ゾッとするほどリアル。そんな音楽を彼らはずっと鳴らし続けてきた。メジャーに移籍して放つ4thフルアルバム『ゴーストアルバム』でもその本質はまったく変わらない。というか、コロナ禍の2020年を通して作られたこのアルバムは、恐ろしいほどにこの時代とそこに生きる人間の生々しい部分を刻みつけていると思う。メンバー3人に話を聞いた。
インタビュー=小川智宏
やっぱりどうしても、この1年を作品にする以外にすることがなかった(小原)
──2020年の空気をそのまま音楽にしたような、すごく時代とのリンクを感じさせるアルバムだと思いました。今作を作るうえで、世の中の状況や雰囲気はどれくらい影響を与えたと思いますか?
小原綾斗(Vo・G) 最初、アルバムを作り始めた時に考えていたテーマとは変わったんですよね、やっぱり。どうしても、この1年を作品にする以外にすることがなかったというか。それぐらい強烈だったので。最初は「創作の根底と過程」っていうテーマで作り出したんですけど……最初は去年の7月に出す予定だったので1月、2月くらいから作っていったんです。でもそのうちに、なんかそんな気分じゃないっていう感じになって。
John Natsuki(Dr) でも、今もまだフルで、通して聴いていないんで、だからまだ答えは見つかってないんですよね。
──そうなのか(笑)。前作から向かっていく中で、綾斗さんの中ではどういう流れがあったんですか?
小原 “大東京万博”からの流れは自分の中ではちょっとありました。なんというか、どこぞの民族かわからない……多国籍とかっていう言葉ではなくて、でもどこかノスタルジックな心象のせめぎ合いを元にしていくっていうのをより如実にした、みたいなところはあるのかもしれない。
──その民族的な感じも含めて、今回リズムがすごく強くなったなっていう感じがしたんですけど。
小原 ああ……今回ベースを弾いてくれたのがBREIMENってバンドの高木祥太ってやつなんですけど、彼にがっつりアレンジから加わってもらったっていうのが結構大きかったかな。
Natsuki ミックスもあるかもしれないです。前はわりと録り音に忠実な感じだったんですけど、今は結構コンプとかもいつもより強めに使ってて。だからフレーズ自体はそんなに変わっていないんですけど、今回はそういうふうに聴こえるっていう。
──AAAMYYYさんは今回どういう意識で制作していました?
AAAMYYY(Cho・Syn) 前作よりも、あまりTempalayっぽさというのを俯瞰した自分ではやらなかったかもしれません。何か今までは、間を縫うような、接着剤みたいな役割に徹していたんですけど、今回はそういうものもありつつ、いかに綾斗の描く世界観を立体的にするかっていうところに目を向けてました。
出すぎちゃいけないみたいなのがこれまではあったけど、今回は自分がかっこいいと思うことはすぐ出していこうって思った(Natsuki)
──さっきのリズムの話もそうですけど、確かに3人のキャラみたいなものはより色濃く出ていますよね。それによって全体のエネルギー量が増しているというか。バンドのメカニズムが変わってきたところもあるのかな。
Natsuki それは確かにその通りです。なんか……出すぎちゃいけないみたいなのがこれまではあったと思うんですけど、去年はひとりでそれぞれいる時間が多かったのもあって、自分がかっこいいと思うことは普通にすぐ言って出していこうって思った。それはもしかしたら今まででいちばんあるのかもしれない。
小原 やり方も変わりましたしね、そういえば。今まではメンバーにもある程度曲を聴いてもらったうえで一泊とかでスタジオ入ってみんなで作ってたんですけど、今回はコロナもあったんで、データでやりとりしていったんですよ。それでほとんど作っちゃって、あとはスタジオでレコーディングするだけっていう。だからレコーディングまでみんなが何をやってくるかわからないみたいな状況で、それは前回までとはまったく違いました。
Natsuki そういうのも含めて、前よりやっちゃえ感は確かに強いかもしれない。もう当日だし、やっちゃえみたいな(笑)。
小原 そこが「ビックリマンシール」的でよかったんですよね(笑)。
──でも「ビックリマンシール」は当たり外れがあるじゃないですか。そういう意味ではどうだったんですか?
小原 だから最後まで納得しないやつもありました。納得しないというか、わからない。要は、自分のスイートスポットにハマりきらないまま歌録りまで行って、なぜか歌録りで良くなるっていうパターンとかもあったし。でも、俺が100%作らなきゃいけないみたいなところが年々増していってたけど、今回は投げっぱなしでいいなと思ったんです。全部いい感じにしてくれるっていう信頼感は勝手に思ってました。
──今回1曲目の“ゲゲゲ”に「緊急事態宣言」っていうスポークンワードが入っているじゃないですか。こういう、思いっきり具体的でリアルタイムなワードを入れるというのも、これまでのTempalayにはなかったと思うんですけども。
小原 なんか、「緊急事態宣言」って言葉めっちゃおもろいなと思って。すごく変な言葉だと思うので、意味もわかってない子供たちが、それを、言葉だけ覚えて叫んでるみたいな。
AAAMYYY それ、誰かが言ってた。「ママ」、「パパ」のあとに覚えた言葉が「緊急事態宣言」だったって(笑)。
小原 マジ?
──ははは。まあ、ありえますよね、これだけ世の中で流れてたら。
小原 だから全然重い感じでやってないんですけど、こういう取り扱いづらいものをくだらない感じにする、そういう遊びが楽しいっていうか、それで見えてくるものもあるかなっていう……ことを、ヨシタケシンスケさんという絵本作家が言ってました(笑)。
──人の言葉っていう(笑)。
小原 まあ、要は、両方を同じ熱量で取り扱うと。それはまさしくそうだなって思うんですよね。だから『ゴーストアルバム』っていうタイトルもそうだけど、なんかいろんなふうに捉えてほしいなという。