【インタビュー】「アユニ・Dに戻ってこれた」──PEDRO、等身大の痛みも愛も曝け出す「始まり」のミニアルバム『意地と光』を語る

【インタビュー】「アユニ・Dに戻ってこれた」──PEDRO、等身大の痛みも愛も曝け出す「始まり」のミニアルバム『意地と光』を語る

勝手に人って怖いものだと思ってたから、それこそ「愛してる」とか言うのを避けてきたんですけど、言ってみたら意外と受け入れてもらえたりするんだなって

──“祝祭”もすごくいい曲ですよね。《傷んで/泣いて/迷って/笑って/生きてゆく》っていう。

3歳児とかでも理解できるくらいの言葉ですみません(笑)。

──いや、生きるってそういうことだと思うし、痛みや悲しみや迷いのほうが喜びより多いじゃないですか。それを全部受け入れてる感じがあるなと思う。歌詞を書くうえで、今まで書いていなかったこともいっぱい書いてるじゃないですか、今回。

書いてますね。でも前作より時間はかからなかったんです。本当に言葉を出したいっていう欲求がずっと強くて。前作は楽曲制作の時間にワクワクした気持ちで臨めなくて。意を決して挑むような、絞り出して考え出してっていうものだったんですけど、今作は本当に入れたい言葉が溢れて止まらないみたいな感覚でした。

──『赴くままに〜』のときは歌詞を何度も書き直したりして大変だったっていう話を聞いてますけど、それはどうしてだったんだと思います?

かっこつけてたんじゃないかなって思います。どういうきれいな言葉を使えばそのまま伝わるかとか、どういう言葉の羅列の仕方をしたら自分が美しく見えるかとか、そんなことばっかり考えちゃってた気がします。でも自分はそういうことができる立場じゃないし、それをやるにはまだ修行が足りなすぎた。

──『赴くままに〜』を作った時期は、BiSHが解散して、PEDROはその翌日にすぐライブをやったりしていましたけど、そうやって急激に変化が起きていく中でいろいろ混乱して見えなくなっていたものもあったのかな。

本当、そうだと思います。

──それを通り過ぎて落ち着いて考えたときに「これって私なんだっけ?」って思うようになっていったというか。そういう意味ではそれを経て作ったこの『意地と光』というアルバムが、ある意味で始まりなのかもしれないですね。

そうなんです、すみません(笑)。よく(スタッフに)言われますもん。「これ、1年前にやってくれよ」って。本当にそういうことなんだろうなって。

──これを作れてスッキリした部分もあるんじゃないですか?

超ありますね。作ったからこそ出てきた新しい欲求もありますけど、ようやく「これだ」っていう、拳を突き上げられるような作品になりました。

──今回の曲について、(田渕)ひさ子さん(G)とかゆーまおさん(Dr)は何か言ってました?

今回の作品を作り始めたきっかけが、ゆーまおさんが、すごくお忙しい中でも「アユニちゃん、曲作ろうよ」って言ってくれたことだったりしたんです。あのおふたりも、会うたびに私が変わるから、面白いとは言ってくださりますけど、実際は大変だったと思うんですよね。「この子何がしたいんだろう、なんのために音楽やってるんだろう」っていうのも掴めなかったと思うんです。でも、今回制作をするにあたって、「今、こういう『意地と光』が自分の中の情熱になっていて、それを伝える方法はやっぱり音楽しかなくて」っていう話をさせていただいたんです。それで理解してくださって、ずっと向き合ってくださって、一緒に探検してきました。あと、おふたりには私の言葉の出し方が変わったって言われました。「本当にらしさが出てる」って。

──その「らしさ」ってどういうことだと自分では思いますか?

かっこつけて、小賢しいやり方で文字を羅列しているわけではなく、深夜から朝方にかけて自分の中から出てくることを書き留めてたので。そういったものが出てたんですかね。

──深夜から朝方にかけて感は確かにありますよね。すごくいい意味で、ですけど、歯止めがきかなくなっている感じがある。“ラブリーベイビー”も“キスをしよう”も“愛せ”も、誰かに向かって愛を伝える言葉がめちゃくちゃストレートに書かれていて。アユニさんはそういうのはあまり得意じゃないと思ってたんですけど、かなりあけっぴろげになってる。

小賢しいやり方をしても伝わらないんだってわかりました。今までは、なんていうんですか、ROM専っていうんですか?

──懐かしい言葉だな(笑)。

自分の中で完結していることが多くて、それってある意味すごく自己中心的だなってことに気づいて。大事な人に何も伝わってないじゃんって思ったんです。会話とかも自分で完結しちゃうのでキャッチボールになってなかったりとか、そもそもそれってどうなんだろうって。ようやくこの年齢になって反省して、伝えたいことは伝えるべきだなっていう、根本的なことに気づきました。自分でどっか行って閉じこもってるくせに「なんで誰も助けてくれないの」とか言うタイプだったんで、それっておかしいよなって、最近になってわかりました(笑)。

【インタビュー】「アユニ・Dに戻ってこれた」──PEDRO、等身大の痛みも愛も曝け出す「始まり」のミニアルバム『意地と光』を語る

前作を経てBiSHのアユニ・Dが本物の私だったんだっていうことに気づいた。「BiSHのアユニ・Dが好きだよ」って

──その結果、今回「愛してる」って言いまくってるわけですけど、言わなきゃ始まらないと。

そう。だから『意地と光』とか言ってますけど、『感謝と謝罪』って感じ。

──謝罪する必要はないけど(笑)。だから、「意地」も「光」も要するに愛ってことなんだなって思います。自分の内側にあるものも愛するし、光を届けたいっていうのも愛だし。愛を伝えるのって勇気がいるじゃないですか。拒否されたらショックだし。でもそういう可能性も含めて伝えるっていう判断をしているのが強さだし、そこに踏み込めたんだなって。

そうですね。というか、意外と周りの人って優しいんだなって。勝手に人って怖いものだと思ってたから、それこそ「愛してる」とか言うのを避けてきたんですけど、言ってみたら意外と受け入れてもらえたりするんだなとか。ダメだったらダメで違うやり方も確かめられるし。そういうことを周りの方々に気づかせてもらえたので、自分が強くなったっていうよりは、周りに強く育ててもらった感覚が大きいですね。

──周りの人、それはファンもそうだし家族もそうだし、スタッフやメンバーもそうですけど、みんなアユニ・Dのことを愛してくれているわけじゃないですか。それも素直に受け入れられるようになってきた?

はい。だって意味わかんないですもんね。こんなに力になってくださってるのに、私が反発してたら意味わかんなくないですか? 何してんのって。ありがたく思って、もっともっと恩返ししていかないといけないのに、なんで自分自身のことをかわいがって、自分自身を悲劇のヒロインだと思ってたんだろうって。全員悲劇のヒロインですし、全員大変な中で力を合わせて頑張ってますしね。そっちのほうが全然楽しいって思いました。

──だから、このアルバムの曲たちは与える愛のこともいっぱい歌ってるけど、同時にいかに愛を受け取ってるかっていうことも歌ってるような気がするんですよ。“キスをしよう”とか“hope”は「愛してる」って歌でもあるけど、「愛されてる」っていう歌でもあるなって思ったんです。

ああ、ありがとうございます。

──これだけ愛されているんだから、愛してもいいんだっていう。その道ができたんだなって気がする。それがライブでも歌詞でも、あらゆる変化に繋がっていってるんだと思う。もらっている愛という意味ではこのアートワークもそうだよね。

はい、リンリン(現・MISATO ANDO)が描いてくれました。この人はパンジーちゃんだそうです。「これ誰?」って訊いたら「パンジーちゃん」って(笑)。彼女にとってパンジーが理想の人物的存在らしいんです。

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──花のパンジー?

そうです。あれを花だと思ってないらしくて。話を聞いて、神秘的な存在な感じはしたんですけど──リンリンにお願いしたときに、今までの音楽活動に対してどういう気持ちなのか、それを今どう思っているのかとか、BiSHって存在、PEDROって存在、今回の『意地と光』に対してどう思っているのかっていう話をすごく聞いてくれて。それを踏まえて、私という存在をパンジーちゃんに落とし込んで作ってくれたみたいです。今まで見てきたもの、出会ってきた人、触れてきたものがいっぱい積み重なってひとりのアユニ・Dっていう人間ができてるんだっていうのを描いてくれた。だから絵の具だけじゃなくて、モールだったり花だったりガラスだったり石だったり、いろんなものを使って作り上げてくれたみたいです。

──今までのもの全部が積み重なって今のアユニができてるって、本当にその通りですよね。なかなか認めづらいところでもあるし、切り捨てたい過去もあるけど、それも全部あなたなんだよって言われるのは結構グッときますね。

そうですね。リンリン、私がBiSHのアユニ・Dっていう存在を嫌っているって思っていたらしいんです。でも私は前作を経てBiSHのアユニ・Dが本物の私だったんだっていうことに気づいて。「BiSHのアユニ・Dが好きだよ」って言ったらびっくりしてました。

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