『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』の毒島 メイソン 理鶯役などを務める人気声優・神尾晋一郎と、ROCK IN JAPAN FESTIVALなどで活躍する「DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ」でおなじみのミュージシャン・間宮丈裕という、意外なふたりによって組まれた純文学樂団・KATARI。
近代日本文学作品をポップミュージック/ヒップホップに落とし込んだもの、と言えばいいだろうか。KATARIの楽曲は、文学作品の一節をモチーフに、間宮のトラックとメロディ、神尾の朗読で織り上げられている。宮澤賢治『雨ニモマケズ』のような誰もが知っている作品から、難解な北原白秋『邪宗門』まで作品はさまざまだが、いずれも音楽として楽しみながら作品の世界観を味わえる、不思議な聴き心地だ。それは、凄みのある変幻自在の朗読で作品の真髄を伝える神尾と、作品に込められたスピリットを精巧なトラックとポップなフックに変換する間宮――という両者のバランスがあればこそ。この斬新なスタイルはどのような経緯で始まったのか? そして、楽曲に対する強いこだわりとは? 活動開始1周年を前に、熱い想いをふたりに語ってもらった。
インタビュー=後藤寛子
「歌詞はどうする?」ってなった時に、「青空文庫に名文中の名文が転がってるじゃないですか」って(神尾)
――そもそも、おふたりの出会いはというと?神尾 最初は、僕がDJをやった時にゆっぺくんの曲をかけたのを共通の知人が聴いていて、紹介してくれたんです。そのあと、初めて会った時に話しているなかで、僕が「歌とかはそこまで得意じゃないんですけど、僕の声めちゃめちゃいいんで、サンプリングして何か作りませんか?」みたいな乱暴なお願いをしたのが始まりですね(笑)。
間宮 最初、サンプラーに入れる『神尾サンプルパック・エッセンシャルvol.1』を作ろうみたいな話が出ましたよね(笑)。で、もっと面白いことができないかなって考えた時に、当時僕のなかで流行ってたポエムコアを思いついたんです。いわゆる叙情系ハードコアというか、ボーカルが語りをするハードコアなんですけど、ライブや曲から熱量をすごく感じていて。ポエムコアやってみません?と。
神尾 すぐに「いいね」「じゃあ歌詞はどうする?」ってなったんですけど、「それはもう、青空文庫というところに名文中の名文が転がってるじゃないですか」って僕が提案して。「じゃあ、とりあえず朗読を送ります」ということで、夏目漱石の『夢十夜』の「第一夜」を読んで、家で録って翌日送りました。でも、「第一夜」だけでもだいたい17分くらいあるので、それだと朗読が強すぎて曲じゃないよねということで。
間宮 僕としては、せっかくやるんだったらちゃんと音楽にしたいし、しかもチャートに入るくらいの音楽を目指すべきだなと思ったんですよ。そうなるとやっぱりメロディが必要だから、もうちょっと短いやつをくださいって伝えました。
神尾 じゃあ短いもので、誰もが知ってるものをってことで、宮澤賢治の『雨ニモマケズ』にして。さらに、歌になるように、ここからここまでをフックにして繰り返そうか?みたいな編纂を始めたんですよね。
間宮 そこからは僕のスタジオで、完全にノリで作りました(笑)。なかなか無茶ぶりでしたもんね。当日『雨ニモマケズ』のフックとなるメロディをその場で考えて、コード進行を作って、「じゃあ神尾さん、歌ってください」って。結果的に、題材は昔のものを扱いつつ、コライトっていうわりと最先端の音楽の作り方になったのは、面白いハイブリッドだなと思いました。
――たしかに。おふたりでどんどん進めていったんですね。
神尾 お互いが「これどうかな」「いいじゃんいいじゃん!」っていうタイプなので。その熱意のまま進んだ感じです。
間宮 神尾さんが、マジで全肯定マンになってくれるので、自己肯定感めっちゃ上がるんですよ(笑)。
作家さんによって文節の切り方や母音の使い方に個性があることが見えてきて、めちゃめちゃ楽しい(間宮)
――まさに、朗読を知っている声優さんとプロデューサー、コンポーザーとしてやってきた間宮さんの両方のフィールドが交わって生まれたという感じがします。神尾 朗読って、声優としての技術をいちばん見せられるものだと思ってるんですよね。でも、意外と敷居が高く思われているから、もうちょっとみんなが親しみやすいものにしたいって考えた時に、音楽というフィルターを通すと知りたくなる人がグッと増えた印象があります。
――実はこんなにキャッチーなフレーズが出てくるんだとか、メロディをつけることでわかる日本語の美しさとか、グルーヴを感じられますよね。有名なところで、中原中也『山羊の歌』の「汚れつちまつた悲しみに……」とか、すごくキャッチーなパンチラインですし。
間宮 そうですよね。悲しみって汚れるんだ……みたいな。表現が本当に新鮮ですし、もっと勉強しなきゃって思います。
神尾 普通だったら絶対「であるが」「であるが」って2回も続けないところを、「続けちゃうんだ?」って思うけど、読んでみるときれいだったりするのも楽しい。
間宮 僕は全然文学に詳しくなかったんですけど、曲にしていくなかで最近ちょっと法則というか、文章と文章が持つリズムの関係性にいろいろ気づいて。まだ感覚的なところも多いんですけど、メロディにしやすい文章としにくい文章の違いがわかってきたんですよ。作家さんによって文節の切り方や母音の使い方に個性があることが見えてきて、めちゃめちゃ楽しくなってきてます。一曲のなかに同じ作家さんの違う作品を組み込むと世界観が変わっちゃわないかなと思ったら、その人はその人の言い回しがちゃんとあるから繋がるんだ! とか。
――なるほど。どの作品のどの部分を繋ぐかの編纂は神尾さんが決めてるんですか?
神尾 そうですね。僕は音楽にしやすいかどうかとかは考えずに投げてますけど(笑)。
――もともと文学はお好きだったんですか?
神尾 はい。声優界でもかなり朗読劇に出演しているほうですし、それだけたくさん読んでいる自負があります。だから、たとえば与謝野晶子だったらやっぱり『みだれ髪』が有名で、「ってことは弟さんが戦争に行く話だから~」みたいなイメージを持ってる方が多いと思うんですけど、与謝野晶子にはそうじゃない面もいっぱいあることを伝えたくて。ゆっぺくんにも「与謝野晶子は与謝野鉄幹と結婚したあと、12人子供を産んで、鉄幹が働かない分働いて、詩も書いてるんだよ。すごくない!?」って説明したりしました(笑)。すごくパワフルな人じゃないですか。そういうふうに、メジャーな作品からマイナーな作品も取り入れて、いろんな側面から魅せたいという気持ちがあります。