【インタビュー】エンタメ界の「原因」になる──7人組アイドルグループ「原因は自分にある。」が、川谷絵音プロデュースの新曲“パラノイドランデブー”で露わにした圧倒的個性とは?

【インタビュー】エンタメ界の「原因」になる──7人組アイドルグループ「原因は自分にある。」が、川谷絵音プロデュースの新曲“パラノイドランデブー”で露わにした圧倒的個性とは?
二度見必至なグループ名を冠した7人組アイドルグループ「原因は自分にある。」(略称:ゲンジブ)。「自分とは関係なさそうなアーティストだ」と思ったそこのあなた、少し待ってほしい。彼らの音楽はボーカロイド/ネットカルチャーに根ざしており、クリエイター陣にはAyase(YOASOBI)や100回嘔吐、みきとP、じんといったシーンを代表するボカロPが名を連ねる。現代のデスクトップミュージックの才能が交差する場──それが原因は自分にある。なのだ。

しかも彼らは、与えられた曲をただ自分たちにフィットさせることはしない。曲が持つ強固な世界観に7人それぞれの声や表現を溶け込ませながら、ハードなエレクトロトラックもキュートなポップチューンも「ゲンジブ」として拡張していく。その姿勢はもはや「ロック」とも呼べるだろう。

そんな彼らが10月15日リリースの新曲“パラノイドランデブー”で手を組んだのは、バンドシーンの先端を走り続ける川谷絵音。耽美なストリングスサウンドとハイコンテクストな歌詞が妖しく絡み合うこの曲で、さらに露わになったゲンジブの圧倒的個性とは──初インタビューで迫りたい。

インタビュー=畑雄介 撮影=YUKI KAWASHIMA


原因は自分にある。の楽曲には、曲を提供してくださるアーティストのアイデンティティがすごく出ていて。その世界観に僕らが飛び込んで一緒に曲を作っている(杢代)

──今回のシングル“パラノイドランデブー”は川谷絵音さんプロデュースですが、原因は自分にある。はこれまでもいろんな方とコラボされていて。主にボーカロイド/ネットカルチャーのクリエイターと混ざり合いながらも、「原因は自分にある。らしさ」を磨き抜かれてきたグループだと思っています。様々なコラボを経た、グループの現在地についてはどう思っていますか?

大倉空人 ゲンジブの音楽の中心は何かを考えると、やっぱりボカロ/ネットカルチャーがあると思っていたんですけど、いろんな方とコラボを重ねるうえで、各々の「原因は自分にある。」の捉え方が少しずつ違うんだなと感じ始めていて。その捉え方の違いは、ファンの方においてもそうで、ゲンジブの良さはネットカルチャーだと言う方もいれば、MVによって作り上げられる世界観やピアノロックサウンドだと言う方もいる──そうやってひとつに絞られない、いろんなものが中心にあるグループなんだなと楽曲を作るたびに思っています。

──なるほど。

大倉 この間、久下(真音)さん(原因は自分にある。の楽曲を多く手掛けるソングライター・編曲家)とふたりでお話しする機会があったんですけど、その時に久下さんが提供してくださった“希望的観測の定義”(シングル『パラノイドランデブー』収録)について、「なんでこういう曲にしたんですか?」ってお聞きすると、久下さんが「人それぞれゲンジブの解釈は違うけど、『何かに対して尖っているところ』が、ゲンジブにまとまりを生んでいると思う」「“希望的観測の定義”は、その『尖り』の中で7人が歌っている、パフォーマンスしているのが見えた」って言ってくださって、「あ、それだ」って思ったんですよね。久下さんにそうやって「尖り」というまとめ方をしていただいたのも、今まで数々のアーティストとコラボしたからこそだなとも思いますし。

──確かに、ゲンジブは爆発的なビートがうねる“Operation Ego”から「かわいさ」が前面に出た“推論的に宇宙人”まで、音楽性は幅広いのにグループとしての統一感があって、その理由はすべての楽曲に「尖り」が共通しているからなのかもしれませんね。

杢代和人 たとえば、グループに合った楽曲を作ってもらって、そういった楽曲が集まることでグループらしさが出てくる──というのもひとつの王道だと思うんですけど、ゲンジブの楽曲には、曲を提供してくださるアーティストのアイデンティティがすごく出ていて。その世界観に僕らが飛び込んで一緒に曲を作っているということが、グループとして長年培ってきたことなのかなと僕は思っています。たとえば“Operation Ego”みたいな曲は、結成してすぐには出せないと思うんです。でも、僕らだったら曲を解釈して、自己表現できる。だからこそ、今回の“パラノイドランデブー”でも、川谷さんと融合しながら自分たちの解釈で曲の表現を落とし込めたなと思います。


──杢代さんと長野さんは川谷さんのラジオ(『川谷絵音の約30分我慢してくれませんか』)で実際にお話されたんですよね?

杢代 はい。川谷さんはゲンジブを元々知ってくださっていたんですけど、それもこれまでゲンジブに楽曲を書いてくださった方たちと交流があったからみたいで。川谷さんにも「こういう尖ったことができるグループなんだ」「自分の持っている世界観を共有していいグループなんだ」って思われていたことが、僕はすごく嬉しかったです。凌大は結構緊張していて、うまく喋れてなかったんですけど──。

長野凌大 言わんでいいよ!(笑)。

杢代 (笑)でも、川谷さんはそれをサポートする優しさがあったり、冗談まじりに笑いを取ったりされていて素敵でした。

──長野さんはどうして緊張されていたんですか?

長野 僕は中高生時代から川谷さんの活動をいちファンとしてリアルタイムで追っていて、ライブにも行ったことがあったので、なんか普通に「会えるんだ!?」っていう(笑)。で、いざ会うとすごく緊張しちゃって、静かにしてました。

杢代 ラジオだったのに、「えへへへ~」しか言わない。

長野 なんかさ、質問されたのに「ありがとうございます」って言ってたよね?

杢代 そう。回答せずに「ありがとうございます。えへへへへ~」で終わってました。

──(笑)ファンとして川谷さんのワークスを追ってきた中で、川谷さんの楽曲の魅力はどういうところにあると思っていますか?

長野 川谷さんって、活動されているバンドの数も日本でいちばんじゃないかというくらい多いし、どんなジャンルでもできる方というイメージが僕の中にはあるんですよ。でも、だからこそ川谷さんにしかできない曲作り──どの楽曲にも共通している「らしさ」があるんだなって、“パラノイドランデブー”を通して感じました。なんて言うんだろうな……曲にはいつもフレッシュさがあるけど、これまでの変遷も感じるというか。“パラノイドランデブー”も、たぶん去年楽曲制作をお願いしていたら違う感じになっていただろうなって思うんですよね。川谷さんの曲からは、そういう川谷さんの人間性もすごく感じられるなと思います。

【インタビュー】エンタメ界の「原因」になる──7人組アイドルグループ「原因は自分にある。」が、川谷絵音プロデュースの新曲“パラノイドランデブー”で露わにした圧倒的個性とは? - 大倉空人/杢代和人/小泉光咲大倉空人/杢代和人/小泉光咲

“パラノイドランデブー”はネガティブなことを歌っているけど、僕たち7人を通してそれをどうポジティブに変えていくかという「抗い」があって、それこそがゲンジブの世界観だなって(長野)

──今回の川谷さんのプロデュースには、2019年8月に旧グループ名から「原因は自分にある。」に改名されたニュースに対して、川谷さんがXで「気になる。笑」と投稿されていたこともきっかけになっていて。そもそもこのインパクトのあるグループ名にはどういう意味が込められているんですか?

小泉光咲 「原因」という言葉はネガティブに捉えられやすい言葉だと思うんですけど、僕たちは原因を肯定的に捉えて、エンタメ界の原因になれるようなグループを目指したい──そういう思いで、この名前になりました。

──“パラノイドランデブー”は、まさにエンタメ界の原因になれるようなパワーのある曲だと思います。川谷さんの解釈による「ゲンジブらしさ」もありつつ、これまでにないミステリアスな色気が滲み出る曲ですけど、曲を受け取ってみてどう感じました?

長野 “パラノイドランデブー”というタイトルもそうですし、コンセプトも今の自分たちのフィーリングにすごく合ってるなと、曲を聴いて率直に思いましたね。ゲンジブは初期からボカロカルチャーの曲を提供していただいて活動していたんですけど、元々はそういうカルチャーにも触れていなかったし、グループとしても若かったから、一種の「メタ感」が僕たちの魅力になっていたと思っていて。でも、活動6周年を迎えていろいろ変わっていって、ボーカリストとしてもそれぞれ自我が目覚めてきて──「原因は自分にある。」というグループ名のことや「ゲンジブとはなんだ?」って、それぞれに考えることが増えたんですよね。

──なるほど。

長野 その中で“パラノイドランデブー”を受け取って、この曲は基本的にはネガティブなことを歌っているけど、僕たち7人を通してそれをどうポジティブに変えていくかという「抗い」があって、それこそがゲンジブの世界観だなって。現代のこともいろいろ書いてあってネガティブに見えつつも、最後は《笑顔で》という歌詞で締めくくられる──それが明るい笑顔なのか頑張って作った笑顔なのかは、それぞれの解釈があると思うし、聴く人の状況によって共感し方が違うというのもゲンジブらしさだと思います。川谷さんとは初めましてでしたけど、いろんなことがそうやって自然に重なって、ゲンジブの新しい扉が開いたことがすごく嬉しかったですね。


──音楽的な部分で言うと、半音階の不穏なメロディで曲の幕が開いて、サビのメロディもリフレインが軸になっている──その揺らぎが《海》《井の中の蛙》《パドリング》といった「水」のモチーフと響き合っているように感じました。歌ってみて、どうでしたか?

武藤潤 この曲はブレスが少ないから、なかなか息が続かなくて。どこでアクセントを取るかが難しくて──アクセントを取りすぎちゃうと、後ろの楽器の音もすごくいいから、そのリズムに乗れていない感じが逆に出ちゃうんですよね。いろんな歌のパターンが考えられるからこそ、レコーディングをどうやるかはめっちゃ悩んでました。で、歌う時は「綱渡り」の状態を常にイメージしていて。決して安全ではない道を歩いているという危機感と、逃げたい・解放されたい・自由になりたいみたいな思いを乗せることができたらいいなと思って歌っていました。

──そういったスリリングな歌が展開していく中で、ラスサビの転調前にある吉澤さんの《はい、ポーズ》というセリフが効いてるなと。この歌割りは決まっていたんですか?

吉澤要人 ここは最初から僕で決まっていました。僕の中でいろいろなパターンを出して、どれがいいかを選んでいって。かっこつけたり、かわいいパターンを録ってみたり、いろいろやっていく中でわからなくなっちゃって、あまり何も考えずに言ってみたらいちばんいいのが出て、それが音源になってます。ここまでのパートの流れをふまえつつ、ここからラスサビにいくという流れの中でいい波に乗れてる感じがしますね。

──2番のAメロでは、吉澤さんと大倉さんのラップパートが入っていて、それもゲンジブらしさに繋がってるなと。

吉澤 「この曲、ラップ入ってるんだ?」って、最初聴いた時はびっくりしましたね。1番の感じだとラップがなさそうだったから。

大倉 僕はこのラップパートの歌詞がすごく好きで。《嘲笑う》《メタにメタを重ねて》とか、最初に話したことにも通ずるというか──いろんなゲンジブの形があって、ネットカルチャー・ボカロ・ピアノロックサウンドみたいな「原因は自分にある。と言えば」という各々のメタ感を重ねていって、「じゃあ原因は自分にある。ってなんだろうね?」という複雑さが表れているフレーズだと思います。

──その《メタ》という言葉もそうですけど、この曲では人間の多面性が、「仮面」や「カメラ」みたいなモチーフによって描き出された楽曲だと思っていて。歌詞にある《仮面》《素顔》という対比は、「表現者としての自分」と「素の自分」みたいなイメージとも通ずるなと思ったんですけど、そう言われるとどうでしょうか?

桜木雅哉 昔はそのふたつを離そうと思ってたんですけど、歳を取るにつれて近づけようという意識になってますね。これは僕の価値観でしかないんですけど──「作る」というよりは、自分の素にちょっとプラスαの何かを付け足すくらいのほうがいいなと思っていて。どっちがほんとの自分かわからなくなるのが怖かったし、昔は「僕ってどういう立ち位置なんだろう?」って悩んだ時期があったんですよ。だから、今は素の自分をゲンジブでの自分に近づけようと意識しながら、自分の立ち位置を確立していってます。

【インタビュー】エンタメ界の「原因」になる──7人組アイドルグループ「原因は自分にある。」が、川谷絵音プロデュースの新曲“パラノイドランデブー”で露わにした圧倒的個性とは? - 桜木雅哉/長野凌大桜木雅哉/長野凌大
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