今まで観た中で最もスケールの大きな、おいしくるメロンパンのライブだった。そして、今まで観た中で最も解放的に「ロックバンドであること」を謳歌している、おいしくるメロンパンだった。
11月28日、おいしくるメロンパンにとって10作目となるミニアルバム『bouquet』のリリースツアー「おいしくるメロンパン bouquet tour - never ending blue -」のファイナル公演が、Zepp DiverCity(TOKYO)で開催された。バンドはこの会場で4年前にもワンマンを行っているが、当時はコロナ禍ということもあり、フロアにも椅子が用意された制限付きの開催だったという。それから4年のときが経って、彼らはこの日、満員の観客が埋め尽くす熱狂的な空間に立っていた。ライブのはじまりを告げたのは、美しくダイナミックなSEとLEDビジョンを駆使した映像演出。LEDには、バンドの世界観にとって重要なモチーフである海が映し出される。海は、このツアータイトルからも連想されるモチーフである。思えば、「never ending blue」というのは静かな闘志を感じさせるツアータイトルだ。「永遠に終わらない青」、それはすなわち、「青を終わらせない覚悟」とも言えるだろう。前に取材をしたときに、ナカシマが「青は、おいしくるメロンパンの昔からのイメージカラーのようなもの」というようなことを言っていたことを思い出す。
ステージに登場した、ナカシマ(Vo・G)、峯岸翔雪(B)、原駿太郎(Dr)の3人。楽器を抱えたナカシマと峯岸は、原がいるドラムセットの周りに集まる。何かを確かめ合うように。そして、ナカシマと峯岸が定位置に着くと、1曲目“5月の呪い”が始まる。これまでのライブでは、アンコールで披露されることも多かった“5月の呪い”が1曲目。しかも、もう何度もライブで聴いたことがある曲だが、この日の“5月の呪い”は質感が全然違った。とても開かれている。解放感があり、包容力もある。TOY’S FACTORYからのメジャービュー後初となるこの全国ツアーを通して、おいしくるメロンパンが極めて健やかに、そのスケールを大きくしたことが演奏から伝わって来る。続けて躍動感あふれる“黄昏のレシピ”へ。曲が始まった瞬間に観客たちの大歓声も巻き起こる。煌びやかな照明も会場を照らし出す。この日のLEDビジョンやレーザー照明も駆使した演出は、おいしくるメロンパンの現在地を華やかに、力強く照らしていた。さらに、切なくも疾走感のある“フランネル”、叙情的なイントロがライブアレンジで追加された『bouquet』のクロージングトラック“クリームソーダ”が披露される。“クリームソーダ”の《どうだってよくなった/どうだってよくなったんだ/君が来ないとしても》という素晴らしいフレーズが胸に刺さる。「どうだっていい」という言葉は、ときに希望の言葉になり得る。
最初のMCでは、ナカシマは観客たちに感謝を伝え、わざわざレポートには書かないでいいか、と思わせる峯岸との漫才みたいなやり取りも挟みつつ、しかし彼は、言うべきことはちゃんと言う。ナカシマは「『bouquet』は、純粋に音楽を楽しみながら作れた作品になっているので、ライブも楽しんで表現していきたいと思います。みんなもぜひ最後まで楽しんでください」と観客たちに伝えた。「純粋さ」というものは、歳を重ね、キャリアを重ねていくほどに薄れていくものと思われがちである。しかし、このバンドの場合は違うのだ。結成から10年を超えて、おいしくるメロンパンはさらに純粋になっていく。それが彼らの特別さなのだと思う。
ハァッ、とナカシマが空気を吸う音がマイク越しに聴こえて、彼は“水仙”を歌い出す。さらに『bouquet』収録曲の“十七回忌”。情感豊かなアンサンブルが響く。ナカシマが歌う《君が言うほど悪くないよ/この世界も》と言うフレーズが飛び込んで来る。続けて、スピード感のある演奏の中でコロコロと激しく表情を変えていく“命日”、スポットライトを浴びた峯岸のヘヴィなベースで始まり、歌謡曲的なメロディアスさも持つ“泡と魔女”と、楽曲を披露していく。“泡と魔女”は真っ赤で艶やかな照明に照らされる中で演奏された。その後の“空腹な動物のための”は、始まった瞬間から観客たちの大歓声が巻き起こり、このライブ映え抜群なヘヴィグランジチューンがいかに観客たちの心を掴んでいるかを実感する。そして、“空腹な動物のための”が終わると、間を空けずに原と峯岸のリズムセクションがブルドーザーばりの重量感で猛然と走り始め、“誰もが密室にて息をする”へ。重厚でありながら、しなやか。1音1音の響きは極めて生々しくダイレクトでありながら、3つの音が重なったときに生まれるのは、激しさと同時に、繊細さ。そんな奇跡的な3ピースアンサンブルに呼応して、観客たちの熱気も上がっていく。
続いては定番の原によるMC。「Zepp DiverCity、楽しんでるか~!」と、そのよく通る声で盛大に観客たちを煽ると、「『never ending blue』ってなに?、ってことなんだけど……」と、今回のツアータイトルについて語る。「永遠に終わらない青。だけど、永遠って、なかなかないじゃないですか。そう考えたときに、1個だけ思い浮かんだものがあって。『おいしくるメロンパンを好きだ!』って気持ちなんじゃないかと思ったんです。だから、今日はあなたの心を、never ending blueに染め上げます!」――そんな、いつになく真っ直ぐな原の言葉に、観客たちも大歓声で応える。しかしながら、ナカシマのまるで何事もなかったかのような「……ということで、最後までよろしくお願いします」という言葉をきっかけに、バンドは再び演奏に戻っていく。相変わらず、独特な間合いのバンドである。
続いて披露されたのは“epilogue”。「何かが終わるということ。それはすなわち、何かが始まるということなんだ――」、そんなメッセージが伝わってくるような素晴らしいアウトロから間髪入れずに、まるで視界を光が包み込むような爆発的な始まりで“旧世界より”へとなだれ込む。そして“トロイメライ”“斜陽”“未完成に瞬いて”へと、名曲が立て続けに投下されていく。“トロイメライ”は、このツアーにおいてとても象徴的な鮮やかな青色の照明に照らされながら披露された。ナカシマのボーカルはもちろん、峯岸と原によるコーラスも魅力的だ。コーラスにこだわりがあるロックバンドは素晴らしい。この日の“斜陽”は、壮絶さというよりは軽やかさが際立っていて、それが今、彼らは極めて自然に前進できていることの現れのような気がした。そして、そんな“斜陽”から原の見事なドラミングで接続されるように披露された“未完成に瞬いて”。とても晴れやかに響き渡った。
続くMCでは、ナカシマが峯岸に話を振ると、峯岸はZepp DiverCityの思い出を振り返る。「高校のとき、当時はZepp Tokyoだったけど、好きなバンドがみんなZepp Tokyoでライブをやっていて、『すげえところなんだな』って思ってたんです。俺も満員のその場所に立てたらいいなって思ってました。夢が叶いましたね」と語る。さらに「前回はコロナ禍で人数制限がかかっていましたけど、今回はソールドで。嬉しいね。ただ、個人的な夢は叶ったけど、おいしくるメロンパンはここがスタートラインで、どんどん進んで行くと思います」と、辿り着いた場所への感慨と、この先への想いを伝えた。それに応えるようにナカシマは、「大学生の頃、よく翔雪が僕んちに遊びに来ていて。そのとき翔雪が居眠りしながら、寝言で『Zepp DiverCityに立ちたいな』って毎回言ってたよね。……まあ、嘘なんですけどね」と、よくわからないことを言っていた。SNSなどでも見られる、このナカシマのノリは無性に魅力的である……。その後はやはりしっかりと、伝えるべきことを伝える。「先日、TOY’S FACTORYからメジャーデビューしました。改めて、いい選択ができたと思っています。僕たちの音楽が必要だけど、まだ届いていない人に、もっと届けていきたいという気持ち。こうして僕たちの音楽を聴いてくれているみんなにとって、もっと大きな存在になっていきたいという思い。このふたつの思いがあるので、まだまだこれからも続いていくおいしくるメロンパンを、一緒に楽しんでくれたら嬉しいです。よろしくお願いします」と、ナカシマは観客たちに向けて伝えた。
3人が再び向き合うと、獰猛な音塊がZepp DiverCityを激しく満たす。“シュガーサーフ”だ。フルスロットルで駆け抜ける演奏に会場の熱気は再び爆上がり。峯岸のベースソロもキマる。3人が向き合う形で“シュガーサーフ”が終わると、“群青逃避行”へ続く。その“群青逃避行”のアウトロが終わった後、一瞬の間を置いて、“群青逃避行”の原点とも言える“look at the sea”のイントロが始まった瞬間には深いカタルシスがあった。大切なものを抱きしめながら、信じたものを握りしめながら、時間は流れていくことを知りながら、「変わらないままでいること」と「変わり続けること」の両方に得るものと失うものがあることを冷静に見つめながら、おいしくるメロンパンは前に進んでいる。未来に、勇敢な1歩を踏み出し続けている。ドラム、ベース、ギター、それぞれの旨味が存分に発揮された間奏のアレンジも素晴らしい普遍的かつ最新型の“look at the sea”で、ライブ本編は幕を閉じた。
そしてアンコール。まずは“caramel city”を披露。そのあとのMCでは、観客の声に対して「うるさいなぁ」と言っちゃうナカシマに思わず笑う。原は4年前のZepp DiverCity公演を振り返りながら、「4年前と景色が違う。めっちゃ声も上がって。これは凄いね」と感慨深そうに語った。ナカシマは「東京はホームなので。また帰って来るので、そのときはまた一緒に音楽を楽しんでくれたら嬉しいです」と告げた。ラストに披露されたのは“色水”。とてもリアルな、今を生きる“色水”だった。颯爽と、美しく、バンドは未来へと歩を進めるように最初期の名曲を披露し、ステージを降りた。おいしくるメロンパンは、来年1月からも再び全国ツアー「おいしくるメロンパン bouquet tour – Re:birth blue – 」を開催する。ツアータイトルは今回のツアーに関連がありそうだが、ナカシマ曰く、「never ending blue」の追加公演ではない、正真正銘の新たなツアーだという。青を生き続けるロックバンドは自分たちを更新しながら、遠くへ、より遠くへ、まだ見ぬ君に会いに行く。(天野史彬)
●セットリスト
2025.11.28 Zepp DiverCity(TOKYO)
01.5月の呪い
02.黄昏のレシピ
03.フランネル
04.クリームソーダ
05.水仙
06.十七回忌
07.命日
08.泡と魔女
09.空腹な動物のための
10.誰もが密室にて息をする
11.epilogue
12.旧世界より
13.トロイメライ
14.斜陽
15.未完成に瞬いて
16.シュガーサーフ
17.群青逃避行
18.look at the sea
Encore
19.caramel city
20.色水
●ツアー情報
「おいしくるメロンパン bouquet tour - Re:birth blue -」
1/30(金) 神奈川・川崎CLUB CITTA'
2/8(日) 香川・高松 DIME
2/21(土) 熊本 B.9 V1
2/22(日) 鹿児島 CAPARVO HALL
2/28(土) 沖縄 桜坂セントラル
3/6(金) 兵庫・神戸 Harbor Studio
3/7(土) 広島 CLUB QUATTRO
3/14(土) 宮城・仙台Rensa
3/21(土) 石川・金沢 EIGHT HALL
3/22(日) 岐阜・club-G
3/28(土) 東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)【追加公演】
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