凛として時雨@パシフィコ横浜

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機械的なノイズ音を繋ぎ合わせた、どこか胸騒ぎのするようなSEが流れ出して、TK(Vo・G)、345(Vo・B)、ピエール中野(Dr)がステージに姿を現した。ピエールのドラムが静寂を打ち破り、TKの冷やかなハイトーンボイスが狂おしい愛憎をあぶり出す“鮮やかな殺人”からライヴはスタート。ステージの中央に佇むスリーピースという最小限のバンドの編成は、関東でも有数の規模を誇るホール会場=パシフィコ横浜のステージの広さ、天井の高さをいっそう強く際立たせた。

凛として時雨@パシフィコ横浜
その広い空間を赤と黄色のコントラストで染めた“SOSOS”から、ザラついた爆音のロックンロールに美しいメロディが映える“Karma Siren”へと繋ぎ、最新ミニアルバム『es or s』で時雨が体現した、かつてないふくよかで深みのある音像が、ライヴという場において見事に再構築されていく。345の歪んだベースラインが唸りをあげ、ピエールの強靭なダンスビートが炸裂した“DISCO FLIGHT”では、オープニングから固唾を呑んでステージを見守っていた客席からも少しずつ手が上がり出した。これまで、凛として時雨というバンドが象徴していた圧倒的な迫力や臨場感、肉体性に、初の海外レコーディングに臨んだ『es or s』で見出した繊細なエモーショナルが混じり合い、いま明らかにバンドは新しいフェーズへと突入していることを告げる。

凛として時雨@パシフィコ横浜
エメラルドグリーンの照明のなか、《世界に問う 聞こえてますか》と刹那的なTKの歌声が強く印象に残った“Tornado Mystery”のあと、機材トラブルが起きる。だが、エフェクトがかかりっ放しのTKのギターに、ピエールのドラムがさりげなく加わり、即興のセッションへ。ピエールの予定外のMCをわずかに挟んだが、トラブルを感じさせない流れで本編の曲を続けていく。ダンサブルなビートが軽やかに弾んだ“Mirror Frustration”では、床に置いたふたつのミラーボールが無数の光球を会場中に乱反射させて、とても幻想的な空間を生み出した。中盤はライヴの定番でもあるキラーチューン“Who What Who What” “I was music”の後に、ライヴで披露されることの少ない“a 7days wonder” が続く絶妙の展開によって、会場の興奮は更なるピークへと達していく。夕空を思わせるオレンジ色のステージで披露された“夕景の記憶”は、TKのボーカルが次第に熱を帯びていくさまが圧巻だった。

凛として時雨@パシフィコ横浜
「はい、どうも! “夕景の記憶”の余韻をかき消すように、ピエール中野の声が入ってきましたよー!」と切り出したピエールによる恒例のMCコーナーが始まる。定番のコール&レスポンスでは、「バーイブス!」「ウルトラソウル!」(B'z)「チョコレイト!ディスコ!」(Perfume)といったお馴染みのパターンに加えて、先日、ラストパーティーを終えたthe telephonesのディスコを終わらせたくないと、「ウィーアー!」「ディスコ!」を叫ぶ場面も。同じ時代にシーンを駆け抜けてきた盟友への想いも滲ませた、ピエールらしい演出に胸が熱くなる。そして、石野卓球の楽曲に合わせた超絶なドラムソロを繰り出すと、そこにTKのギターが加わり、そのまま“abnormalize”へ。いよいよライヴは終盤となだれ込んだ。

凛として時雨@パシフィコ横浜
強い閃光のなかでTKと345のサイケデリックなツインボーカルが駆け抜けた“Telecastic fake show”。続く“nakano kill you”では、ピエールはドラムプレイのみならず、スティックを回すパフォーマンスでも観客を魅了する。そして、会場が完全な暗闇に包まれると、ギターの音だけがゆっくりと響き渡り、壮大なラストナンバー“傍観”が始まった。《僕は汚い 僕は消えたい》と、ひたすらに繰り返すフレーズを、凄まじい剣幕で歌い上げるTK。ステージを照らす強い光のなかでシルエットだけが浮かび上がった3人が、怒濤のアンサンブルで絶望と虚無を描き切ると、まず345とピエールが静かにステージを去った。ひとりステージに残ったTKは全身を激しく震わせてギターをかき鳴らし、最後にステージを去る。そして、残響音が完全に消えた瞬間、会場からは無人のステージに向けて大きな拍手が送られた。まさに圧巻の一言。そこには言葉では語り尽せない、複雑で鮮烈な余韻が残されただけだった。

今年はベスト盤と『es or s』のリリース、それに伴う「Hyper Tornado Tour 2015」と「S.O.S. Tour 2015」という2本のツアーを駆け抜けた時雨。その最終地点で、この日3人が完遂した「Tour 2015 FINAL Hyper S.O.S.」は、凛として時雨が今、バンド史上最高にして最強のモードであることを見事に証明するものだった。(秦理絵)

・セットリスト
01. 鮮やかな殺人
02. SOSOS
03. Karma Siren
04. DISCO FLIGHT
05.Enigmatic Feeling
06.Dynamite Nonsense
07.Tornado Mystery
08.Mirror Frustration
09. Who What Who What
10. I was music
11.abnormalize
12. a 7days wonder
13. 夕景の記憶
14. abnormalize
15. Telecastic fake show
16. nakano kill you
17. 傍観
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