カルチャー・クラブ @ Zepp Tokyo

All pics by Yoshika Horita
以降のレポートでは思いっきり公演のネタバレしているので、ご注意ください。


まさかこの2016年に、カルチャー・クラブの再結成ライブを観て、そこに新しい発見や興奮を見出して心の底から感動することになるとは思わなかった。いやもう、本当に素晴らしいライブだったのだ。彼らがこんなにも素晴らしいライブ・バンドであり、彼らの曲がこんなにも普遍的なポップ・ソング揃いだったということ、その本質的な意味を恐らく私は30年以上理解できてなかったんじゃないかという、懺悔にも似た感情すら沸き上がってくる2時間弱だった。

カルチャー・クラブの16年ぶりの来日公演は、凄まじく音楽的なライブだった。「そりゃライブなんだから音楽的なのは当たり前だろう」というのはひとまず横に置いておいて、音楽以外に彼らに付随していたいくつかの記号、たとえばヴィジュアルだったりメイクだったり映像だったりといったものを取り払ってみたら、予想を遥かに越えた音楽そのものの力が満ち満ちていた、という意味でそう感じたのだ。カルチャー・クラブの場合は時としてそれらの記号が音楽以上の意味を持っていたし、それが彼らがアイコンとなった80年代という時代でもあった。しかし2016年のカルチャー・クラブは、何よりも音楽ありきで輝いていた。

この日のセットリストは初期の2作品、『キッシング・トゥー・ビー・クレバー』(1982)と『カラー・バイ・ナンバーズ』(1983)からの楽曲を軸として、そこに後期のナンバーがちらほら、カヴァー曲が数曲、そしていずれリリースされると2年以上言われ続けているニュー・アルバム『Tribes(仮)』収録予定の新曲が少し、という構成だった。オープニングの“Church of the Poison Mind”から圧倒されたのは、すべての歯車がカチっと噛み合い、瞬時にスムーズに回り始めるようなアンサンブル、その凄まじいプレイヤビリティだ。80年代に子供だった筆者にとって、カルチャー・クラブとは基本的に「ビデオの中、TVの中のスター」であって、ライブ・バンドとしての評価軸でこれまで彼らを測ってみたことがなかったわけだが、間違いなく彼らは超一級のライブ・バンドだった。だからこそ、今回の再結成が成功した大きな要因のひとつはボーイ・ジョージ、ロイ・ヘイ(G)、ジョン・モス(Dr)、マイキー・クレイグ(B)と、オリジナル・メンバーの4人が全員揃ったことだと思う。

“It's a Miracle”のロイの弾むようなギター・リフ(横ではボーイ・ジョージが実際にぴょんぴょん弾んでステップ踏んでいる)、思いっきりアフロでカリビアンなアレンジが効いた“I'll Tumble 4 Ya”からもろモータウンな“Move Away”、そしてブレッドのカヴァーでレゲエの“Everything I Own”へと、冒頭数曲で早くも彼らのあまりにも豊かなバックグラウンドが露になる。この日はホーン隊、コーラス隊、パーカッションを含む総勢13人の大所帯バンドだったが、それもカルチャー・クラブの音楽の幅と深みを忠実に広げ、再現する上で大所帯である必然があったからだ。しかもカルチャー・クラブのパフォーマンスの凄さは、ロック・バンドがレゲエもソウルもファンクもワールド・ミュージックもやっている高度さをアピールするのではなく、それらをあくまでさもシンプルに、「当たり前」のようにやっているハイブリット性だ。“Do You Really Want to Hurt Me?(君は完璧さ)”がレゲエ・ソングである以前に何よりもポップ・ソングだったように、彼らの多様性は常に「ポップ」という「分かりやすさ」にスルスルと集約されていく。ちなみにこの日の“Do You Really Want to Hurt Me?(君は完璧さ)”は新たなアレンジもバンバン入れていくパフォーマンスだったのだが、その分かりやすさは微塵も揺るがなかった。MCでボーイ・ジョージも語っていたが、カルチャー・クラブの音楽の多様性とは、80年代初頭のパンク〜ニューウェイヴ期のロンドン、その特別な時代の特別な空気の中で彼らが当たり前に吸収していったマルチカルチャーの結果だ。この日の後半のファンク・セクション、“Time (Clock of the Heart)(タイム)”から新曲“Like I Used To”へと繋ぐ流れに全く時代のギャップを感じなかったのも、彼らの音楽とプレイヤヴィリティがデビュー当時から既に普遍性を持っていたことの証左だろう。

この日のステージは、カヴァー曲もいちいち最高だった。「ジョニー・キャッシュのこの曲、僕ら好きなんだよね」と軽く紹介して始めた“Runaway Train”が本格派カントリー・バンドか?!というレヴェルのクオリティだったり、映画『クライング・ゲーム』の主題歌として知られる“The Crying Game”ではボーイ・ジョージのヴォーカルが白眉で、サム・スミスの原点を見る思いだったり。それにしても、一時はジャンキー寸前まで堕ちた人だっていうのが信じられないくらい、現在のボーイ・ジョージはヴォーカリストとして超現役だ。あれだけゴシップにまみれつつも英国で彼が愛され続けているのは、この天賦の才能が広く認められているからなのだろう。そんな彼のヴォーカルはショウ中盤のバラッド・セクションでも存分に堪能できるし、ここでのヴォーカルを引き立てるバンドの緩急効いた演奏も素晴らしかった。

それにしてもボーイ・ジョージという人はよく喋るし、しかも話が面白い。この日とりわけご機嫌だったというのもあるだろうし、彼曰く「スピリチュアル・ホーム」である日本、日本のファンとの信頼関係もそこに作用していたと思う。「長い長い時を経て、こうやってまた日本に戻ってこれたのは奇跡みたいなもの(It’s a kind of miracle)だと思うんだよね」と言って“It's a Miracle”に雪崩れ込む粋な演出、かと思えば「君たちっていまだに英語をまともに喋れないんだねえ」と毒を吐き、インターバルでは「ちょっとH2O入れさせてね」と地味なギャグを飛ばしつつ水を飲む。そして「君たちは最高のオーディエンスだ。ほんとエモーショナルな気分にさせられるよ……ナキソウ(日本語)」と呟く彼は、ファンをキュンとさせるツボを心得ている! ちなみに、アンコールでピンクのハットに衣装替えしてきたボーイに向けて、会場中のファンがこぞって「カワイイ!」「カワイイ!」と連呼するシーンもあったが、たしかにボーイ・ジョージという人のあの魅力は、彼が55歳になった今なお日本語の「カワイイ」という形容詞こそが最も相応しいと思った。

そんなアンコールで、“Karma Chameleon(カーマは気まぐれ)”と“The War Song(戦争のうた)”と共にクライマックスを飾ったのはデヴィッド・ボウイの“Starman”、そしてT.レックスの“Get It On”のカヴァーだった。ボウイへの愛とリスペクトに満ちた“Starman”は本当に素晴らしいパフォーマンスだったのだが、ボーイの曲紹介も最高だった。「僕は70年代のボウイのライブを観て、その着物や歌舞伎からインスパイアされたコスチュームに夢中になったんだ。だから、日本を知ったきっかけはボウイだよね。僕はボウイを通して日本に興味を持ったし、君らへの愛も芽生えたんだよ」と、ボウイと日本への想いを楽しそうに語るボーイ・ジョージの姿には、色んな意味でホロっときてしまったのだ。

とにかく、あなたの予想を超える、しかも遥か斜め上超える興奮と感動があるのは間違いないライブだった。これから観に行くという方は、本当に楽しみにしていて欲しい。(粉川しの)

〈SETLIST〉
01. Church of the Poison Mind
02. It's a Miracle
03. I'll Tumble 4 Ya
04. Move Away
05. Everything I Own 
06. Black Money
07. Victims
08. Time (Clock of the Heart)
09. Like I Used To
10. Different Man
11. Miss Me Blind
12. The Crying Game
13. Do You Really Want to Hurt Me?
14. More Than Silence

En1. Runaway Train
En2. Karma Chameleon
En3. Starman
En4. The War Song
En5. Get It On