私は、この人に歌われると励まされるとか、この人が作った曲なら信じられるとか、楽曲に説得力を持たせられる人が、「このアーティストでなくてはならない」存在意義を獲得していくものだと考えている。以下のLavtのインタビューをぜひ読んでほしい。EP『solitude』を制作するにあたって、リスナーの暗い感情に深く寄り添うために、自分自身の暗い部分と一つひとつ丁寧に向き合い、言語化していったのだという。そうやって生まれた“voicemail”の歌詞にはこんな一節がある。
《自分自身がたまにウザくて/不器用な行動が目立って/優しさを持ち合わせているのは/気に入ってるけど》
自分自身のことになると嫌なところばかりがどうしても目についてしまうけれど、こうやって自分を認めてあげてもいいのだと気づかされ、ハッとする。辛いことのほうが多いと思ってしまう人生の中で、どうやって前を向いて歩けばいいのか。彼は自分のことを綴ることで、自然とみんなにその方法を伝えることができる稀有なアーティストだ。以前から取材をするたびに、明るい人だなとは思っていたが、暗い部分もあるけれど明るい部分が際立って表出していると説明したほうがきっと正しい。悲しさも苦しさも抱えたまま、笑って踊ることだってできるんだ。それを体現した姿を目の当たりにすることは、どんな有名な書物や偉人の言葉よりも励まされ、希望の光になる。こんなアーティストこそ、早く有名になって、たくさんの人に聴かれるべきだ。インタビュー=有本早季
──前回取材させてもらったのがミニアルバム『glauben』リリースタイミングでした(『ROCKIN’ON JAPAN』2026年1月号掲載)。その際に、「自分の音楽の芯をしっかり形成したい」とおっしゃっていましたが、その後手応えはいかがですか?今は順調に進んでいる感覚があって。『glauben』(ドイツ語で「信じる」の意)は、いろんなものが好きだし、いろいろ迷っちゃう性格だから、「好きなものをとことん信じてやっていこう」ということをスローガンに掲げたくてタイトルをつけたんです。それからは、いろんなものを吸収しつつ、自分らしさってなんなんだろう?っていうのを、自分が好きかどうかという基準だけでどんどん判断していったので、最近は「Lavtらしさ」を見つけられてきていると思います。“パラソムニア”(2026年2月リリース)あたりからは、「ああ、やっぱりこういう音好きだよね」とか、もうひとりの自分みたいな存在と「わかる、わかる」ってやりとりをする感覚で作曲を続けています。──自分が好きかどうかを明確な基準にしてやっていこうと思ったきっかけはあったんですか?最近、AIが音楽でもすごく発展してきていて、AIじゃない自分という人間が音楽を出力するにあたってどういうことができるんだろう?って考えた時に、人間味とか、その人にしか出せないものがどんどん大事になってくると思ったんです。特定のジャンルに寄り添う作曲は、AIでもできちゃうじゃないですか。たとえば「踊れる曲を作って」って言ったら踊れる曲を作ってくるし、「ロックを作って」って年代も指定したらその年代っぽい曲を出力してくるから、これはまずいと思って(笑)。だったら「Lavtの音楽」と言えるようなかたちを作っていったほうがいいんじゃないかという考えになって、そこから自分の色とか自分の好きな音を意識するようになりましたね。──確かにAIの精度はどんどん上がっていますからね。AIに自分の得意だったものが吸い取られていく感覚もあって、すごく悔しかったんです。でも、AIは人間じゃないから悩むことがないじゃないですか。僕は人間だから悩むし、そういう人間らしさ──たとえば、僕がギターを弾くとミスっちゃうこともあるけど、それが良さになることもある。AIがそのミスも計算してやり始めたらヤバいんですけど(笑)。でも、そういう人間らしさをどんどん培っていけたらなと思います。AIは人間じゃないから悩むことがないじゃないですか。僕は人間だから悩むし、そういう人間らしさをどんどん培っていきたい
自分自身の性格はポジティブだと思っていたんですけど、ネガティブな部分もあることに気づいて、両方ある人間なんだなっていうのをものすごく感じたんです。たとえば、失恋だったら自分自身でどうしようもない範囲のことだから、どうあがいてもネガティブにしか捉えられない瞬間もあるし、逆にその失恋があったから前を向けたみたいなポジティブな部分もある。そういうのをどんどん表現していきたいなと思いました。“サイレン”はまさにそういう失恋の曲で、ただただ自分の後悔を書いて、それにファンの人が共感できたら、救われる部分がすごくあるんじゃないかと思って書きました。“voicemail”は、ネガティブの中にあるポジティブみたいな感じで、ポジティブもネガティブも両方書いた曲です。
──「Lavtらしさ」を開拓していく流れの中で、自分と向き合う作業に行き着いたんですか?そうですね。自分がかっこいいと思うものをどんどん自分の中で言語化していったというか。なんでこのアーティストは自分に刺さっているんだろうとか、いろいろ共通点を探したら意外と見つかって。それを自分の中で織り交ぜて曲を作っていけば「Lavtらしさ」になるんじゃないかなと。──具体的にはどういうところからひもといていったんですか?幼少期からひもといていきました。「なんであの時俺は絵本にあんなに興味がなかったんだ」とか、「なんであんなに外に出ずに家でずっと引きこもってパソコンをいじってたんだ」とか。あとは、家庭のこと、今まで恋愛してきたこと、友達のこととか、本当に全部ですね。理由づけがない好きのほうが夢中になれる気がする。ただ、ギターがめっちゃ楽しいし、音が好きだっていう、この気持ちは絶対に忘れずにいたい
音楽でいうと「アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の何が僕に刺さってたんだ」とか、「なんでこんなにギターが好きなんだろう」とかにも向き合いました。その中で、理由なく「ただ好き」っていうのもあったんです。そういうものがすごく大事だなと感じていて。理由づけがない好きのほうが夢中になれる気がするんです。それこそギターに関しては言語化しようと思ってもあんまりできなかった。ただ、ギターがめっちゃ楽しいし、音が好きだっていう、この気持ちは絶対に忘れずにいようとか、そういうふうに向き合っていきましたね。──思ったより本格的に向き合われていたので驚きました。大変じゃなかったですか?大変でした(笑)。でも、たとえば「苦しい」という感情なら、かたちは違っても誰しもが経験してると思うから、今聴いてくれているお客さんのそういうものに寄り添おうと思った時に、自分自身がまず自分のそういう部分に寄り添わないと、あんまり解像度高く表現できないんじゃないかと思ったんです。だから、むっちゃしんどかったですけどやってよかった。一気に全部振り返ろうとしたのでヤバかったですけど(笑)、これからも定期的にやろうかなと思いました。