完成形まで楽曲を作りあげることをこのバンドからやり始めて。当初より耳も進化したので、“Branches”のような音楽にトライしてもなんとかなるんじゃないかと(菊池)
――ツアーを通してバンドのグルーヴが高まっている中で、「新曲はバンドサウンドに寄るのかな」と思っていたところにリリースされたのが“Branches”という密室的なアレンジの曲で。この曲は菊池さん作曲ですが、どういった形で作り始められたんですか?菊池 普段と同じなんですけど、ギターかピアノの弾き語りで作り始めて、英語で入れた歌詞に、甫木元に無理やり日本語をはめさせる、みたいなプロセスですね。
――長いアウトロや、サビで大胆にサウンドのアプローチが変わるのは、Bialystocksの楽曲の中で今までもあったと思うんですけど、それが1曲にギュッと凝縮されているのって、今までにない新しい扉だなと感じて。サウンド面で、今までと違うアプローチをしようという意識はありました?
菊池 やってそうでやっていない感じというか、自分でも聴くことが多いインディー寄りの音楽にトライしてみようかなと。こういう引き出しは初めからあったんですけど、作るのがなかなか難しいし、甫木元との相性もあって、あまりやって来てなかったので。
――なぜ、このタイミングでできるようになったんですか?
菊池 アレンジから完成形まで楽曲を作りあげることをこのバンドからやり始めたので、スキルがない状態でやってきていて。まだまだですけど、当初よりは耳もちょっと進化したので、こういうジャンルにトライしてもなんとかなるんじゃないかと思いました。
――仮歌は英語だったとのことですが、いつも「よくこのメロディにこの日本語入れたなあ」みたいなことをBialystocksの歌詞に感じていて。今回も《情感には実感を 競争から想像を忘れて》のあたりにそれを感じました。
甫木元 一旦日本語の意味を忘れて、「菊池英語」が入ってた音を生かしながらどう日本語に置き換えられるのかを、パズルみたいにやっていて。そのパズルの中で、「この言葉とこの言葉は普段並ぶことはないけど、並ばせてみたらどうなるんだろう」って、レコーディングしながらも、発見していきました。
小さい頃から、「みんながワーッって群がっている反対側では何が起きてるんだろう」っていうほうが気になって。もしかしたらそっちのほうがすごく広いんじゃないかなと(甫木元)
――この曲の《競争から想像を忘れて》のあたりのフレーズは、甫木元さん執筆の小説『はだかのゆめ』で書かれていた「たまたまの想像力を持てたら、もう少し優しく生きられる気がする」のくだりを想起して。不安定なこの時代に関して、甫木元さんが今思われてることがフラットに出てるのかなと思いました。甫木元 なんか、いつもより暗いですよね(笑)。今回は、何かを肯定したり背中を押したりみたいなのとは違う、暗い歌詞になってもいいのかなと最初から思っていて。今言ってもらった小説の部分のような、独り言のようにもうひとりの人格が喋ってる感じの歌詞にしようと考えてました。サウンド的には、劇的な感情の吐露もハマるなと思ったんですけど、菊池から「今回はこういうアレンジにしたい」っていうイメージを聞いていたので、あまり言葉が強すぎてもなと。話と話の間の、空中を彷徨っているような、ただ何も起きていない時間の中で、ずっと同じことを繰り返し考えてしまうような――劇的なことが何も起きないほうがいいというのは、漠然と思っていました。大嵐が来る前の予感だけがあって、それを待っている人、みたいなイメージです。
――甫木元さんは、映画でも音楽でも、そういう感情と感情の間、出来事と出来事の狭間みたいなあわいを書かれることが多いように感じますが、その理由はありますか?
甫木元 単純にひねくれてるからかもしれないです(笑)。もうちょっとわかりやすくすれば、簡単に伝わるとは思うんですけど。映画を観終わっても、「このあとで何やってんだろうな」とか「その前何してたんだろう」とかが気になって。小さい頃から、「みんながワーッって群がっている反対側では何が起きてるんだろう」っていうほうが気になってしまいます。深海にもわかっていない部分が多いように、もしかしたらそっちのほうがすごく広いんじゃないかなと。ひとりの人間が作れる物語の数ってそんなにないし、自分の引き出しも多くないと思っていて。なるべく他人が行っていない方向をちょっとずつ掘って、模索してきたと思ってます。
菊池 甫木元のその「間を書く」という感覚は自分も同じというか。例えば「頑張れ」とか「愛してる」みたいな歌詞を書ける人生のほうが絶対楽だったなと思うんですけど、そう言えないタイプの人間だから(笑)。
――菊池さんの音楽的な進化と甫木元さんの根底にある思想がこの“Branches”に結晶して、Bialystocksの新しい扉が開かれて。この次はまた違った方向性の曲が出てくるんでしょうか? それとも、この内省的な、新しい扉を開いたまま別のアプローチに続いていくんでしょうか?
甫木元 行ったり来たりはするとは思いますね。ありがたいことにタイアップをさせてもらうこともありますが、第三者が介入するっていうのは、すごくいいことだと思ってるんです。それがまた自分たちがやってなかったものになったらいいなと思いつつ、内省的な扉はいつでも開いてはいるので(笑)、あまりひとつのイメージにならなければいいなと。それを意識しすぎて、「毎回全然違う曲を出していきます」という感じでもなくて。最初から変わらず、流れに身を任せるバンドであれたらと思ってます。
――2ndツアーの追加公演として、9月10日にEX THEATER ROPPONGIという、今まででいちばん大きいキャパシティでのライブが迫っています。そこに向けての意気込みは?
甫木元 ツアーをいい感じに締めくくれるようにしたいですね。今回は個々のメンバーが立つ構成になっていて。僕もバンドでツアーを回ってるという感覚を今まで以上に感じているので、9月に最終形態をお見せできるようにしつつ(笑)、頑張ります。
菊池 持ち曲の数的に今はライブでほとんどすべての曲をやっているんですけど、この次のツアーからは曲を選ぶことになると思うので、今までの曲を完璧に仕上げて、悔いを残さず次に行けたらいいなと思っています。