デュラン・デュラン @ 日本武道館

Photo by Kazumichi Kokei

デュラン・デュランの9年ぶりの来日、そして14年ぶりの武道館公演となったこの日のライブは、いくつかメモリアル記念的な仕掛けが用意されていたのだが、中でも極めつけだったのが、ナイル・ロジャースがオープニング・アクト(!)として登場するという、畏れ多いイベントが待ち構えていたことだ。

なにしろ、デュラン・デュランにとっては30年来の師匠と呼ぶべきロジャースが、今回の彼らの武道館のためだけにフル・バンドを従え降臨し、「シック・フィーチャリング・ナイル・ロジャース」名義のステージでありながら、マドンナの“Like A Virgin”やデヴィッド・ボウイの“Let’s Dance”、ダフト・パンクの“Get Lucky”といった彼プロデュースの新旧名曲を惜しみなくばんばん披露していくというとんでもない展開だったのだ。

デュラン・デュランに向けてこのステージに勝る餞はなかったと思うし、そんな懐が深すぎるロジャースの豪華パフォーマンスに満員の場内は酔いしれ、最高に仕上がったコンディションの中でデュラン・デュランの登場を待つこととなった。


今回のデュラン・デュランの来日は、新作曲“Paper Gods”で幕開ける構成にも象徴されるように、2015年リリースの最新アルバム『ペイパー・ゴッズ』を引っさげての新作ツアーだ。ただしもちろん新旧のナンバーが入り乱れたファン歓喜のオールタイム・ベストなセットになっており、懐かしい曲をストレートに懐かしむ瞬間と、懐かしい曲が新曲に引っ張られるように新鮮に聞こえて驚く瞬間が交錯する、彼らのサウンドの層の厚さを感じることができた2時間弱のステージだった。

思いっきりインダストリアルなアレンジを際立たせてきた“The Wild Boys”、サックスと女性コーラスが効いたセクシュアルなソウル・チューンに仕上げられた“I Don't Want Your Love”、そしてロジャー・ムーア時代の『007』のガンバレル映像から繋がれた“A View to a Kill”と、前半は80年代の旧曲の中でもシリアス&ハードな曲調のもので統一してきた印象。合唱につぐ合唱の懐メロ・ショーで完走できるくらい彼らはヒット曲を量産してきたバンドだが、それは彼らの現役感覚、現役のプライドが許さないということなのだと思う。

最初のモード・チェンジは新作からのディスコ・チューン“Last Night in the City”で、途中機材トラブルでの中断を挟みつつも、すぐさまフォーメーションを立て直し、女性コーラスと共に満員のオーディエンスを煽りまくってダンス・パーティーの狂騒のるつぼを生み出していく、サイモン・ル・ボンのフロントマンとしての力技が凄い。

スキニーなホワイトデニムを履き、腰をくねらせ、ポーズを決めまくるサイモンといい、相変わらず細長い足で華麗にリズムを取りながら王子スマイルを振り撒くジョン・テイラーといい、このバンドはつくづく若々しいし、今なおちゃんと「ポップの軽薄」を引き受けている。これは昨年のカルチャー・クラブボーイ・ジョージや、今年のサマソニでのリック・アストリーにも感じたことだが、MTV時代の究極の表層を生き抜いてきた80年代のポップ・シンガーには、独特の普遍(不変)性があると思う。

80年代、アイドル人気のピークにあったデュラン・デュランにとって、イメージ転換の一作となったのが『ノトーリアス』であり、デヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』に憧れ、ファンクとディスコとジャズの渾然一体となったリズム感覚を求めた彼らを導いたのがナイル・ロジャースだった。サイモンは「僕らは特別な関係なんだ」と言っていたが、あの時のロジャースとの出会いがなければ、デュラン・デュランは80年代をサバイブできなかっただろうし、今こうして現役で活動し続けることもなかったかもしれない。そんなロジャースをステージに迎え、彼らの関係性の原点である“Notorious”と、最新作『ペイパー・ゴッズ』で再びコラボした“Pressure Off”での共演は、彼らの特別な関係を象徴するこの日のハイライトだった。

Photo by Kazumichi Kokei

ちなみに『ペイパー・ゴッズ』は、ロジャースと共にマーク・ロンソンもプロデュース参加したアルバムでもあった。『ペイパー・ゴッズ』でのデュラン・デュランとナイル・ロジャースとマーク・ロンソンの3者融合が画期的だったのは、“Let’s Dance”から“Get Lucky”、“Uptown Funk”へと受け継がれたファンク・ポップの系譜上にデュラン・デュランを再定義したこと、80年代時点での彼らの先見性の再評価が、オリジネイター(ロジャース)とフォロワー(ロンソン)と共に行われたことだったとも言える。

ちなみにナイル・ロジャースが不在の大阪ではこの中盤の流れは少し変えてくるかもしれない。武道館では逆に"The Reflex"や“Please Please Tell Me Now”のような大定番曲(“Planet Earth”も!)をやっていないなので、大阪はこのあたりが期待大なのではないか。

「核兵器の戦争は止めよう。平和で安全な、普通の世界(ordinary world)が訪れますように」とサイモンが言って始まった“Ordinary World”は、今このタイミングの日本でこそプレイされることに、大きな意味があったナンバーだ。また、2000年代のナンバーである“(Reach Up for the) Sunrise”のインタールードで懐かしの80年代曲“New Moon On Monday”を混ぜ込んできた演出はファン的にもたまらないものがあったが、“Notorious”と“Pressure Off”がナイル・ロジャースを介して一本のラインで繋がれたことも含めて、今回の『ペイパー・ゴッズ』ツアーはデュラン・デュランの歴史を総括し、新作の力によって旧作の埃をはらい、等しくモダン・ポップへと昇華していく力が働いていたのが感動的だった。

そして後半、“Hungry Like the Wolf”以降はリミッター・オフのアンセム連打のパーティー展開!場内はもちろん大合唱、続くグランドマスター・メリー・メルのカバーである“White Lines”は既にデュラン・デュランのライブの定番になっているゴージャスなファンク・チューンで、アリーナで数千の手が高く突き上げられる様は壮観だ。フラッシュ・ライトの演出も含めてザッツ・80Sディスコ!な盛り上がりになった“Girls On Film”、無数のスマホのライトが揺れたアンコールの“Save a Prayer”、そして“Rio”と、思いっきりレトロスペクティブで同窓会的なフィナーレだ。新作ライブの新鮮な興奮と、懐古ライブの阿吽の呼吸の盛り上がり、そのふたつが見事に両立した、デュラン・デュランらしい一夜だった。(粉川しの)

Photo by Kazumichi Kokei

〈SET LIST〉
1. Paper Gods
2. The Wild Boys
3. I Don't Want Your Love
4. A View to a Kill
5. Come Undone
6. Last Night in the City
7. Only in Dreams
8. Love Voodoo
9. Notorious
10. Pressure Off
11. Hold Back the Rain
12. Face for Today
13. Ordinary World
14. (Reach Up for the) Sunrise
15. Hungry Like the Wolf
16. White Lines (Don't Don't Do It)
17. Girls on Film
(encore)
18. The Universe Alone
19. Save a Prayer
20. Rio