All photo by 野口悟空間違いなく、こうしてこの記念すべき初ワンマンを見届けることができて本当によかったと思えるライブだった。大阪出身のシンガーソングライター、
Lavtの初のワンマンツアー「growing pains」はそう思わずにはいられない素晴らしいものだった。その東京公演、渋谷Spotify O-WESTのレポである。
ソールドアウトで超満員の客席が暗転し、ダークさを感じるようなSEが流れる中でバンドメンバーたちとともにLavtがステージに登場。メディアなどでは顔を出していないが、ライブではハッキリとその顔を見ることができるという剥き出しのライブであることがこの時点でわかる。“有象無象”をメンバーたちが演奏すると、Lavtはハンドマイクを持って「渋谷、飛べるか!」と観客を煽るようにしてステージを左右に動き回りながら力強い歌声を響かせる。そのパフォーマンスに初ワンマンのぎこちなさみたいなものはまったくない。むしろ、すでにこうしたライブハウスでライブをやりまくってきたかのような堂々たる立ち振る舞いだ。
前半はそうしてLavt自身が動きながら歌い、バンド編成で鳴らされることによって、音源ではじっくり聴き入るようなイメージだった曲たちがフィジカルに楽しむものに変貌している。それはLavtがフロアを引っ張ることによって観客も腕を上げ、声を出すという形で応えているからこそ。淡い照明がステージを照らす“L4DY”では《四つ打ちに身を任した僕らに/何があるのかは分からないけど》と歌われるが、ライブで鳴らされる四つ打ちの先には確かにこの瞬間だけの熱狂が待っていたのだ。
ここまではハンドマイクで歌っていたLavtがギターを持つと、加藤綾太(G)、森夏彦(B)、吉田雄介(Dr)という確かな技術と経験を持ったバンドメンバーたちを紹介してソロ回しをしてから“都会病”に入り、一気にロック感が増していく。それはLavt自身が弾くギターも、弾きながらの歌唱も、ずっとこうやって歌ってきたんだろうなということがわかるくらいに力強いものだからだ。このメンバーたちの演奏があってもいちばん前に出ているのがLavtの歌唱だということに驚かされてしまう。
Lavtの歌唱に強さを感じるのは、ただうまく歌うだけではなくて、声に感情がこもっているからだ。“カゲロウ”の2コーラス目で少しその歌唱が揺らいだところからもそれが確かにわかった。本人もあとで「なんだか歌ってて感動して歌詞がわからなくなっちゃった」と言っていたくらい、思いっきり感情を込めて歌っている。サビでさらに力強く飛翔していくような感覚になるのもその感情ゆえである。
ここまでは実にテンポよくノンストップで曲を連打してきたが、ようやく一息つくようにして、Lavtは今回のライブツアーのタイトル「growing pains」が「成長痛」という意味であり、自身が一度曲作りで壁にぶつかった経験を語った。そして、それを経たうえで生まれた曲たちに成長を感じているということも。そうしたタイトルのワンマンだからこそ、自身が音楽を始めるきっかけになった
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの“君という花”をカバーするのだが、フル尺かつ完コピというのはLavtによる最大限のアジカンへの愛の表明だろう。さらに、「ワンマンやるには曲が全然足りない」と自虐してから演奏された、自身がボカロP・蒼透として活動していた時の曲である“フリップ・ダンス・ガール”も、未発表曲の“感情的侵略”も、そのギターロックサウンドがアジカンから連なるものであることがわかる。ワンマンだからこそこうして原点の曲を演奏することで、Lavtの表現が一本に繋がっていく感覚があった。
後半もやはりLavtがギターを弾きながら歌う“デイジー”から幕を開けると、リリースされたばかりの“涙のスイマー”が今のLavtの歌唱表現の凄さを最大限に実感させるものとして伝わってくる。《今大気圏を抜け出して/五月蝿いくらいの声量で》という歌詞の通り、サビに入った瞬間にこの歌声が会場を突き抜けていくような感覚が確かにあった。《誰より孤独を知ったから/一人なんて怖くないんだ》というフレーズは、まさに成長痛を乗り越えたからこそ生まれたものなんじゃないかと思った。今のLavtには一緒に音を鳴らしてくれる仲間も、自分の音楽を大切な存在として生きている人もいることがわかっているだろうから。
ここまでもコーラスフレーズで同期の声を流していたが、“HOLD ME”からは同期を使いながらも、Lavtがマイクスタンドから離れて観客の歌声を求めるように歌わせることで、大合唱が響く。バンドメンバーの加藤が自身のマイクスタンドを客席に向けているところからも、Lavtだけではなくてメンバーも観客の声を求めていることがわかる。タイトルフレーズで大合唱が巻き起こる“JOOOOKE”ではその加藤がステージから飛び降りてギターを弾きまくり、ステージではLavtと森が膝を突き合わせるようにして演奏している。その姿を見て、「Lavt」はこの4人のバンドでもあるんだなと思った。ボーカリストとバックバンドという関係ではなくて、全員が対等に音楽を鳴らし合っている。そんなバンドだからこそ生じる熱いエネルギーがこの日この場所には確かにあった。その熱さが観客に伝わって熱狂することによって、その熱さがまたバンドに戻っていくという相互関係。何がすごいって、そのロックバンドのライブの熱さを数え切れないくらいに体感してきたメンバーたちとLavtが対等に音を鳴らして歌っているということ。Lavtは完全にライブアーティストであり、ライブバンドだということである。
そのライブバンド・Lavtの熱さが最高潮に極まるのが、「憂鬱ですか?」と問いかけてから演奏された“ユウウツダンスフロア”。タイトル通りのダンスチューンは、誰もが人生において抱える憂鬱を踊ることによって吹き飛ばしていくかのよう。こんなに熱狂的なライブハウスで踊っていたら憂鬱なんか忘れてしまう。
「次で最後の曲です」と言って起きた「えー!」の声に「だって曲ないんだもーん」と悪戯っぽく言うあたり、Lavt自身がこのライブが楽しくて仕方なかったことを感じさせる。最後に演奏されたのはタイトル通りにステージを照明が照らす“オレンジ”。そのダンサブルなリズムによる楽曲の美しさは、あっという間に終わってしまったこのライブそのものの記憶をより美しく輝かせるかのようだった。演奏が終わって4人が肩を組んで観客に一礼する姿もまた、Lavtがこの4人のバンドであることを示していた。
終演後に“涙のスイマー”がBGMで流れているのを聴きながら、この人はこれから一体どこまでいくんだろうかと思っていた。やっぱり、この日ここで観ることができて幸せだったとも。それくらいにLavtの初ワンマンはありとあらゆる面でこのアーティストが破格の存在であることを示すものだったのだ。(ソノダマン)
●セットリストLavt 1st One Man Tour「growing pains」
2025.8.11 渋谷Spotify O-WEST
01. 有象無象
02. アルコール
03. モルト
04. L4DY
05. 都会病
06. 雨に打たれて
07. カゲロウ
08. 君という花(カバー)
09. フリップ・ダンス・ガール(カバー)
10. 感情的侵略
11. デイジー
12. 涙のスイマー
13. HOLD ME
14. JOOOOKE
15. ユウウツダンスフロア
16. オレンジ
●ライブ情報
Lavt オフィシャルサイト
提供:BOOSTACK inc.
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部