人は誰しも、自分の弱さや、叶わなかった恋、終わってしまった関係については考えたくないものだ。
それでも、音楽がそれらを真正面から描いたとき、私たちはそれに耳を傾けずにはいられない。
「ありがとう」と言えばよかった。
「好きだ」と伝えればよかった。
「ごめん」と謝ればよかった。
たった一言で変わっていたかもしれないのに、意地や照れ、タイミングの悪さ、あるいは傷つくのが怖くて、それでも時間は待ってくれない。
「もう取り戻せない」とわかって初めて、本当に大事だったものを自覚する。
そして、そのどうしようもない後悔のなかで、私たちは、彼らの音楽に出会えた。
この夜鳴らされたのは、青春の痛みと向き合う勇気をくれる音楽だった。
会場を出ると、雪が降っていた。
冷たいはずの空気が、不思議と優しく感じられた。(古閑英揮)