全国13公演「LIVE TOUR 2014 “LIFE”」から間を置かず、その延長線上にスケジュールされた今回のステージ。スペーシーで未来的なのにどこかノスタルジックな響きを持つ、そんな客入れSEが、アルバム『LIFE』の冒頭を飾っていた“リバース”へと連なる。スクリーンには、デビュー当時、志村正彦が歌う姿から現在まで、歴代のライヴ映像が映し出されていた。“卒業”の逆回転テープを使用した“リバース”は、「reverse(逆回転)」であり、同時に「re-birth(再誕)」でもあるのではないか。大喝采が迎えるバンド・メンバーは、山内総一郎(Vo・G)、加藤慎一(B)、金澤ダイスケ(Key)、サポート・メンバーにはBoboこと堀川裕之(Dr)、そして名越由貴夫(G)という5ピース編成である。山内は中折れハットを高く掲げながら入場し、背後のアンプの上に乗せた。5人は、それぞれにタイトでクリアな音像を放ち、懐かしいイントロを鳴り響かせてなんとデビュー・シングル“桜の季節”を披露する。山内は楽曲と歌詞を、そして武道館の光景をじっくり味わうような何とも言えない表情で歌い、加藤と金澤もふくよかなハーモニーを添えていった。
続いては“陽炎”。導入部は楽曲本来の良さを引き出すような演奏に徹し、山内が「キーボード、金澤ダイスケ!」と放つ掛け声を合図に、今のフジファブリックのライヴ・バンドとしての力量が一気に解放される。そして金澤の追い立てるように性急なシンセ・フレーズから転がり出すのは、新作『LIFE』の中でも屈指の痛快な爆走ロック・チューン“シャリー”だ。山内の力強いヴォーカル・ワークも鮮やかに決まっていた。「どーもこんばんは、フジファブリックです! ありがとう! 駄目だってこの眺めは〜!!」とさっそく感極まっている様子の山内。ひとしきりコール&レスポンスを敢行し、天邪鬼な捻れメロディを加藤のダンサブルなベース・ラインがドライヴさせる“Sugar!!”、華やかなサウンドで武道館を掌握する“徒然モノクローム”、背景いっぱいのスクリーンにカラフル&サイケデリックな光の帯が広がる“WIRED”と、新旧のシングル曲群が一繫ぎになってゆく。
「えー、まあ、あれっす。この光景は、本当に夢のようです。デビューして10年になります。ライヴ・ツアーを回って来て、今日が10周年の武道館なんですけど」とあらためて挨拶し、メンバーを紹介する山内である。「10周年、おめでとう!(名越)」「しかしすごい。こんな光景は見たことない(金澤)」「楽しんでってね(加藤)」と思い思いに一言を伝え、Boboも立ち上がってナイスな笑顔を浮かべながらお辞儀していた。そして、レーザー演出に彩られた“地平線を越えて”や、グランジ・バンドがT・レックスを演奏しているような熱いブギー・ロック“efil”では、豪快でゴリゴリとしたロック・バンドの表情を覗かせる。ライヴ・ヴァージョンは、音源とはまたひと味違った躍動感のかっこ良さだ。そこから急に美しいフレーズが交錯する“赤黄色の金木犀”に移行してしまうものだから、筆者は目頭が熱くなるのを禁じ得なかった。長く伸びたツタのように、記憶深くに纏わり付く志村正彦作品の力、そしてそれを今の形でヴィヴィッドに蘇らせる、フジファブリックの力は本当に素晴らしい。
「ツアー中、いろいろありまして。アルバム作ったときのこととかね。意識したわけじゃないんだけど、いろいろ振り返って、いろいろ考えながら、作ったアルバムでした。志村くんのこととかね。このギターは、さっきも使いましたけど、志村くんのギター(白いストラトキャスター)なんですよ。一緒に買いに行って、ストラトどうかなって」。背後に置かれた志村のギター・アンプについても、かつてライヴ中に山内が乗り上がって壊してしまい、志村と一悶着起こしたことを懐かしそうに語りながら、「大切な舞台で、一緒にやらせてくれてありがとう」と思いを伝える山内である。「志村くんのことも、フジファブリックがどういう『LIFE』を送って来たのか、なんでフジファブリックを続けて来たのか、ということについて、答えが出たんですが……僕たちは、フジファブリックというバンドが好きなんですよ。志村くんのことも好きなんですよ。それしかねえなあ、ってことなんですね」。
そして、ノスタルジックなキーボード・フレーズに導かれ、自然界の美しい映像をバックに《それぞれ道を歩けばいつかまた会えるだろう》と歌われる“卒業”。10年の月日が、繋がっている。“カタチ”を披露すると、山内はこんなふうにも語っていた。「メンバーの間ではいつも言ってることなんやけど、フジファブリックが好きで、志村くんが好きってことをね、早く皆さんに、面と向かって言いたかった。告白のようなツアーでもありましたね」。そして志村の思い出話に花を咲かせ、加藤はお馴染みのカトーク(謎掛け)で「武道館と掛けて、夜明けの海と解きます」「その心は?」「どちらもカイジョウが素晴らしいです!」と見事にオーディエンスを沸かせたり、金澤はグッズのモグライト(音に感応するタイプと光り続けるタイプのLEDリストバンド)を用いてオーディエンスのコールで一斉にライトを点灯させたりと盛り上げつつ、Boboのカウントで威勢良く傾れ込む“夜明けのBEAT”以降は、武道館が完全に一体となるクライマックスを描き出していった。本編ラストは、多くの経験を背負いながらも軽やかに今日のステップを踏み出そうとする“LIFE”である。
アンコールでは、まず一人きりで姿を見せた山内が「もっと振り返ったり、見詰めたりしないと、前に進めないと思ったんですよね。僕が志村くんのヴォーカルに惚れて、(デビュー時の)フジファブリックが始まったんですけど、今は自分が歌っているんですよね。どうして歌うことにしたか、という曲を歌います」と伝え、アコギの弾き語りで“sing”を披露する。その最後のセンテンスを、彼は《君がいるから/僕は歌う》と変えて歌っていた。「俺いま、歌詞変えたのわかったー!? なんで歌うかって言ったらねえ、みんながいるからだよ! それしかないよ!」と、昂るままに言い放つ山内であった。“Gum”に続いては「今日のために、曲を作りました! 祝ってもらいに回っているようなツアーで。僕たちはミュージシャンなんで、曲で返したいと思います!」と新曲“はじまりのうた”も披露された(その夜のうちに配信がスタートし、MVも公開されている。こちらのニュース記事も参照→http://ro69.jp/news/detail/114370)。場内にはリボンキャノンが放たれ、祝祭感が最高潮を迎えてゆく。
“銀河”“STAR”というフィナーレは、この夜に詰め込まれた無数の思いを糧とするように、いつもよりも強くキラキラと輝いている気がした。「また武道館やる! また遊びに来て! 10年間本当にありがとう! これからも、志村くんのこと含めて、フジファブリックをよろしくお願いします!!」。フジファブリックの3人は、この言葉を伝えるために、端からは想像も及ばないほどの努力を重ねて来たはずだ。優れた作品を生み出し、ライヴアクトとしても更なる成長を遂げ、全力疾走してきた。そして『LIFE』というテーマのもと、ファンと一緒に今、過去と未来を繋げることが出来た。3人で走り続けた時間が無ければ、きっと『LIFE』のテーマや、これほど感動的なアニヴァーサリーに到達することも出来なかっただろう。
■セットリスト
01.桜の季節
02.陽炎
03.シャリー
04.Sugar!!
05.徒然モノクローム
06.WIRED
07.地平線を越えて
08.efil
09.赤黄色の金木犀
10.ブルー
11.茜色の夕日
12.若者のすべて
13.卒業
14.カタチ
15.夜明けのBEAT
16.バタアシParty Night
17.Magic
18.星降る夜になったら
19.LIFE
encore
20.sing
21.Gum
22.はじまりのうた
23.銀河
24.STAR