【インタビュー】あいみょんの深まりと愛を歌うことのシンプルさと、『猫にジェラシー』というタイトルの関係性。あいみょんと語る

あいみょん、深まったなあというのがアルバムを聴いたときの最初の印象だった。歌声の深まり、描く物語の深まり、人間の性(さが)や男女の関係をめぐる機微を見つめる視線の深まり。デビュー8年、アルバム5枚目。あいみょんはいつもグッドミュージックの核心に触れながら、ちゃんとその才能の到達点を更新している。

だが、このアルバムであいみょんがもっとも鮮明に深めたもの。それはきっと愛というものをめぐる音楽作りの精度についてなのだと思う。愛を描くのは難しい。愛を定義するのはもっと難しい。愛を語り合うのはすごく難しい。だけど、愛を歌うことはできる。メロディがあなたを愛してると歌っている。愛してると歌詞で歌えばいいじゃないかという話ではない。愛してると叫ぶ音楽よりも、愛してるを込めて歌われるラララのほうがよっぽど愛してるが伝わるということを僕たちはとっくに知っている。今あいみょんが綴っているメロディは、あるいは今あいみょんが歌っているその歌は、愛という形のない曖昧な、巨大なのか枠組みがあるのかもわからない、でもなんだか丸い形はしていそうな概念を歌って届けるという作業において、とてつもない快挙的な精度に達していると僕は思う。さよならまじりの愛を歌った“あのね”や、なくした人を思って空を向いて歌う“愛の花”を愛の名曲と呼ばずして、どんな曲をそう呼べばいいのだろう。僕はわからない。

『猫にジェラシー』。愛と恋のなんとかなんていうタイトルを絶対につけないあいみょんが僕は本当に好きだ。愛と恋のなんとかなんていうタイトルで聴き手の心をガイドしてしまわないあいみょんはかっこいい。自信があれば潔くあれるということなのだと思う。あいみょんには大切なことを学ばされてばかりだ。

9月30日(月)発売の『ROCKIN’ON JAPAN』11月号は、あいみょんが表紙巻頭に登場。このインタビューの完全版と、セルフライナーノーツインタビューの2本立てで、『猫にジェラシー』のすべてを語り尽くしてもらったので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

インタビュー=小栁大輔 撮影=川島小鳥


──今回は、『猫にジェラシー』というアルバムタイトルで。

『猫ジェラ』。

──もう、これがすべて、というタイトルで。タイトルにメッセージを込めるということではなく、『猫にジェラシー』という。これがあいみょんのアルバムに対するすべてのスタンスだなと。

アルバムのタイトルは基本的に意味合いとかはなく、後付けだったりすることもありますし。かわいいな、なんかいいな、っていう感じでつけてます。

──『瞳へ落ちるよレコード』もそうだったし、『おいしいパスタがあると聞いて』もそうだったんだけども。もはや、かわいくて、フックがあって、口にしたい言葉だったら──。

そうそう。口にしたい、言いたくなるっていうのは私にとって大事かもしれないです。『猫にジェラシー』もたまたまだったんですけど。これは曲が先にあって。

──あ、そこから取ってきてるのね。

はい。いつも通り普通にアルバムタイトル考えてたんですけど、なかなかいいものが思いつかず。初期の頃は14文字、13文字にしようとか、漢字、カタカナってやってたけど……ああいうルールはやめたほうがいいですね(笑)。早々に5枚目でやめといてよかったです。それで、なかなかしっくりくるものが思い浮かばなくて。で、“猫にジェラシー”はもともと入れる予定だったので、『猫にジェラシー』、いいな、と。私の好きな漢字、カタカナでもあるし、いいなあと思って。初めて曲タイトルがアルバムタイトルになりました。


──そこで何かを言っちゃわないのがいいよね。恋の歌のエトセトラ、とかさ。

ありますよね。

──そういうタイトルをつけると、その意識を前提にリスナーは曲を聴いてくれるわけだよね。

タイトルにはそういう効果もありますよね。タイトルがアートワークに影響するのはいいなと思うんですけど。私はこれまで、アルバムタイトルに影響された曲はそんなになくて。『おいしいパスタ〜』みたいに、パスタって歌詞どこにも入ってないやんっていうほうが、なんとなく自分は好みなのかもしれないですね。

──その明快なスタンスが、楽曲を作り歌うアーティストとしての成熟であり、ある種の自信に感じられるね。

アルバムタイトルとかツアーのタイトルとか、すべてにおいてタイトルは、歌詞ぐらいの気持ちでいるんです。そのぐらい大事。アルバムの中で歌ってる歌詞よりも、アルバムタイトルで選ぶ言葉のほうがすべてな気がして。それが、あいみょんという人間の語彙力やと思われる気がするんです。だからすごい慎重になります。そういうところのほうが、「センス」って言葉を使われません?

──まさにそうだね。

歌詞でも「センスある」ってたまに聞きますけど、どっちかというとタイトルとかアートワークとか、そういうところに「センス」って言葉を使われる気がして。だからビビってるんですよ。センス悪いって思われたらどうしよう、とか。だから慎重になるし、自分が開発した言葉を使いたいっていう意識もあるので、めっちゃ悩みます。タイトル難しい。いちばん語彙力を確かめられる気がして。

──そうだね。語彙力であり、言語センスだよね。

そうそう。でも今回は曲名をそのままタイトルにして。(別のタイトルは)思いつかなかったです。

「どういう気持ちで聴きゃあいいねん」みたいなタイトルは面白いかもしれないですね。まったく意味のないような言葉ぐらいのほうが、個人的には好きです

──タイトルの話をもう少し続けさせてもらうと、アルバムタイトルを知っていると、「“猫にジェラシー”はこの曲か」という集中力を持って聴くことになるわけだけど、この曲は、その集中力にいい意味で肩すかしを食らわすようなところもあって。アルバムタイトルというものはアーティストが最後にリスナーにかけられる魔法であり、リスナーからすると最初にかけられる魔法なんだよね。たとえば、『ラストアルバム』ってタイトルで作品を出されたら──。

その気持ちで聴きますよね。

──そうだよね。だから『青春のエキサイトメント』っていわれたら、青春のエキサイトメントな気分で聴くべき曲なんだなと思う。

爆発してんのかなみたいに思いますよね。だからアルバムタイトルもほんとに歌詞の一部、このアルバムの一部って思われちゃう気がするので、慎重になります。もしかしたらいちばん大事かもしれない。

──でもあいみょんの場合は、そこで、具体的なガイドをしない。『おいしいパスタがあると聞いて』というタイトルのアルバムを聴くときは、どういう気持ちで聴いたらいいかわからない(笑)。

わかんないですね、確かに。「どういう気持ちで聴きゃあいいねん」みたいなタイトルは面白いかもしれないですね。そういうの好きです。まったく意味のないような言葉ぐらいのほうが、個人的には好きですね。かわいい言葉やな、かっこいい言葉やな、覚えてもらえそうやな、インパクト残るかもしれんな、っていうぐらいの感覚というか。ほんまに私、アルバムタイトルに思いを込めたこと、ないっていったらあれですけど……どっちかといったら、意味があとからついてくる感じ。

──なるほどね。でもこれはね、実はあいみょんにしかないスタンスでね。

いやあ、みなさんどうやってつけられてるのかなと思いますけど。

──強いていうならスピッツがつけるタイトルにもそういう上手さと仕掛けがあるよね。

スピッツのタイトルはずるいですよねえ。すごい参考になります。「先やられた!」って思うことばっかです。自分で絶対思いつかないんですけど、なんか「やられた!」って。先にこの3文字使われてる!とか思うこと、スピッツに対してはめっちゃありますね。前回のアルバムタイトルも思いました。『ひみつスタジオ』、めっちゃいいやんって。

──めっちゃいいよね。具体的に何かを規定しているわけではないけれど、とにかくワクワクさせるっていう。

言葉と言葉の組み合わせ、無限じゃないですか。すごい勉強になるなって思うアーティストです。組み合わせが上手い、パズルが上手い。マジで上手いです。

──『猫にジェラシー』はきっと多くの人がそう思ってるんじゃない?

ほんまですか。よかった。

書き下ろしで、何かヒントをいただいて、っていう書き方もシンガーソングライターとしてあるべきだなと思ってるので。既存曲のおかげで自分の引き出しが広がっている

──このアルバムは長い時間をかけて作っていたの?

制作自体は今年に入ってからなんですけど。アルバム作りましょうというお話だったり曲選びは、去年の冬ぐらいから始めてました。

──すごく不思議なアルバムでもあって。じっくり熟成して作ったと言われたら、なるほどねと納得するし、あったものをバランスよく並べただけですと言われても、それもまたなるほどねと納得できちゃうんだよね。すごく不思議な手触りのアルバム。

でも制作自体は、どっちかというとドタバタした思い出のほうがある気がしますね。

──ドタバタっていうのは、忙しい中で頑張って作ったな、みたいなこと?

忙しかったっけ? あ、私が勝手に忙しくしただけか、プライベートを(笑)。

スタッフ でも、制作は結構詰まってたかな

そうですよね、詰まってはいたんで。あ、ヤバいヤバい、コード覚えなきゃ、ギター弾かなきゃ、みたいなことをやってた気がします。ヤバいヤバい、覚えなきゃ、やらなきゃ、って。今回、珍しくアレンジのやりとりも多くて。ゆっくりアレンジャーさんたちとやりとりできて、結果的にいいものができたっていう感覚です。

──アレンジの広がり方は今までで最も多様といってもいいかもしれないね。

うんうん、そこのやりとりはすごいできたのでよかったなって思います。

──そういうところが、僕が感じた成熟み、みたいなところなのかもしれないな。より音楽的になっている感じがする。

ありがとうございます。

──で、あいみょんにとってはいつものことといえばいつものことなんだけど、多くのタイアップ曲、存在感を持った既発の楽曲たちがたくさんいて。

1、2、3……6曲か。


──今回は特にヘビー級の名曲たちがいたよね。それはアルバムの全体像を作っていくうえで、考えによってはすごく大変なことだったんじゃないかなと。

このタイアップ曲がアルバムにいることで、っていうことですよね。いやあ、個人的には、大変。こいつらを見てバランスを取る難しさはもちろんありますし。タイアップ曲って、曲が長かったり、壮大になっているものが多いので。それ以外に、どういうスパイスたちを入れるかって考えると、ちょっと難しくなるときはあります。

──そういうときにあいみょんはどういう考え方で整理するの?

1回無視して、このアルバムに入れたい曲をバーッと並べて。でもこの曲があるからこれはちょっとBPMが近いなあとか。そういう曲を1回脱落させてみて。流れで聴いたときに同じBPMってどうなんやろう、とかは考えます。そういう意味でいうと、既存曲があることによってバランスが取れるっていうのもありますけど。

──毎回その作業はとても大変だよね。

ああ、あれもあった、これもあったと思いますもん。ありがたいことなんですけど。

──でも今回は、既発曲を並べたとき既に、バランスが非常によかったかもしれないね。

今回は確かにCMの曲で、ちょっと変な曲もあったんで。似通ってはなかったですね。

──既発曲が5曲あるとして、そのバランスはあとからはコントロールできないじゃない?

もう絶対入れなきゃいけないですし。それに、(既発曲を)作ってるときはアルバムのこと考えてないですしね。

──「いつも同じクオリティで」という言葉はものすごくいい意味で使いたいんだけれども、あいみょんは、スタンダードなアルバムをこれから先も作れると思うんだよね。これから先も、『瞳へ落ちるよレコード』クオリティ、あるいは『猫にジェラシー』クオリティのアルバムを作れると思うのね。そのなかで唯一不可測な要素があるとすれば、既発曲がどういうバランスで揃っているか。

そうですね。でも、嬉しい悲鳴です。幸せな悲鳴ですよね。シンガーソングライターとして、書き下ろすっていう作業もすごく力になりますし、やり続けたいことではあるので。書き下ろしやからこそ生まれた曲たちなんですよね。他の曲たちは、日々の生活の中でバーッといっぱい書いたものですけど。書き下ろしで、何かヒントをいただいて、っていう書き方もシンガーソングライターとしてあるべきだなと思ってるので。そういう意味でいうと、既存曲のおかげで自分の引き出しが広がっている気はします。


──今回は、その既存曲のバランスが既にとてもよかった。だから、これまで以上に、より一層全体像がまとまっている印象があるよ。

ありました? よかったです。ずっと作業をしてるとわからなくなってくるんですよね。表に出てみないと、どうですか?って見てもらわないと、わからないところでもあったりする。そう言っていただけるのであればよかったなと思います。でも今回はドラマだけじゃなくて、CMのタイアップがあったのが大きかったですね。変な曲を作るきっかけにもなったので(笑)。

──そうだね。よりテーマを揺らしたうえで作れたというかね。

そうですね。

──本当に素晴らしい作品だよね。

ありがとうございます。

──あいみょんとしてはどうですか。これまでの作品と比べても手応えはある?

もう常に私は、次、次、次というイメージなので。前作よりも今作だってもちろん思ってますし。うーん……いいと思います(笑)。うん、いいとは思う。

──ひと言でまとめてしまうのならば、すごくいいアルバム、だよね。

そうですね。「私はいいと思うんですが……よかったら聴いてください」とシンプルに思ってます(笑)。そういうアルバムです。


ヘア&メイク=松野仁美 
スタイリスト=服部昌孝
衣装協力=ヴィンテージ(CCX Kitazawa e-mail:c.c.x.webstore@gmail.com)
撮影協力=PROPS NOW



●リリース情報

5thアルバム「猫にジェラシー」

発売中
初回限定盤(CD+2BD) WPZL-32144/6 7,920円(税込) 
初回限定盤(CD+2DVD) WPZL-32147/9 6,820円(税込) 
通常盤(CD) WPCL-13599 3,300円(税込)



●ツアー情報

AIMYON TOUR 2024-25 “ドルフィン・アパート"



提供:unBORDE / WARNER MUSIC JAPAN
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部