インタビュー=小川智宏 撮影=川島小鳥
──まずはツアー「Roots」、お疲れさまでした! 「お疲れさまでした」というのは定型文ではなくて、実際にファイナルが終わったあと、疲労困憊って感じでしたね(笑)。みんなを巻き込めるフロントマン力が求められてることがわかって。人としての力、自分の人間力をどうやってステージに出すかを考え始めていた
はい(笑)。でも、整体したらすぐに治りました。横隔膜の筋肉的な問題だったみたいで。今自分の歌をいろいろ改造していってる中で、体を使えるようになってきたというか、息をいっぱい吸えるようになってきているんですよ。整体師さんがおっしゃってたのは、肺のウォーミングアップを充分にしておかないと筋肉が痙攣して動かなくなっちゃうことがあるから、たぶんそれが起きたんじゃないかと。もう少し慣れが必要なのかなって思います。
──歌を変えようとやってきてたんだね。
去年あたりから歌に悩み出して、そこからいろいろ迷いながらやってました。間違えたこともあったけど、最終的に極めていきたいスタイルが見つかって。で、体が使えるようになってきているぶん、やっぱりダメージがデカい(笑)。今までは全力で歌ってもここまで戻らないことはなかったんですけど、戻るのにちょっと時間がかかりますね。ツアー中は気合だけで──気合だけはうちのバンド強いんで(笑)、気合で乗り越えようとしてました。
──バンドとしてはどんなツアーになりました?
バンドとしてのパフォーマンスやお客さんを巻き込むことに関して、色濃く会話しながらできたツアーでした。夏フェスが始まる前くらいから、どうやってお客さんを巻き込んでいけるのかって──それこそ9月のロッキン(ROCK IN JAPAN FESTIVAL)ではわかりやすく楽しめたから、みんなを巻き込めるフロントマン力が求められてることがわかって。それで、人としての力を意識し始めて、自分の人間力をどうやってステージに出すかを考え始めていたので、その延長線上として、ツアーでもシンプルにお客さんが行きたいと思えるライブをやるにはどうしたらいいのかを考えながら、日々を過ごすようになりました。てる(鹿又輝直/Dr)も同じように考えてたみたいで。
──ファイナルを観て、ちょっとかっこ悪いところも含めた人間臭い部分をさらけ出すようになってる感じがすごくした。で、それがとても魅力的に見えたんですよ。お客さんもきっとそうだったと思う。
気持ちでフルスイングできたなって思えるかどうかを今は大事にしてるんですよね。最近は自分たちの中で考えていることが自然と統一されてきてるから、バンドとして大きく変わったイメージはあんまりなくて。どっちかというと模索中です。将来像として、歌えるロックバンドというか──お客さんも巻き込んで一緒に歌えるライブに可能性があると思ってるんですけど、お客さんは俺の声を聴きに来てるのが大前提としてあることは忘れないようにしないといけない。みんなで歌う瞬間を作ることと、自分の歌をちゃんと届けることのバランスは常に考えなきゃいけないとは思います。
──それはライブを観ていても伝わってきました。巻き込むところはちゃんと巻き込んで、聴かせるところは聴かせるというメリハリを意識しているんだろうなって。
そうですね。たとえば“病んでるくらいがちょうどいいね”の2Aは同期なしで3ピースの音だけになるんですけど、本当はクラップを煽りたい、でも誰も手が空いてないから俺が弾くのをやめてクラップに行くとか、そういう思い切りは増えていきそうだなと思ってて。でも、適当にそれをやりたいわけではないから、ちゃんとみんなで意識を統一して計算をして、じゃあここで戻ってくるねっていうところを作っていくみたいな細かいことをバンドでより話し合うようになりました。
──今回「Roots」というタイトルでツアーをやったのはどういう思いだったんですか?ステージに上がった瞬間には、どんな状況だったとしてもいちばん楽しめる人にしか行けない領域がある
今まで1本1本のライブをがむしゃらにやってきたんですけど、Zeppツアーに入る前にひと息置いて考えたんです。で、「ちょっと待てよ、俺たちは(Zeppツアーという)すごいことをするんだ」って思って。上の人たちを見ると、アリーナツアーやドームツアーをやってて、俺たちも負けないようにとにかくそこを目指して頑張っているんですけど、ギターを始めてバンド始めて、それこそZeppにライブを観に行って「ここでライブやれるようになったらすごいな」って話していたときのことをいろいろ思い出して、すごいことなんだというのを改めてちゃんと理解しないとなって思ったんです。僕は基本的に自信がないので、戦い続けていく姿勢でがむしゃらにやりすぎた結果、バンドを始めた頃の純粋な気持ちを忘れてたなって。だから今回のツアーは1回それを全部忘れて、あの頃の陽報少年に戻りたいなっていう気持ちを持って、「Roots」というタイトルにしました。
──そういう気持ちでツアーをやることで、何かを取り戻せた感じはあった?
とても純粋な気持ちでやれましたね。Zepp Hanedaは8本目で、ツアーを重ねた経験がちょっと出ちゃったから、セットリストを急遽変更したんです。肝が据わることも大事だけど、Zeppに立ててることに対して自分のルーツや純粋な気持ちをぶつけたいんだよなって思っちゃって。
──「純粋さ」というのはキーワードだよね。1本1本のライブにすべてを注いできたと思うけど、あきくんは常に広い地図の中で現在地を見ているようなタイプでもあって、冷静に現状を認識しているところもあるじゃないですか。それも大事なことだけど、今回はそうじゃなかった。
そうです。本当にあの瞬間瞬間をずっと生き続けたいって思ってたので。だからライブの中でちょっと不思議な感覚というか、瞬間瞬間を長く感じるときがあったんです。ビートの感じ方がいつもと違ったり。それが面白くて。
──それって、集中していたっていうことですよね。スポーツ選手でいう「ゾーン」ってやつ。
はい。最近、ステージを降りると、「今の自分でいてもいいのかな」みたいにいろんなことに対する心配症を発揮してしまって、考えたり歌の修正だったりを続けていて。でも、ステージに上がった瞬間には、どんな状況だったとしてもいちばん楽しめる人にしか行けない領域があるなって思って、それをより意識しながらライブするようにはなってきてますね。考えに考えたうえでステージに立てば、体は覚えてるんですよ、考え続けてやってきたことを。その向こう側にある感覚は、ちょっと言葉にはできないんですけど。
──剣道の達人とかの「無の境地」っていうのに近いのかも。
確かに。自分が今、その考えに至れているなと思っていたら、てるも似たような考えをちょっと持っていたんですよね。別にそれについて話したことはなかったし、性格は全然似てないんですけど、考え方の行き着く先が結構似てて。限られた人にしか入れないその領域がわかったので、そこに入るために今試行錯誤しています。