結成13年目と聞くと「もうそんなに?」と思ってしまうのだが、一昨年に「ロラパルーザ」出演や横浜アリーナでのワンマン開催を果たすなど、ここへきてその勢いはむしろ増している。昨年リリースされたフルボリュームなアルバム『Epic Narratives』からわずか1年という期間で世に放たれたEP『SCOOOOOP』でも、その脂の乗りっぷりを鮮やかに可視化。『ロックは淑女の嗜みでして』のオープニング曲“Ready to Rock”に『桃源暗鬼』エンディング曲“What is justice?”、『全修。』オープニング曲“Zen”と強力なアニメタイアップのシングル3曲はもちろん、作品全体を通してハードでメタリックな音に主軸を置きつつも、ポストロックやダンスミュージック、ファンク、J-POPまであらゆる要素を呑み込んだエクストリームな楽曲を、目を見張る技巧と凛とした歌声で鳴らしきっている。
本誌初となるロングインタビューで、今こそ彼女たちの愛すべきキャラクターと、「世界征服」を目指す気高き野心に触れてほしい。
インタビュー=風間大洋 撮影=中野敬久
──EP『SCOOOOOP』は、もしデビューやブレイクした当時のイメージで止まっている人がいるとしたら、そういう人にこそ聴いてほしい作品だなと思いました。自分たちだけが楽しむBAND-MAIDのハードロックではなくて、聴いてくださる方がどう捉えるかという選択肢のある音を紡いでいきたい(SAIKI)
一同 おおー!
小鳩ミク(G・Vo) 嬉しい。ありがたいことに3曲タイアップが続いたので、そこで初めて知ってくださった方も含め、改めてもっと私たちの音楽を知ってもらう機会となる作品を出したいというところから、今回のEPに繋がっていったんですけどっぽ。代表曲にもなっていくようなタイアップ曲もあったり、今後の名刺として言えることをテーマに作ったリード曲の“Present Perfect”もあったり、BAND-MAID的な王道の1枚というふうに表現できるかなと思っていますっぽ。
──13年目を迎えてなお新たなスタンダードを生み出して、どんどん新しいリスナーも取り込もうというモードを感じますが、常にそうあり続けてきたんですか? それともここ数年で何かきっかけがあったり?
SAIKI(Vo) 10周年を迎えて、ひとつの夢であった横浜アリーナでのワンマンライブをみんなで叶えて。翌年から新章としてまた歩みを進めたことを象徴するアルバムを作るべきだっていう話から、昨年の『Epic Narratives』を出したんですね。……なんというか、自分たちだけのことではなくなってきて、今まで観てくださってる方のこれからも自分たちが描いていかないといけないという責任感もより強まったので。自分たちだけが楽しむBAND-MAIDのハードロックではなくて、聴いてくださる方がどう捉えるか選択肢のある音を紡いでいきたい気持ちは日に日に強まってきてます。
小鳩 ツアーも大きかったっぽね。
AKANE(Dr) 『こんなに届いてるんだ!』っていうくらい初めて観にきてくれた方が本当に多くて。あとはフェスで初めての方と出会えるのもすごく実感に繋がるから、もっとお給仕(ライブ)をやりたい、届けたいという気持ちは増しました。
SAIKI 私たちは本当にお給仕が大好きで。リリースして満足するタイプではなくて、曲がお給仕でどんどん育って、オーディエンスの方の声も合わさった時にBAND-MAIDの曲として完成したねって満足できる──それがちょっと中毒になってるので(笑)。BAND-MAIDの活動はライフワークだし、まだまだたくさん伝えたいこともあるから。
KANAMI(G) 書きたい曲もたくさんある!
SAIKI 今回のタイアップ3曲も、お給仕で曲の感じが変わったもんね。
AKANE そうそう。みなさんの反応を直接見れるのってすごく大事だなと思います。
SAIKI MISAちゃんのベースプレイもめちゃくちゃ注目されるようになったしね。
MISA(B) スラップとか、確かに増えてるかも。ギターとベースのセッションもそうだし。
KANAMI お給仕でアレンジをすることも定番化してきているので。音源だけじゃなくお給仕ならではのところも楽しんでいただけてるし、私たちも楽しくやれているので、それは続けていきたいです。
小鳩 お給仕ありきで考えてるからこそ、次はもっとこんな曲が欲しいねという部分が楽曲作りにも大きく影響していて。そこはいちばん大事にしてるところですっぽね。
──その、もっともっとっていう貪欲さを持ち続けられるのはすごいことだと思うんですよ。
AKANE やりたいことが増えていくからね。
SAIKI やってもやっても(笑)。あとは今の時代、SNSってすごく大事で……と言ってもBAND-MAIDはSNSが苦手なんですけど。
小鳩 でも社会的にはね(笑)。ご主人様お嬢様(ファンの呼称)の声が、わかりやすく届くというか。
SAIKI となると、『あの曲聴けなかった』という声も絶対に出てくるじゃないですか。そう言われると悔しいのでメドレーというものを解禁したら、BAND-MAIDの楽曲の幅広さを改めて実感したし、それを演奏した時のみなさんの笑顔がとにかく輝いていたので、報われた瞬間だったなって。
──そういうチャレンジングな姿勢や試みって、周りを見渡す中で「どう抜きん出るか?」という勝ち負けのような部分に端を発する場合もあると思うんですけど、お話を聞く限りそこはほとんど関係なさそうですね。自分たちの中でもあんまり『絶対にハードロックじゃないといけない』とは思ってなくて(小鳩)
小鳩 そうですっぽ。誰か他と比べることはあまり考えたことがなくて、自分たちがよりよくなるためにはどうしよう?とかそっちのほうが大きいですっぽね。
SAIKI そもそも私たちの最終目標に世界征服というものがあって、世界征服ってなんなんだ?ってみんなで考えた時に、BAND-MAIDの音が当たり前になってひとつのジャンルになっていることだよねっていう結論になったので。それにはリスペクトし合いながら、自分たちを高みに連れていくしかない。過去の自分たちと比べることはあるけど、他の人を気にすることはないなって。みんなまったくネガティブじゃないんだよね(笑)。
小鳩 そう! バンド活動に対してシュンとなることがあまりなくて、根っからの体育会系みたいな(笑)。上へ上へ行くぞ!というか。
SAIKI 次、見てろよ!ってね(笑)。
──みなさんの精神面の話を聞いて、今作から感じるパワフルさや衝動も腑に落ちました。
SAIKI うん。何も無駄になってないんですよね。
──そういうふうに一歩ずつ歩みを積み重ねていきながら、年々バンドの人気が高まっていって。みなさんは自分たちを更新することをひたすら続けてきたら、このJAPAN本誌でのロングインタビューにも辿りついたと。
小鳩 もう本当に嬉しいですっぽ。
AKANE 念願です。ようやく夢が叶った。
──あえてハードロックという括りを使うなら、JAPANはそういう音楽性を持つアーティストが頻繁に出てる媒体ではないのですが、ただ、こうやって音を聴くと「本当にこれはハードロックなのか?」「そのひと言で片付けられない音じゃないか」とも思うんです。
小鳩 自分たちの中でもあんまり『絶対にハードロックじゃないといけない』とは思ってなくて。
SAIKI そもそも誰も通ってきてないので、みんなで勉強したところから始まってるし。
小鳩 BAND-MAIDという大きなジャンルを作っていくと考えた時に、いろんなところで受けたインスピレーションから、もっと幅を広げていこう、あれもこれもやってみようっていうか。
──今作からもすごくいろいろな要素を感じます。ヒロイックに歌い上げるようなシングル曲も素晴らしいし、アルバム曲の遊びの多さも好きでした。
KANAMI ありがとうございます。基本的にBAND-MAIDらしさは念頭に置きながら、“Present Perfect”に関してはみんなでミーティングして、すごく激しいハードロックテイストのものとこういう曲のどちらがリード曲に相応しいかを決めました。いつもは基盤となるデモをフル尺で考えてみんなに送るんですけど、よりメンバー一丸となって作った1曲にしたかったので、みんなの意見を取り入れて構成も出し合いながら作った思い入れの強い曲になってます。
小鳩 やっぱりこういう展開の多い曲が、BAND-MAIDらしさだったりするっぽね。
──ドラムはいきなり、ポストロックや人力ダンスミュージックみたいな16分の刻みを入れていたり。
AKANE そうですね。KANAMIからは16で埋め尽くしたデモがわりと届くので、そこは自分の武器だと思ってます。その中で詰めるところと引くところも理解できるようになって、考えることに楽しさを感じるようになってますね。