フロアは3人の登場を心待ちにするオーディエンスでざわめき立っており、場内暗転と同時に前方へ押し寄せる波が渦巻いた。メンバーがゆっくりステージに登場すると、ドラムの坂井が静まる場内にシンバル音を響かせ“コオロギ”でスタート。1曲目からオーディエンスの手拍子も揃い、徐々に熱気が立ち込めていった。その後すぐに不穏な空気を漂わせるようなギター・サウンドをかき鳴らして“クローバー”へと突入。観客を煽るような素振りは一切なく、ライブは非常に淡々としていてクール。MCも言葉少なに次々と曲が披露されていく様は、体感温度としては平熱状態が続いているような感じだ。しかし、そんなtacicaの奏でる音楽を欲するオーディエンスの熱量は平熱どころか明らかに沸点を超えてしまっている。熱を帯びたオーディエンスを目の前にしながらも、あくまでクールに向き合う姿はある意味勇ましい。
中盤で披露された“Silent Frog”“サカナヒコウ”のような雄大な大地を思わせるようなバラード・ナンバーでは、オーディエンスはじっと耳を傾け微動だにせず聴き入る。身も心も内側から静かにめらめらと燃えていくような感じで、決して冷めることのない包み込むような温かさがクアトロに充満していた。
「久しぶりのライブがワンマンで……緊張するかと思ったけど、そうでもなくて……すっごい楽しい。この汗の量を見れば分かるでしょ?分からない?……分からせます」と朴訥としながらも、強気な宣言。そして、1月14日に発売されるニュー・シングルに収録される新曲3曲を惜しげもなく立て続けに披露した。特にカップリングとして収録される“蜜蜂の毛布”“オニヤンマ”の2曲はtacicaが新しいサウンドを切り開いたことを告げる意欲作だ。今日のセットリストの中でも一段と光っていたように思う。この3曲を終える頃には、MCどおりそのクールさとは裏腹に遠くから見ても分かるほどに猪狩の頬から半端ない量の汗が滴っていた。
ドラム坂井による、売り切れてしまった物もあえて勧めるというゆるゆるのグッズ紹介を挟んでいよいよ後半戦へ突入。“オオカミと月と深い霧”“ウソツキズナミダ”とファンの間でも人気の高い楽曲を畳み掛け、ラストは“HERO”! オーディエンスの「待ってました!」と言わんばかりの歓喜の声が沸き起こり、あっという間に約1時間半のアクトが幕を閉じた。
アンコールでは「新曲をもう1曲」と言って“タイル”を演奏するなど、来年のさらなる飛躍が期待できる手応えを感じさせるステージになった。ちなみに、このツアーのタイトル『三大博物館』は、07年に初の東名阪ワンマンライブを行った時から続くもの。最後に猪狩(Vo/G)が「本当に博物館で(ライブが)できたらいいなと思ってます」と漏らしていたが、国立科学博物館とかで恐竜の骨格標本をバックに“アースコード”とか聴いたら鳥肌もんだろうなと勝手な妄想をしてしまいました。(阿部英理子)
SET LIST
1.コオロギ
2.クローバー
3.人間1/2
4.黄色いカラス
5.ゼンマイ
6.バク
7.Silent Frog
8.サカナヒコウ
9.人鳥哀歌
10.蜜蜂の毛布
11.オニヤンマ
12.オオカミと月と深い霧
13.ウソツキズナミダ
14.HERO
En.1 タイル
En.2 アースコード