(“あのまちこのまち”を書いたときは)群馬から出たばっかりなので、戦う気持ちでしかなかったし、そんな気持ちに戻れる曲(寺口)
――“あのまちこのまち”は、上京したことがすごく反映されている曲ですね。寺口 そうですね。東京に出ると決めて引っ越し準備をして、 そのときに思ったことを忘れないでおこう、という感じで書きました。群馬を出る前は、東京は距離も近いし、 まあなんとかなるだろう、という気持ちで準備してたんですけど、引っ越しの前日の夜にすっからかんになった部屋の中で、あ、こんな急に寂しさというか、不安が襲ってくるもんなんだと感じて、これも忘れないでおこう、って。でも、慣れてしまえばたぶん出てこない言葉だなって思いながら書きました。
――《道を譲ってたら/赤に変わる信号》っていう歌詞が私はすごく好きで。こういうことあるよなって思いました。優しい人が損をしてしまう瞬間というか。
寺口 やっぱ田舎より人の波が多いじゃないですか。列の中にいて、ちょっと外れてしまったらもう入っていけない、自分が歩けなくなっちゃう、みたいな瞬間もあったりして。かと言って、染まりたくない、冷たい人にはなりたくないって思ったりもする。その優しい気持ちを忘れたくないという思いを込めた感じですね。ただ、本当に上京してすぐ書いたので、まだ東京に対してのレッテルを貼ったまま書いてる部分もあります。今になって思えば、優しい人ってたくさんいるし、温もりもあるし。だけど、このときは群馬から出たばっかりなので、戦う気持ちでしかなかったし、そんな気持ちに戻れる曲かなと思います。
――2015年にリリースされた“東京”は福島さん作詞作曲ですが、寺口さんの上京ソングを聴いて感じることはありましたか?
福島 僕が上京したときってまだ10代の頃で、今この年齢で東京行くのと全然覚悟が違うじゃないですか。やっぱその重さの違いみたいなのを感じて、すごくいい曲だなと。今のIvyの“東京”じゃないけど。 あれはあのときの僕の気持ちなので過去の曲を否定してるわけではないですけど。今自分が聴いて、リアルに感じられる東京だなって感じましたね。
――逆に寺口さんはこの曲を書くときに、“東京”のことを頭に浮かべたりしましたか?
寺口 あー、同じようなことを考えたかもしれないですね。福ちゃんが群馬を離れるときに、思ったことを曲にしたいと思った気持ちはめちゃめちゃわかったし。“東京”っていう曲がなければ「東京」ってつけてたろうなって(笑)。でも、群馬に住んでたときは、東京のことを「あのまち」って呼んで、群馬のことを「このまち」って呼んでたけど、今は違って、東京が「このまち」で、群馬が「あのまち」っていう変化の意味も込めて、このタイトルにしました。
――改めて言語化すると、寺口さんにとって東京ってどういう街ですか?
寺口 頑張らせてくれる街という言い方ができると思いますね。リアルなことを言うと、金もかかるし、向こうにいるときより、いろいろと大変だったりする。窮屈に感じるとこも多いですしね。こっちにいると、なんでもあるけどなんにもない、みたいな日々がありますし。群馬ではメンタリティ的にも、安心できる人が近くにいたりだとか、落ち着くというのがすごく強かったんで、甘えられる場所は少ないですね。
――「なんにもない」っていうのは、気持ちのよりどころが少ないという意味ですか?
寺口 うーん、それも含めですけど。なんだろう、予定立ててそこに行こうと思わなかったら、別にどこも行かないじゃないですか。どこでも行こうとすれば、めちゃめちゃ群馬よりも恵まれて楽しい街なのに、そんなに楽しくはないっていう。
――自分で動かないと何にもならないということですね。
寺口 だから、楽しい街っていうより、頑張る街なのかな。でも、できるだけ刺激を求めてるので、人と話そうとか、出会おうとはしてます。
今まで以上に、 今のメンバーふたりに対しての信頼感やバンド感みたいなものを強く感じるようになった(福島)
――冒頭でもお話しいただいた通り、上京以外にもギターの大島さん脱退という大きな転機がありました。最近では、サポートギター募集オーディションを開催されていましたが、大島さんの脱退からオーディション開催に至るまで、どのような気持ちの変化がありましたか?福島 最初は確かにすごくパニックで。それから3人のサポートギタリストの方とたくさんライブやってきたんですけど、僕の場合はライブを重ねていくにつれて、今まで以上に、 今のメンバーふたりに対しての信頼感やバンド感みたいなものを強く感じるようになって。それからは、サポートギタリストによって、バンドの雰囲気だったり、音楽自体もいい意味で全然違って聴こえたりするのがだんだん面白いと思うようになりました。前を見て活動していくことで、見えてきたものとか、感じられることが生まれたりするんで、そういう経験を重ねていきたいなっていう気持ちでオーディションをやりました。
――カワイさんはいかがですか?
カワイ メンバー脱退っていうのが自分たちに起こりうることではないって勝手に思ってたんで、正面から向き合うと、すごくショッキングなことで。当時は、どうしようかなっていう気持ちがすごく強かったんですが、バンドを続けていくっていう選択をしたうえでは、どうしてもギタリストが必要で。今は3人の方とやってるんですけど、新しいギタリストとやるとすごく刺激になって、これはバンドにとってもすごくいい変化になるなって思いました。あとは現実問題、3人だけだとスケジュールの関係もあって、サポートしてもらえない日とかもあったりする。で、自分たちがしらみつぶしに探していくだけだと限界があるなと思って。オーディションだと、元々自分たちのことを聴いてくれてた人が弾いてくれたりとか、逆に、新しく聴いて興味を持って参加してくれた人もいたので、やってよかったと思ってます。
――確かにオーディションでなければ出会えない人がいますよね。そして、Ivyがmurffin discsに移籍して、9月で2年になりました。ロックバンドでありながらポップな歌であることに重心を置いていたり、歌そのものとバンドの生き方が地続きになっていたりという部分は、murffin discs所属のバンドらしさだなと個人的には感じるのですが、Ivyもだんだんそうなってきている印象があって。そういった変化は、移籍して影響を受けたからなのでしょうか?
寺口 murffin discsに入るときも、俺たちはこれから変わっていくというところを見据えながらの「よろしくお願いします」だったので、その辺も考えてたぶん俺たちに声をかけてくれたでしょうし。もし『再生する』というアルバム以前のままの自分たちだったら、もしかしたらmurffin discsと合わなかったかもしれないな、とも思いますね。
福島 元々自ら望んで変わっていったっていうのもあると思うし、でもmurffin discsの雰囲気に影響を受けてる部分もあるとは思います。エネルギーを感じるっていうか、自分たちが考えつかない案も、こうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかっていうことを言っていただいたりするんで、すごく刺激になります。
寺口 より自分たちで考えるようになりましたね。1個1個のことに意思をより強く持てるようになってます。それがやっぱりかっこいいバンドだと思いますね。
――インディーズに移籍してから地道にライブ活動を行って、ようやく売れたバンドも実際にいるので、Ivyも何か起こしてくれるんじゃないかって勝手に期待しています。
寺口 そのつもりですので楽しみにしててほしいですね。もしこれ今読んでる人が、おっ、てちょっと気になったら、騙されたと思って1回ライブ来てほしいし、音楽聴いてほしいです。
9月29日発売の『ROCKIN'ON JAPAN』11月号にもIvy to Fraudulent Gameのインタビューを掲載!
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