2008年の結成以来、ほぼ1年に一作のペースでコンスタントにオリジナルアルバムをリリースし続けているNothing’s Carved In Stone。2019年には自主レーベル「Silver Sun Records」を設立し、バンドサウンドのアップデートを強く感じさせた10thアルバム『By Your Side』をリリース。そのフレッシュなモードによって、バンドの進化はさらに加速する。2020年8月にリリースされたセルフカバーアルバム『Futures』を聴けばわかるが、バンドの音と歌は驚くほど有機的な響きとグルーヴを持つようになった。メンバーそれぞれのプレイがせめぎ合うようなスリリングなアレンジはNCISの持ち味でもあったが、彼らは今、バンドの存在意義としてそれを第一義とはしていない。11作目となる最新オリジナルアルバム『ANSWER』が、まさにその答えとも受け取れる、現在進行形のNCISの音を聴かせているのだ。やわらかで生々しいロックサウンドは、まばゆいポップネスにも溢れ、その歌と音はとても「豊か」だ。これほど長く活動を続けてきたバンドが、今なおナチュラルに時代性を携えながら、自身のロックサウンドを更新していけるのはなぜなのか。今回はアルバムの制作背景をひもときながら、生形真一(G)と日向秀和(B)に、NCISの現在地を語ってもらう。
インタビュー=杉浦美恵 撮影=アミタマリ
もっと開けた感じの音にしたかったんです。サビのメロディがすごくよかったので、これをもう少し開くのにはどうしたらいいんだろうって(日向)
――NCISのソリッドでシャープな音作りの中にも、今作にはやわらかさとかあたたかさも感じられて。スケールの大きなロックサウンドと歌で、素晴らしいアルバムができあがったと思います。どんな変化があったんでしょうか。日向 シンプルに生々しさを表現できるようになったというか。それがいちばんでかいかなと思うんですけどね。今までは、そういう臨場感みたいなものを出そうとしてもなかなか叶わなくて。それが今はどんどん、アレンジ含めて、新しいエンジニアさんとうまく表現できるようになってきています。
生形 最近はひなっち(日向)がデモを持ってくることが増えてきて、曲を俺とふたりでアレンジして作り込んでいくっていうやり方が多くなっているんだけど。
日向 そのデモの段階で、アレンジが結構ガチガチに決まってるんですよ。それを元に、オニィ(大喜多崇規/Dr)や拓ちゃん(村松拓/Vo・G)が他のプレイを試してみるとか、さらに細かくするとかではなく、みんな「そのままの形のものを、どうやったらいちばんいいバンドサウンドで表現できるだろう」っていう感じで、共通認識を持っていた感覚でした。
――2021年は、まず1月1日に、今作のラストにも収録されている“Bloom in the Rain”が告知なしのサプライズでリリースされました。
生形 去年から、曲をとにかく作ってたんです。今回のアルバム曲は、できた時期が結構バラバラで、“Bloom in the Rain”は最初のほうにできていた曲。パッケージにして出すとどうしても時間がかかるので、作った曲をちょっとずつ出していきたいなというのはありました。配信だと、完成した2週間後にはリリースできるんですよね。俺らも新鮮なうちに出せるから、コンスタントに出すようにしてましたね。
――“Bloon in the Rain”の2ヶ月後には“Wonderer”が配信されて、確かにペースが早かったですよね。
生形 うん。このちょっと前くらいから、ひなっちがデモを持ってくることが増えて、そこからふたりでアレンジしていくっていう。“Wonderer”はまさにそういう曲で。
――ストリングスを効果的に入れるアイデアも、日向さんから?
日向 ストリングスアレンジについては、マニピュレーターさんというか、プログラマーさんがいて。なんでも打ち込みで入れてくれるので、「こんな感じでストリングスのアレンジお願いできます?」って頼みました。
――とてもスケール感のある、あたたかみを感じる楽曲になりましたよね。
生形 マニピュレーターも入れて、結局3人でずっとやりとりをしていたんだよね。リズムを打ち込んでもらったり。だから今回“Wonderer”もそうだし、アルバムの曲はほとんどそうやって作りました。“Bloom in the Rain”だけかな、普通に作っていったのは。今までは4人でプリプロして、ある程度できたあとでマニピュレーターに渡す、っていうやり方だったんだけど、今回はひなっちとふたりで作るところへマニピュレーターに入ってもらって。
――9月に配信リリースされた“Beautiful Life”もそうやって作っていったんですね。ギターサウンドのエフェクトが面白くて、全体の音像としてはすごく歪んでいるのにとても開けているというか、オープンな感じの楽曲になっているのが興味深いです。これはまずどちらがデモを?
生形 これは俺です。作った時からすごくポップな曲になるなって思ってたんですよ。だからちょっとギターの音は面白くしようかなっていうのは考えていました。でも、これは当初とアレンジはだいぶ変えましたよ。最初はもっと普通なロックっぽい感じで。録る1週間くらい前になって、ひなっちが変えてきたんだよね。最初はもっとこう、ゴリゴリしたロックで、4つ打ちっぽい曲で。
日向 もっと開けた感じの音にしたかったんです。サビのメロディがすごくよかったので、これをもう少し開くのにはどうしたらいいんだろうって思ったら、もうちょっとテンポ感は速くして、でもタイム感は遅くっていうか。
生形 ノリはでかくね。
日向 そう。実は80年代のハードロックを聴きながら作っているんですよ、これ。
NCISって、攻めたアレンジのものが好きな人が多いイメージがあるんですよ。でもそんなことでもないんだなって(生形)
――でも言われてみれば、“Beautiful Life”の音色のオープンな感じとかは確かにそうですね!日向 80年代のヘヴィメタルの感じとか。モトリー・クルーとかも聴いてましたから(笑)。
生形 そこに、サウンド的に今の要素を入れて作っていきました。
――これ、リリース後はリスナーにもちょっと驚きをもって迎えられた曲だったと思うんですけど。
生形 そうですね。ここまでポップな曲もなかったから。でも思ったよりメンバーみんな、こういうの好きなんだなって思いました。NCISってやっぱり、攻めたアレンジのものが好きっていう人が多いイメージがあるんですよ。でもそんなことでもないんだなって。
――アルバムでは、その“Beautiful Life”のあとに“Walk”という曲が入っていて。この曲にもポジティブでオープンなバイブスを感じます。この曲も生形さんが?
生形 いや、これはひなっちから出てきました。
――面白いですね。ふたりがそれぞれ持ってくる楽曲が、どんどんオープンでやわらかいものになっているという。そうやってモードが合致する場面は多くなっていますか?
生形 やっぱり、もう12年もやってるんで(笑)。それは俺らふたりに限らず、4人の意思の合致というか、通ずるものがあるというか。
――“Walk”の歌詞はどなたが?
生形 歌詞は俺が書きました。やっぱり根本的に俺は聴く音楽もポジティブな歌詞が好きなんで。元気が出るっていうか、力になる、エネルギーになる曲が好きで。それは昔から一貫してるかもしれないです。