【インタビュー】最高傑作『LOVERS』が示す「愛」の意味──結成10周年、バンドの軌跡を平部が語る

【インタビュー】最高傑作『LOVERS』が示す「愛」の意味──結成10周年、バンドの軌跡を平部が語る
reGretGirlは今年結成10周年を迎えた。これまで多くのリアルな失恋ソング、恋愛ソングを奏で、大いなる共感を集めてきたreGretGirlは、アーティストとして、また人間として様々な経験を経て、より大きな「愛」を歌うバンドへと成長した。

その集大成とも言えるのが、前作『tear』から約2年ぶりとなるフルアルバム『LOVERS』だ。先駆けて、今年4月にリリースした“エバーソング”は、まさに彼らの進化(深化)を感じさせる1曲で、大きな時の流れの中で歌うまっすぐなラブソングは、世代を超えて多くの人の心を捉える楽曲となった。

バンドのフロントマンにしてソングライターである平部雅洋(Vo・G)は、今なぜ真正面から「愛」と向き合ったのだろうか。そして、それを体現するバンドサウンドはいかに成熟していったのか。普段はあまり語られることのないメンバーへの思いも含めて、平部にじっくり語ってもらった。

インタビュー=杉浦美恵 撮影=小財美香子


(“帰り道”は)当時、スカスカのライブハウスで演っていた頃の景色とかがすごいフラッシュバックする。だからどんどん思い入れが深くなっちゃいましたね

──『LOVERS』、素晴らしいアルバムになりました。「やさしさ」や「あたたかさ」や「愛」の表現がかなり深まった作品だと思います。

reGretGirlはずっと「愛」をテーマにしてきたんですけど、ひと口に「愛」と言っても、インディーズのときなんかは特に、恋愛だとか失恋だとかの曲が多くて、でも生きてるとそれだけじゃないし、前作の『tear』でもそうだったけど、もうひとつ踏み込んだ愛を歌いたくて。今回は「愛するものたち」という意味で、そこには自己愛も含め、恋愛以外にも家族愛だったり、物に対する愛であったり、いろんな愛について表現しています。いろんな愛が溢れていて、僕らもそういう愛を持ったバンドでありたいという思いから、このタイトルにしました。

──アルバムのラストに“帰り道”が収録されているのも象徴的で、この曲は、自主制作時代の楽曲を再録したものだということですが。

reGretGirlとして、いちばん古い曲ですね。僕は失恋のショックが大きすぎてバンド始めた変なヤツなんですけど、大学生活にもなじめずにいて、当時は生きるのも大変だと思っていた時期でした。そこで“帰り道”という曲ができて、自分でもすごくいい曲だなと思えたんです。これがあったから、もう少し頑張ってみよう、バンドをしっかり形にするまで頑張ろうと思えました。自分が作った曲に支えられるって不思議な感覚なんですけど、曲がどこか独り歩きしていくような、その感覚を“帰り道”にはすごく感じていましたね。


──当時から10年が経ち、今、より深い思いを込めることができているのでは?

ソングライターとして走り出しだったので、歌詞の内容なんかは、やっぱり若いなって思うところもあるけれど、これをライブで歌ったりすると、今も当時のことが鮮明に蘇るんですよ。当時、スカスカのライブハウスで演っていた頃の景色とかがすごいフラッシュバックする。だからどんどん思い入れが深くなっちゃいましたね。

──ある意味、原点ですよね。平部さんの創作の衝動が込められている曲でもあるし、今聴いてもreGretGirlの真骨頂を感じる曲。そして、この曲で表現した感情が、今回の『LOVERS』までつながっているような気がしました。

アルバムを作っていると、特に思い入れの強い曲というのができてくるんですけど、今回、“エバーソング”がまさにそんな1曲で。“エバーソング”は今の僕らの集大成というか、それこそ真骨頂かなと。普遍的でありながら具体性を持っていて、これは広く共感を呼べる歌になるんじゃないかと思いました。たとえば1枚目のアルバムに“カーテンコール”という曲があるんですけど、あの曲でも愛する人への思いを書いているんですよね。あの当時は自分でも最高点を叩き出したつもりだったんですけど、今思うと、どこか地に足がついてない、背伸びしてた感じなんです。「愛」というテーマで曲を書いてみると、それが露わになる気がします。


自分自身の人生のテーマとして「思いやりとやさしさ」に重きを置いているんですけど、バンドを続けていくほどに、その思いは大きくなっています

──いろんな「愛」を描いたアルバムということで、1曲目の“ハンワライナー”などは、reGretGirlがずっと持ち続けている地元愛を強く感じられる曲ですよね。

僕、JR阪和線の沿線沿いに住んでるんですけど、そこを走っていた特急の名前なんですよ。今はもうなくなってしまったんですけど、僕は地元ラバーなので、今回このアルバムのコンセプトに超特急がうまく乗ってくれたなっていう感じがしてます(笑)。

──バンドのアグレッシブさとあたたかさを感じる1曲だし、歌詞も細部にまでこだわりが詰まっていますよね。この曲だけじゃなく、やはり今作はいつにも増して繊細に「言葉」を紡いでいる気がします。“陽のあたる言葉”などは、まさに言葉に向き合った曲ですし。

“陽のあたる言葉”は、実はデモを作っていた段階では全然違う歌詞だったんです。失恋の切ない系の歌詞だったんですよね。でも、曲の雰囲気があたたかいから、これはもっと、その雰囲気に合った歌詞にしたほうがいいと思って。今回“エバーソング”が先にできていたのもあって、それを踏まえて、もうひとつ焦点を絞った「愛」を歌いたくて。年々言葉に対する姿勢というか、作詞の時の『もう一歩』の踏み込み方が自分でも変わってきているというのはありますね。それが今回のアルバムで顕著に出てきて、歌詞と自分がしっかり噛み合ったっていう感じがしています。

──そうした、まっすぐに「愛」を見つめる作詞もあれば、reGretGirlらしい遊び心のある曲も、いつにも増して「言葉」が研ぎ澄まされている気がします。“オトナビゲーション”は今、世間でよく耳にする言葉を真正面から斬るような視点で描かれていて。溜飲下がりまくりな1曲というか(笑)。

自分が日頃から思うことはいっぱいあって、でもそれを、たとえばSNSで表現するのはナンセンスだなと思っていたんです。じゃあ、僕の武器である作詞作曲で言ってみようと(笑)。これ、外に向かって言い放つように書いてますけど、自分に対して鞭打つような感覚でもありますね。

──《常識知ってないやつは/常識破りにはなれないぜ》とか《他所の出来事で/自分の株を上げようとかすんなよ》とか、平部さんの眼差しって、やっぱり鋭いなと思いました。

ずっと、自分自身の人生のテーマとして「思いやりとやさしさ」に重きを置いているんですけど、バンドを続けていくほどに、その思いは大きくなっています。というのもあって、SNSなんかを見ていると、「もうそんなことでいちいち噛みつかんでもええやん」っていうことが多すぎるんですよね。何かひとつのことだけ取り上げて文句言ってたってしょうがない。もっと多面的に物事を見ないと本質は理解できないのになあと思うことがすごく増えた。で、それこそ僕がそれをSNSで言い出したら同じ土俵に上がってしまうことにもなるんで。なので曲にするという昇華の仕方しかなかったという感じです。

──それを説教くさくなく伝えられるのがreGretGirlのユーモアセンスですよね。

この曲は特にそれを意識しました。これ、普通に言ってたらほんまにただの説教になってしまうので(笑)。それを回避するためにも、曲はキャッチーに、リズムも4つ打ちにして、メロディラインも意識しながら作りましたね。

次のページreGretGirlは3ピースのロックバンドではあるけれど、それだけじゃ面白くないし、固定観念にはとらわれず、その自由さみたいなのも表現したくて
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on