──あと、今作で遊び心を感じさせる曲と言えば、“知らんけど”ですかね。これはもう、まさしく平部節。reGretGirlは3ピースのロックバンドではあるけれど、それだけじゃ面白くないし、固定観念にはとらわれず、その自由さみたいなのも表現したくて
すべてのことから責任逃れをさせてくれる魔法の言葉ですね。知らんけど(笑)。
──こんな便利な言葉ないですよ(笑)。堂々たる無責任さで。
そうなんです。関西人でよかったなって思います(笑)。植木等の“無責任一代男”の次はこの曲です(笑)。
──令和の無責任ソング(笑)。でも結構本質的な部分を突いてくるんですよね。楽曲としてはスクラッチノイズが入ってたり、ちょっと懐かしい日本のヒップホップを感じさせるサウンドだったりして。
そうですね。90年代ヒップホップを意識して作っています。この曲、ライブとかアルバムにフックが欲しくて作った曲で、ライブでは僕はギターを下ろして歌っちゃおうと思っています。
──おお、ハンドマイクで?
はい。reGretGirlは3ピースのロックバンドではあるけれど、それだけじゃ面白くないし、思いついたことをやっていけるのもバンドの面白さなので、固定観念にはとらわれず、その自由さみたいなのも表現したくて。なので、バンドらしさみたいなことは度外視して作りました(笑)。
──『告白e.p.』で“バブルス”という曲がありましたけど、今回はさらにラップに振り切りましたよね。韻の踏み方もわかりやすく心地よくて。
リリックも書いていて楽しかったです。いつもはどうしても歌詞の意味を突き詰めながら書くことが多いんですけど、“知らんけど”は、その一歩手前のところで書き上げようと思っていたのもあって、このアルバムの中ではいちばんサクサク書けました。パズルをはめていく感覚で歌詞を書くっていうのがすごく面白かったんですよ。これは少しクセになりそうです(笑)。
──“摩訶不思議ヒステリー”は逆に、3ピースの衝動ですよね。今回も駆け抜けるような1曲がアルバムに収録されていて。
ショートチューン大好き人間なんで。これもアルバムのスパイスとして入れてます。reGretGirlがこれまで描いてきた失恋というか、情けない男の曲になっているんですけど、それを、より言葉とメロディのハマり方みたいなところを重視して。意味を求めるというよりは口に出したくなるような言葉の流れを意識して作っていきました。
──そういう作詞の楽しみ方も大事にしたい?
そうですね。自分の中でしっかり意味を求めて、どう伝わっていくかを突き詰めて書こうと思う曲もあれば、この曲みたいに聴いて気持ちよく言葉が入ってくるような曲もあって、それぞれ入り口が違うので。どちらも面白いです。
──アルバムのリード曲が“ブルーアワー”。これは平部さんの歌唱の強さと切なさがすごくビビッドに響く曲。ほかの収録曲もそうですけど、今回はほんとに歌の「言葉」がしっかり耳に飛び込んでくるんですよね。
今までは、正確に歌えているというのを重視しながら曲を録っていっていたんですけど、今回は正確に音程がとれているものというより、歌に気持ちが乗っているテイクを選んでいきました。それが『LOVERS』のコンセプトにも合っている気がしたんですよね。“ブルーアワー”は自分の中の不安や葛藤を歌った曲なんです。10代の頃は、漠然とした不安を抱えながらも根拠のない自信を持ってやってこれていたんですよね。それが大人になればなるほど、根拠がなければ自信にはならなくなってきて、気がつくと不安や葛藤ばかりに向き合っている。“ブルーアワー”はそんな自分の葛藤をストレートに歌えたなと思っています。
──この曲も、バンドサウンドがすごくいいんですよ。まさに、3ピースバンドの疾走感が前面に出ていて。
こういうリード曲やシングル曲は、これまでアレンジャーさんに入ってもらってストリングスやピアノを入れていただくパターンが多かったんですよね。でもこのリード曲は、原点回帰というわけでもないんですけど、これまでいろいろと音源制作を経験してきたreGretGirlが、あえて3人の音で作れるものを作ってみようと。それがこのギターロックサウンドにつながっています。
──3人のバンドサウンドに立ち帰っているからこそ、より、バンドの成熟を感じることができる曲だと思います。それも含め、結成から10年、今バンドの状態がとてもよいのだろうなと感じさせるアルバムになりました。ふたりの人柄のよさに助けられています。だから、これからもずっとこの3人でやっていきたいんです
ほんとにバンドが面白くなってきたんですよね。いい空気になってきたなと感じています。思い返せば苦しい時期もめっちゃあったし、でもその10年という期間を、同じメンバーでずっと続けてこれたっていうのが僕の中ですごく大きいです。僕はどうしても性格上、辛かったり悲しかったりしたことを引き摺りがちなんですけど、それでもメンバーが変わらずいてくれることで、いろんな楽曲が作れたり、大きなステージに立てたり、所々で差し込む光みたいに自分を支えてくれてたんですよね。
──平部さんは以前から、reGrertGirlはこの3人で続けていきたいと言っていましたが、初期の時点からそう思っていた理由って何だったんですか?
そもそも、この3人になるまでめっちゃ大変やったっていうのがでかいんですけどね。高校生のときにバンドをやったけどぎくしゃくして、reGretGirlを始めるにあたっては必死でメンバーを探したけど、やっと出会ったメンバーが2回ライブをしただけで、すぐ辞めてしまったり。その後、出会ってくれたのが十九川(宗裕/B)と前田(将司/Dr)でした。人間として波長が合うというのもあるんですけど、これまで人との接し方に苦労してきた僕にもついてきてくれるし、ダメなところはダメだと言ってくれる。そんなふたりのことを僕はすごく尊敬しているし、自分もそうありたいと目指すところでもあるんですよ。ふたりの人柄のよさに助けられています。だから、これからもずっとこの3人でやっていきたいんです。
──普段はなかなか聞けないので、ちょっと聞いてしまおうかなと思うんですが、平部さんから見た十九川さん、前田さんの「人柄のよさ」って、どんなところですか?
十九川はバンドの中ではいちばん年上なんですけど、どこか抜けてる部分があるんですよ(笑)。それがすごく人間くさいし、人当たりのよさは抜群なんですね。どんな意見でも肯定的に聞いてくれて、会話がしやすくて。そうそう、先日、久々にふたりで飲むことがあったんですよ。軽く1時間くらい飲んで帰ろうかと思ってたんですけど、結果4時間くらい話してました。バンドメンバーとしてというより、自然に大学の先輩後輩としてしゃべっていて、ああ、バンド以前に友達なんやなって。
──前田さんはどうですか?
前田は結構、冷静沈着で、まわりをしっかり見れるし、自分の意見をしっかり持っていて、僕にも意見を言ってきてくれる。ここ最近、それを僕がちゃんと受け入れるようになってからは特に、僕らの関係も風通しがよくなってきました。前田とももともとは友達として始まっているので、その友達感みたいなものが最近増してきているのが楽しいです。あいつはああ見えて、ものすごいボケてくるんですよ。隙あらばボケを入れてくるので、僕がそれに乗って、十九川がツッコむというスタイルが確立しつつあります(笑)。その居心地のよさがありがたくて。メンバー以前に友達だと思えるのは、自分の中ですごく大きいですね。
──10年を経て、より「この3人で」という思いが強くなってきたと。
そうですね。ふたりがどう思ってるのかは恥ずかしくて聞けないですけどね(笑)。少なからず、僕はそう思っています。まあ、そもそも僕がひとつの場所に愛着を抱きやすい性格だというのも大きいんですけど。それが地元愛にもつながってるのかもしれないですし。細かい話ですけど、僕、バイトしてたときとかも、どんなバイト先でも必ず4年以上は続いていたんですよ。そういう性格がバンドにも出ているのかもしれないですね(笑)。
──10周年を迎え、またこの先の10年を、今どんなふうに思い描いていますか?
この10年の地続きでありたいなと思っています。それこそ焦って先走って、背伸びしていた時期もあったんですけど、粘り強いのが自分の持ち味だと思うし、「辞めない」という選択肢を常に採り続けることが、reGretGirlを大きくしていくことにつながるんじゃないかなと思うんですよね。まわりを見て焦る自分もいてるんですけど、その中で最善を出す努力をし続けるということを、また10年後も20年後もやり続けて、今より大きな景色が見れていると嬉しいです。もちろん同じメンバーで(笑)。
reGretGirlは発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』7月号にも登場しています!
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