赤坂ブリッツで開催されたヒトリエのツアーファイナル。それはヒトリエが、自分たちの力で未来を切り拓いてゆけるバンドであることを、力強く示してくれるライブだった。
ライブ中盤のMCでwowaka(Vo・G)はこんなふうに言っていた。「『WONDER and WONDER』というアルバムは制作に苦しい時期があった。僕が曲を書けなくなった時期があって。でも、バンドのメンバーとスタッフと、来てくれるお客さんの支えがあって(アルバムは)できた。そういうアルバムの曲をツアーで11ヶ所やってきて、自分の身に戻って。ようやく自分の体の一部になってきた」と。たとえ苦しくても、あのアルバムを作ってくれて本当によかった。ネットシーンで活躍していたwowakaがバンドをやりたくて結成したヒトリエは、実にバンドらしく、健全なバンド道を突き進んでいる。
緑色のレーザービームが無秩序な線をスクリーンに映し出すなか、イガラシ(B)、wowaka、ゆーまお(Dr)、シノダ(G・Cho)の4人が登場。無秩序だったレーザーが「ヒトリエ」のロゴを描くと、シノダの鋭利なギターの音色がフロアの空気を切り裂く。「ヒトリエです。よろしくどうぞ」と、wowaka。繊細で整ったCDの印象とはかけ離れた、荒々しいバンドサウンドに圧倒される。“終着点”からライブはスタートした。続けざまにハードロック/メタルの影響を感じる激しいナンバー“インパーフェクション”。多彩な色のレーザーがお客さんの頭上を走る。そして、「みなさん、踊れますか?」という、ゆーまおの問いを皮切りに、クレイジーな轟音で踊らせた“ワールズエンド・ダンスホール”から、性急なサウンドに合わせて照明が激しく明滅した“ボートマン”へ。光と音の演出が実に鮮やか。まるで檻の外へ解き放たれた野獣のようにアグレッシブに攻める4人を迎え撃つ、会場の熱量も半端ない。
4曲を終えて、「満員だ。バカヤロー! ……本当にありがとうございます」と、 シノダ。1,000人以上のお客さんがひしめく光景を、「スゴい!」と感嘆しながら、ステージへ声を投げかけてくるお客さんとも気軽に言葉を交わし、再び演奏へ。その勢いは増す一方だ。“るらるら”では、途中で演奏をストップすると、シノダがギターを水平に構えたまま停止。一瞬の間に、横からイガラシが爽やかに「ありがとう!」と叫び、何事もなかったかのように曲に戻ったかと思えば、続く“NONSENSE”では、 ゆーまおがタイトなドラムを繰り出す。そこにwowakaとシノダが向かい合って噛み付くようにギターを掻き鳴らし、イガラシは足を大きく開いて低い重心から鋭いベースプレイをお見舞い。短くキレのあるソロ回しだ。こんなふうに、高い演奏技術なしには演出することのできない心くすぐる見せ場を、楽曲の随所に挟みこんでくるところもたまらない。
MCでは、昨年12月から始まったツアーが全国11ヵ所を経て、この日ファイナルを迎えられたことへの感慨にシノダが触れると、シノダ&ゆーまおを中心にツアーの思い出トーク。高松で出会ったアイドルの話を持ち出したシノダに、ゆーまおは「まずそれ?」とツッコミ。「1番に思いついた…」というシノダに、「かわいそうだね、それ」とゆーまおが返して笑いをとると、新潟への移動渋滞で起きた極限状態のエピソードや京都磔磔のニットセーター紛失事件など、話し出せばキリがない。
フロアの空気も少し落ち着いたところで、wowakaがアコースティックギターに持ち替えると、シノダとの繊細なツインギターからはじまった“癖”へ。ステージには緑のレーザーが無数の円を描く。そして、wowakaがギターを持たずハンドマイクで歌った“なぜなぜ”。《どうしてなんだい》という答えのない自問自答を、どこか歌謡曲のような、情緒的なメロディにのせて丁寧に紡いでいく。“ピューパ・シネマ”では、起伏の激しいメロディをファルセットを交ぜながらwowakaが歌い、イガラシ、ゆーまお、シノダのコーラスもそこに味わいを添えた。『WONDER and WONDER』というアルバムで感じた、ヒトリエの幅広い表現の可能性を、ライブという場所でも証明する演奏だった。
『WONDER and WONDER』の楽曲を、前半でほぼ全て披露し終えたところで、wowakaが真面目なトーンで語ったのが、冒頭で書いたMC。そして、「僕は楽しいんだけど、いますごく。……楽しいよね? 音楽はそのぐらいの力を絶対に持ってると僕は思ってる。モヤモヤしたエネルギーを全部ドーンってなれるのが、僕らのやってる音楽だと思う。だから今日この場を世界一楽しい場所にしていきましょう」と言って、ヒトリエがバンドをはじめて最初に作ったという、とても大事な曲“カラノワレモノ”へ繋いだ。どうしようもない哀しみを、緻密なサウンドとダイナミックな演奏によって別の何かへと昇華させる。ヒトリエそのものを表しているかのようなこの曲をいっそう熱を込めて演奏する4人の姿は印象的だった。
「今日、レーザーすごいでしょ? リハで見て、おしっこちびるかと思った。宇宙戦争ってこういう感じなんだな(笑)」と、シノダ。茶化し気味に言ったが、本当にスゴかった。日々進化するライブ演出の現場。その最先端とも言える技術がヒトリエの世界観を力強くサポートする。そして、シノダが「みなさん、この宇宙戦争を最後まで生き抜く覚悟はありますか?」呼びかけると、客席はウォー!と大歓声で応える。「その意気や良し!」と、シノダ。いよいよライブは、前作アルバム『イマジナリー・モノフィクション』のナンバーを畳みかける、終盤戦へと突入した。ゆーまおの力強いタム回しを軸にリズミカルに駆け抜けた“ever ever ever”、イガラシの凶暴なチョッパーベースから全力で踊らせにかかった“踊るマネキン、唄う阿呆”のあと、ラストの“センスレス・ワンダー”まで、常に最高潮のスピードを保ち続けたまま、最高の盛り上がりでライブを締めくくった。
wowakaとイガラシはパーカー、シノダとゆーまおはTシャツと、それぞれツアーグッズに着替えて、再び登場したアンコール。1曲目は、圧倒的なスピード感と細やかな演奏を誇ったこの日のライブで、最もテンポの遅いミディアムバラード“泡色の街”だった。その普遍的なメロディは、ネットシーンだとか、ロックシーンだとか、そんな垣根をいとも簡単に超えていく。そして、7月から初の東名阪クアトロツアーを開催することを発表すると、ラスト2曲は再びアッパーな曲に戻り、フロアを狂乱の渦へ。圧倒的に多い言葉数で緩急をつけながら駆け抜ける“サブリミナル・ワンステップ”でフロアを揺さぶると、wowaka名義のボーカロイド曲“ローリンガール”で終了。その後も鳴りやまない「ヒトリエ! ヒトリエ!」のコールに応えて、再びステージに戻ったメンバーは、客席を背に写真撮影。最後は、ゆーまおが「今後ともヒトリエをよろしくお願いします! 精一杯やるので。がんばるぞ!」と言い残して、全12公演の全国ツアーは大盛況のうちに幕を閉じた。(秦理絵)
■セットリスト
01.終着点
02.インパーフェクション
03.ワールズエンド・ダンスホール
04.ボートマン
05.るらるら
06.NONSENSE
07.5カウントハロー
08.癖
09.なぜなぜ
10.ピューパ・シネマ
11.カラノワレモノ
12.ゴーストロール
13.アイマイ・アンドミー
14.ever ever ever
15.踊るマネキン、唄う阿呆
16.センスレス・ワンダー
(encore)
17.泡色の街
18.サブリミナル・ワンステップ
19.ローリンガール