ブルーノ・マーズ @ 幕張メッセ

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2013年1月の来日は、セカンド・アルバム『アンオーソドックス・ジュークボックス』のプロモーションが主であり、恵比寿ガーデンホールで行われた公演もプレミアムなショウだった(筆者もチケットを確保できず悔しい思いをした)が、今回はオーストラリアからニュージーランド、タイ、フィリピン、インドネシア、シンガポール、香港、台湾、韓国、そして日本では大阪と東京で計3公演と諸地域をがっつりと巡る『MOONSHINE JUNGLE TOUR 2014』の一環。そのオセアニア〜アジア・ツアーを締め括る幕張メッセ2日目は、ブルーノ・マーズ自身も伸び伸びとパフォーマンスを楽しみ尽くしている印象で(この後に故郷・ハワイでの凱旋公演が控えているという理由もあったかもしれない)、大会場の隅々にまでその楽しげなヴァイブを伝播させるステージになった。

「Welcome to the Moonshine!!」と突き抜けるような第一声に場内が沸くと、ホーン・セクションを含むバンド・メンバー、そしてストローの中折れハットにベストというカジュアルな装いのブルーノが、眩いバックライトを浴びて酔いしれるように“Moonshine”を披露する。沸々と、ドラマティックに立ち上がるオープニングだ。そこからオーディエンスのクラップを巻いて一気にグルーヴを燃え盛らせる“Natalie”、レトロなブラウン管を象ったスクリーンを背負い、華やかにソウル・レヴューを繰り広げる“Treasure”と、場内を加熱していった。ブルーノが一貫して楽しそうなのは、バンド・メンバーの活躍に依るところも大きいだろう。密集体形で揃いのステップを踏んだりもするけれど、決してシステマティックなパフォーマンスではない。メンバーとの即興的で自由度の高いコンビネーションを活かしながら歌い、オーディエンスを巻き込む。瞬く間にスターの座に上り詰めた立場とはいえ、ブルーノは極めてヘルシーで天真爛漫な、ポップ・ミュージック野郎なのである。
ブルーノ・マーズ @ 幕張メッセ

バンド・メンバーとの絶妙な呼吸は、とりわけメドレー気味に勢い良く畳み掛けられる楽曲群においてもスリリングな効果を発揮していた。モータウンに敬意を表すような“Money (That’s What I Want)”(ビートルズのカヴァーも有名)や“Billionaire”と憎めない成り上がり根性を晒したかと思えば、レゲエ・クラシック“Bam Bam”の名コーラスから“Our First Time”辺りのメロウなナンバーに繋げていったりもする。ブルーノ自らがギターを奏でるイントロで歓声を浴びるのは“Marry You”だ。女性ファン殺しの一幕としては、続く“If I Knew”も凄かった。わざわざオーディエンスに「Do you love me?」というフレーズを歌わせておいて、「Yes, just I do. アイシテマス!」と返すイケメンっぷり。敢えて“Marry You”でやらずに“If I Knew”で意表を突くところが心憎い。そして“Runaway Baby”に拡声器ヴォーカルも持ち込まれるパフォーマンスは当然の沸騰ぶりで、演奏がミュートしたところにオーディエンスが激しく足を踏み鳴らし、そこからバンドがクレッシェンドしてゆくという強烈なライヴ感を描き出してくれた。

“The Lazy Song”では、サポート・ヴォーカリストのフィリップ・ローレンスがアドリブについていけなかったみたいなテイで、「準備しておかなくちゃ」とか何とか言っているうちに演奏が激しいビートに切り替わり、ブートキャンプ的に腕立て伏せを開始。遊び心を極めるショウも、そっちはそっちでなかなかストイックなようだ。そこから美しいピアノ伴奏にブルーノの切々とした歌声が映える“When I Was Your Man”に持ち込むものだから、観ている方も目眩を起こしそうになる。凄腕キーボード奏者による、クラシカルなピアノ演奏の独壇場を挟んで、ダイナミックにプレイされる“Grenade”からは本編クライマックスへと突入だ。万感の“Just The Way You Are”を歌いながらブルーノは、「今夜はアジアで最後のショウなんだ。来てくれてどうもありがとう。東京に来ることが出来て本当に嬉しかったよ。最後に、もう一度歌って欲しいんだ。出来るかい?」と告げてオーディエンスの歌声を浴びる。バンド・メンバーを紹介すると、フェイント混じりのハンド・サインを繰り出し、この期に及んでメンバーと音遊びを続けるブルーノだったが、このポップ・ミュージック馬鹿一代の生き様のごとき楽しさは、多くのオーディエンスにも伝わっていたはずだ。
ブルーノ・マーズ @ 幕張メッセ
シンガー・ソングライターでありマルチ奏者でもあるブルーノ・マーズは、2010年代初頭のUSポップ・シーンにとって、まるで救世主のように現れたアーティストだった。彼のように、今日の細分化された音楽ジャンルを自由に横断し、華やかで人懐っこいメロディを残すことの出来るソングライターは存在しなかった。人種的にミックスで、しかもハワイ生まれであるという彼の人種的マイノリティとしてのバックグラウンドは、「だからこそ何者にでもなれるブルーノ・マーズ」を育んだようにも思える。彼のドラム・ソロ(台座ごとステージ宙空に浮上して行った)から始まったアンコールは、“Locked Out Of Heaven”を経て“Gorilla”へと向かう。ハイになって、ゴリラのように、ワイルドに愛を貪ろうとするこの歌で、スクリーンには猿→猿人→旧人→新人という進化の果てにゴリラが咆哮を上げるというアニメーションが映し出されていた。再び上昇する台座の上で歌うブルーノは、跪いてまでこの日最高の熱唱を繰り広げる。飲んだくれの女ったらしに見えるこの男は、実はこの2010年代において、ダフト・パンクと比肩するレヴェルで「全人類にとってのポップ・ミュージック」を指向しているアーティストなのではないだろうか。(小池宏和)

セットリスト
M1. Intro 
M2. Moonshine
M3. Natalie
M4. Treasure
M5. Money
M6. Billionaire
M7. Show Me
M8. Our first Time
M9. Marry You
M10. If I Knew
M11. Runaway Baby
M12. The Lazy Song
M13. When I Was Your Man
M14. Grenade
M15. Just The Way You Are
En1. Locked Out Of Heaven
En2. Gorilla
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