【インタビュー】結成30年のsyrup16gが、今、音楽にする「いちばんパーフェクトな、自分の心の声」──ニューアルバム『Canon Feel』について五十嵐隆に訊く

【インタビュー】結成30年のsyrup16gが、今、音楽にする「いちばんパーフェクトな、自分の心の声」──ニューアルバム『Canon Feel』について五十嵐隆に訊く

《横断歩道 ずっと眺めてる/傘も持たない 地蔵です/徒然も悠然と 通りすぎてく》と歌う“Season Echo”で始まり、《誰かになりたかったくせに 上に/誰より偉そうだね ねぇ》と聴き手の芯を突く“Perfect Voice”で終わる、syrup16gの約4年ぶりのアルバム『Canon Feel』。2作目『COPY』で注目を浴びてから25年、自身初の日本武道館で解散してから18年半、再始動してから12年。「日本のロックバンドの絶対基準」として、一生離れないリスナーを多数抱え、後続のミュージシャンたちに絶大な影響を与えてきたこのバンドが、2026年の今もこうして存在し、活動していることの価値を、ファンはわかっていると思うので、可能であれば、まだこのバンドを知らない人たちが、本作に触れることを望む。聴き手に親切で優しくてあったかい音楽がいくらでもある現在において、syrup16gはあきらかに異端だが、「今だから」ではなくてずっと異端だったし、だからこそずっと熱く深く支持され続けてきた音楽である。五十嵐隆に話を訊いた。インタビュー=兵庫慎司

昔、バンドを失敗したのって、自分の「この曲はこうしたい、こうならないと嫌」みたいなのがでかかったからだと思う

──3月13・14日の、結成30周年記念のNHKホール、2日とも見せてもらったんですけど。その段階で、それぞれ3曲ずつ新曲をやっていて、今年はアルバムが出るな、と。はい。ライブの度に新曲をやって、それがレコーディングのためのプリプロを兼ねてるみたいな。それが、いちばん曲が生まれやすいというか。「さあ、レコーディングするぞ」ってまとめて曲を作るよりも、ライブの度に曲を作ったほうが、その時の気持ちが入るから。2024年の気持ちも、2025年の気持ちも、アルバムに入ってたほうが、厚みがあるかなと思って。──ツアーが決まって3人でスタジオに集まると、ふたりとも演奏上手いから、練習がすぐ終わって時間が余る、だからそこで新曲をやる、と、前におっしゃっていましたよね。手練れだからね、ほかのふたりは。で、僕の中では、書き溜めてた新曲を「こんなのどうかな?」みたいに出すタイミングになるっていうか。スタジオに入っても、昔の曲はすぐできちゃうから。退屈とまでは言わないけど、テンションが上がんない気がするんですよ、自分が。昔の曲のおさらいみたいな感じでライブに向き合うよりも、その時の自分が出るほうが、モチベーションも変わってくるから。──じゃあ常に新曲のストックがあるんですね。ストックっていうか、普段、引きこもってるから。ボロンってギターを弾いたりして、曲の断片的なものがあって。それをみんなで合わせている間に、なんとなく曲になっていく、っていう作り方だと思います。作り込んでから持って行くんじゃなくて、ふたりの反応を見ながら作っていくほうが、自分も楽しいし、ふたりも自分で作ってる感じがするかな、と思って。昔、バンドを失敗したのって、自分の「この曲はこうしたい、こうならないと嫌」みたいなのがでかかったからだと思うから、それはやめとこうかな、っていう。だから、リハーサルの時も、メンバーに「こんな新しいフレーズがあるんだけど」って聴いてもらうっていうほうが楽しくて。──今回のニューアルバムの『Canon Feel』というタイトルは?インストの曲があって。それが結構、最後の最後まで難しくて、歌もいろいろのっけてみたりしたんだけど⋯⋯あ、その時に、歌詞が⋯⋯なんか、レゲエみたいなメロディの曲だったんですよ。このメロディで言いやすい言葉ないかな、って考えてて、英語っぽく歌ったりしていたら、その歌ったやつが、「なんかこれ、『ロキノン1000円』に聞こえるな」と思って。あ、これ、全然ディスってないですよ?──(笑)。はい。たまたまそう聞こえるなと思って、ロッキング・オンの値段をパッと見たら、1000円だったんです(笑)。500円だった頃の世代だから、ちょっと複雑な気持ちに⋯⋯いろんなものが値上がりしてるから、しょうがないんですけど。──今の話にどうリアクションすればいいんでしょうか。「僕はロッキング・オンが280円だった頃の世代です」とか言えばいい?(笑)いや、だから、そういうのも含めて、なんか言葉をのせて歌おうと思ったんだけど、やめて。その代わりにギターを入れようと思って、カノン進行の⋯⋯わりと最近、一般の人も知ってるような。──はい、いわゆるベタな、ヒットソングのコード進行ですね。自分はあんまりそういうのを意識して曲を作ったことなかったんだけど、この曲の、今のギターのコード進行の上で、カノン進行のギターを弾いてみたらどうかな、と思ってやってみたら、「あ、これ、いいや」と。だから、完全にカノン進行ではないけど、カノン進行っぽいフィールみたいな。そういう曲ができたので、タイトルにしたんですけど。
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普通に聞こえてくる音楽の情報量がすごく多い気がする

──なぜそれに興味が向いたんでしょうね。なんか、ベタなものってどういう感じなのかな、って思ったのも、ちょっとあったかな。ベタを受け入れる、みたいな。前作まで、自分の作家性を出す⋯⋯ちょっと複雑に聞こえるとか、そういうほうがいいんじゃないかと思って作ってたんだけど、今回、わりとギターポップっぽいっていうか。1993年に、レモンヘッズっていうバンドの『Come On Feel The Lemonheads』っていうアルバムがあって。──はい、日本の多くのギターバンドのお手本になったアルバム。あのアルバムが、自分の青春の1ページみたいな。ああいう⋯⋯すごいシンプルなんだけど、生活に彩りと寄り添いをくれる、っていうのがやりたいなって。──その「ベタを受け入れる」というのは、達成できました?あんまり難しすぎないようにはした、というか。うちらの曲って循環コードが多いから、それをどううまく飽きさせない曲としてできるかな、って毎回腐心するんですけど、そこもあんまりひねらずに、まんまでやってみました、みたいな感じ。必要最小限というか。歌詞の感じとかも含めて、たぶんBGMにはなり得ないんだろうけど、生活の中に溶け込めるような空気感というか。レモンヘッズとか、ギターポップみたいなのって、わりとBGMとしても、その空気感が⋯⋯なんか、そういうのがいいな、作れないかな、と思って。やっぱり今、どうしても、普通に聞こえてくる音楽の情報量がすごく多い気がするから。──ああ、それはそうですね。あそこと同じように、頑張ってやんなきゃって思うと、ちょっと勝てないだろうなと思って。だから、いつもの逆張りじゃないけど、引き算でやってみようかな、っていうのは、ちょっと思ってたかもしれないです。情報疲れが、僕の中に結構あって。おすすめで毎回出てくるじゃないですか。「こんなニューリリースありますよ」って。そういうのも聴いてみたりはするけど、やっぱりもう最初の10秒間で、すごいから。その10秒でおなかいっぱい、ここで勝負は無理だな、っていう。でも、別にチルっぽいことをやりたい感じでもないんですけど。そのどっちかに二極化するんじゃなくて、もっと普通に、そのどっちでもないことをできないかな、みたいな。昔からシンプルなものが好きだったのも、根底にはあると思うけど。そもそもバンドを3人でやっているのも、存在自体が引き算の美学でできているようなもんだから。──それによって歌詞のほうも変わったりは?歌詞ね⋯⋯歌詞は、相変わらずっていうか。ずっと縁側芸をやってるんで。縁側で「いい天気だなあ」って見ているみたいな。──世の中を。うん。それは、最初の頃からずっと変わんないかな。世の中は流れていくけど、自分はそこにいない感じで、取り残されたままというか。無人島に暮らしてるような感じ。前回のアルバム『Le Misé blue』(2022年)のジャケットで、自分だけ宇宙服を着ているような世界にずっと居続けてるな、と思います。──それはまったく変わらない?うん。変えようと思って、一回バンドやめてみたけど。社会って、なかなか参加するの大変、っていう。で、おめおめと戻って来て、やらせてもらってますけど。──あ、じゃあ、やめていたあの間に、社会に参加しようという気持ちはあったんですね。参加しようとした。職安行こうかなあ、とか。その頃Uberとかあったら、やってたかもしれないですね。高校生の時は、結構バイトやってたし、働くこと自体には憧れはあったんだけど、やめた時34とかだったから。なんかもう、すでに終電が行ってしまった、みたいな(笑)。
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