いよいよ本格的な快進撃の始まりだ。約1年前にPIZZA OF DEATHからデビューして以来、耳が早いキッズを中心に全国各地で熱い支持を拡大し続けている熊本出身の3ピース、WANIMA。待望の1stフルアルバム『Are You Coming?』を引っ提げた、全30公演の対バンツアーが遂に開幕した。この日のゲストは、同じ九州出身の3ピース、MINAMI NiNE。互いへの信愛の情に満ちながら、新たなる「事件」の幕開けを告げるような、凄まじい怪演とエモーションが爆発した一夜だった。
「渋谷、行くぞー!」というヒロキ(Vo・B)の合図から“雨”でライヴをスタートさせたMINAMI NiNE。ソリッドなバンドサウンドと情感たっぷりのメロディで、会場を優しく包み込んでいく。“Over and over”では、≪悲しい時も 寂しい時も/いつも隣に居てくれた WANIMAにこの唄を歌う≫と歌詞を変えてフロアを沸かせるシーンも。同郷の先輩として、観客が10人にも満たない頃からWANIMAと何度もライヴを共にしてきた彼らだからこそ届けられる熱いメッセージだった。
中盤では、11月3日にリリースした『向日葵 e.p.』の楽曲も披露して、重層的なハーモニーと三位一体のアンサンブルを届けていく3人。故郷・宮崎の原風景に思いを馳せた“南九節”、うだつの上がらない男の姿を愛情たっぷりに歌った“酔いどれの夜”など物語性に富んだ歌詞も素晴らしく、ヒロキの宮崎訛り全開のMCもあいまって、郷土愛と人間愛に溢れた陽性パンクで会場を温めてくれた。
そして、恒例のスキャットマン・ジョンのSEが鳴り響く中、ステージに勢いよく飛び出してきた松本健太(Vo・B)、西田光真(G・Cho)、藤原弘樹(Dr・Cho)の3人。お馴染みのカラフルな帽子とハーフパンツに身を包んだ健太は、「日本で一番シブヤが好き!」と笑顔で口上を繰り出して、いきなりオーディエンスの大歓声を導いていく。そのまま1曲目に突入すると、冒頭から壮烈なシンガロングが起きる。胸を鷲づかみにするメロディが、健太のハイトーンヴォイスによって超高速で届けられ、場内は目も眩むほどの黄金の光で包まれていくのであった。
ツアー初日のためセットリストの掲載は控えるが、最新アルバム『Are You Coming?』の曲を基調に既存の曲も挟み込んでいく流れ。“夏の面影”などの激走パンクチューンはもとより、卑猥なムード全開のレゲエナンバー“1CHANCE”、日本人としての誇りに満ち溢れたラップチューン“Japanese Pride”など、さまざまなジャンルを横断しながら快楽の只中へと突き進んでいく。そんな楽曲のエネルギーに負けず劣らず、スキあらばボケと下ネタをブッ込んでくる健太のMCも好調。途中では“雨あがり”のイントロを鳴らし始めた光真と藤くんに「アルバムツアーなのに、そんな古い曲やってどないすんの!?」と演奏を中断させて最新アルバムの曲をやり直したものの、その次に“雨あがり”をプレイし「結局やるんかーい!」とツッコむ小芝居も繰り広げられ、オーディエンスの心を釘づけにしていく。ちなみに藤くんによる恒例の物まねコーナーで披露されたのは、嵐の“A・RA・SHI”(しかも途中で長渕剛風にラップを行う)でした(笑)。
「次はゆっくりな曲やるから休んでください」と言ってファストチューンをブチかましたり、唐突に「錦織圭です」と言って五郎丸選手のルーティンポーズを披露したりと、後半になっても悪ノリが過ぎる健太。しかし、いざ曲が始まると、怒りも涙も希望も(たまにエロも)一緒くたにした爆走チューンで会場をひとつにする牽引力はどうだ。しかも、そこに湿っぽいムードや難解な表現は微塵もなく、聴き手を笑顔にすることただ一点に意識が注がれている潔さが本当に素晴らしい。“TRACE”や“THANX”などのキラーアンセムでは、果敢にダイブやモッシュをするオーディエンスがいる一方で、ステージを見つめながら涙を流すオーディエンスも。この泣き笑いの狂騒感こそが、さまざまな痛みや苦しみを伴いながらも希望を一心に見つめていこうとするWANIMAの闘争心の奥深さと気高さを、何よりも証明していた。そして全13曲を怒涛の勢いで駆け抜けたところで、あっという間に本編終了。
アンコールでは、これまた黄金のメロディを響かせ、ツアー初日を大盛況で締め括った彼ら。まるで破格のエンターテインメントを見せつけられたようであり、生々しいリアルを突き付けられたような不思議な感覚が、会場を出た後もずっと胸に残っていた。AIR JAM世代の系譜を継いだシンプルなメロコアを基調としつつ、「今」の時代と共鳴するエモーションを、愛すべきキャラとともに炸裂させるWANIMA。彼らが今のシーンに現れたことは本当に意義深いことだし、今後もっと多くのリスナーを希望の只中へと連れ去ってほしいと思う。来年2月27日にZepp DiverCityでツアーファイナルが行われる頃には、彼らを取り巻く環境は大きく変わっているはず。今後も弾ける笑顔でシーンを塗り替えていくだろうWANIMAの物語は、ここから加速度的に動き出していく。(齋藤美穂)