ACIDMAN@NHKホール

「『Second line & Acoustic collection II』、NHKホールへようこそ! 間違ってTシャツ1枚、首にタオルを巻いて来てしまった人がいたら……そっとタオルを外してください(笑)」と悪戯っぽく語りかけるのは大木伸夫(Vo・G)。普段であれば歓声と拳を突き上げているであろう観客は、静けさの中にも確かな熱気とテンションをたたえながら、3人の演奏を見つめている――。

ACIDMANの楽曲をACIDMAN自身が新解釈で再構成したリアレンジ盤第2弾『Second line & Acoustic collection II』のリリースツアーとして行われている、計8公演の全国ツアー「ACIDMAN LIVE TOUR "Second line & Acoustic collection II"」の東京:NHKホール公演。前作『Second line & Acoustic collection』時の東京会場:渋谷公会堂よりもひと回り規模を拡大した今回のNHKホール公演も即日ソールドアウト、4月には同会場での追加公演の開催まで決定していることからも、彼らがシングルのカップリングを中心に展開してきたアコースティック/リアレンジシリーズが紛れもないACIDMANの表現の一環として定着していることが窺える。何より、大木自身「心の奥の奥に響くような、そんなライヴをしたいと思いますので」と語っていた通り、その豊潤な音像とともにACIDMANの魂をより近くに感じる、珠玉のアクトだった。

3人の機材とともに、南青山のフラワーショップ「logi」がこの日のためにコーディネートしたという木々のアレンジが配置された舞台に、まずは大木がひとりで登場。アコギのループをサンプラーで重ねたところに、佐藤雅俊(B)&浦山一悟(Dr)が加わり、新たなアレンジをまとったACIDMANの楽曲を1曲また1曲と繰り広げていく。アコースティックなサウンドを基調としつつ、エレクトロ/アンビエント/ジャズなど多彩なテクスチャーをもって解体&再構築されたACIDMANの楽曲世界。大木が奏でるメランコリックなコード感をボサノヴァのリズムに重ねた“赤橙”。大木&佐藤のアコースティックサウンドと、人力ドラムンベース的な浦山のリズムが絡み合って、原曲のソリッドなロック感とはまるで異なる伸びやかな風景を描き出す“±0”。激しさを優しさに昇華した大木の歌が麗しのスロウバラードとして響いた“Under the rain”……ACIDMANの音楽のパラレルワールドを目の当たりにするようなスリルと高揚感が、刻一刻と湧き起こってくる。

MCでは会場のNHKホールにちなんで浦山が「NHKであいうえお作文しようと思ったけど思い浮かばなかった」と明かしつつ「ふと鳩を見て思いつきました。『なんだ・鳩・か』!」とネタを披露して満場の観客を脱力させたり、「白組のみんな!」と『紅白歌合戦』風に呼びかけたり……というマイペースぶりを発揮、大木&佐藤に「お前は自由すぎる!」と総ツッコミを入れられたり、といった微笑ましい場面も見られたこの日のアクト。そんなリラックス感とは一転、大木はライヴの随所で曲に込めた情熱を静かに、真摯に語っていた。

“ALMA”の直前、「小学校の低学年の頃、父ちゃんに『宇宙には果てがないんだ』って言われて。『宇宙に果てがないってどういうことだろう?』って想像できなくて。それなのに、この世界は『すべてが終わっていく世界』で。飼ってたペットは死んじゃうし、自分もいつか死ぬだろうし。どっちが世界なんだろうな?と思っていました」と自身の「原風景」を語っていた大木。「恵まれた国に生まれたから、戦争は知らないけど、今もどこかで誰かが殺されてる。人間は因果な生き物だなあと思いつつ、でも人間だから、人間が大好きだから。こうやって歌を歌うことによって、ひとりでも多くの人が、夜空の星を見上げて、『いろんなものが繋がってんだ』って想いを馳せられたらな、と思っています」……そんな想いとともに披露された“ALMA”が、NHKホールの空間を音の銀河へ塗り替えるように美しく、強く響いた。

加えてこの日、ACIDMANは「まだレコーディングもしてないし、アレンジも歌詞も変わるかもしれないけど……とにかくできたてほやほやの楽曲」(大木)という紹介とともに、アコースティックバラードの新曲を披露していた。「やっとこういうシンプルな歌詞を書くことができたなあと思ってます」と大木自身も語っていたように、愛と生命を真っ直ぐに歌い上げる大木の声がひときわ温かな包容力をもって広がっていった。

また、ライヴ中には大木が「ジーニアス」と呼ぶジャズピアニスト=板橋文夫がゲストとして登場、今回のアルバムにも収録されている板橋参加曲“スロウレイン”、さらに“シンプルストーリー”を開放感&躍動感に満ちたアンサンブルとして披露してみせた。そして……「今回のアルバムには、もうひとりピアノを弾いてくれた人がいて……」と語るのは、盟友:ストレイテナー・ホリエアツシのことだ。

「インディーズの頃からの友達でもあるし、ライバルでもあるし。本当にロックのシーンで一緒に闘い続けてこれた仲間だと思っているんですけど……今回のツアー、一度も来てくれてないんです(笑)。レコーディングらしいんで、これはしょうがないんですけどね。みんな期待してるかもしれませんが、歌入れの最中――」という言葉に、やや会場のテンションが下がりかけたところへ、「――だったんですが。急遽駆けつけてくれました!」という大木のコールとともにホリエ登場! 「お待たせしました!」(ホリエ) 「待ってたよ!」(大木)というやりとりに、熱い拍手が湧き起こる。

ホリエとともに4人で演奏した楽曲はもちろん、アルバムに新録されたコラボ曲“リピート”。「JAPAN JAM 2010」のステージで披露されたACIDMAN&ホリエの“リピート”共演が、昨年の音源化を経て再び実現! レコーディング明けのため、リハなしぶっつけ本番でこの日の舞台に臨んだというホリエだが、そのピアノの響きとコーラスで“リピート”により鮮やかな色彩感を与えていたのが印象的だった。ツアーはいよいよ後半戦に突入、そして4月24日にはここNHKホールの追加公演「ACIDMAN LIVE Extra Show "Second line & Acoustic & Rock"」開催!(高橋智樹)