7年前のフジロックでのヘッドライナー・ライブも素晴らしかったが、やっぱりマッシヴ・アタックの場合は単独公演が格別だ。マッシヴ・アタックのディープでドープなサウンドに爪先から頭のてっぺんまで浸るあの没入感は、密室での共謀のようなシチュエーションこそ相応しいからだ。
そんなマッシヴ・アタックの待望の単独公演、オープニング・アクトとして登場したのがヤング・ファーザーズだ。マッシヴ・アタックの最新EP『Ritual Spirit』にも参加しているファーザーズは、サウンド面でのリンクはもちろんのこと、ポリティカルなスタンスとパンク・スピリットも共有した文字通りマッシヴの共謀者であり、それはこの日のステージでも明らかだった。
『T2 トレインスポッティング』の劇中でもフィーチャーされた“Get Up”、“Rain or Shine”に加え、必殺のアンセム“Shame”まで、現時点での彼らのエッセンシャルなナンバーを披露するコンパクトなセットだったが、そのパフォーマンスは約30分の持ち時間の枠をぶち破るようなフリーキーなインプロ感が満載で圧巻だ。
ヒップホップにポストパンク、アフロビートを合体させたドラムスとサンプリングをベースに、ファルセットを効かせたソウル・ボーカルにがなり口調のラップ、ボイス・パーカッション、さらにはもっと抽象的なオノマトペや、原初的な雄叫びや唸り声まで、3人のボーカルが一斉にシャウトするさまは、純化された衝動と怒りの迸りのようでもあり、まさにパンクなのだ。舞台袖で激しく点滅するフラッシュライトで暗闇の中に4人が浮かび上がる、シネマティックなライティングも最高だった。
そして20時ジャスト、ついにマッシヴ・アタックが登場!「生きる目的とは?」等、様々な問いかけが日本語のテロップとなってバックスクリーンに映し出される中、“Hymn of the Big Wheel”でスロー&ダビーにショウは幕を開ける。
今回の彼らのライブは『ブルー・ラインズ』(1991)、『メザニーン』(1998)のナンバーを中心とした名曲&定番曲と、現時点での最新アルバムである『ヘリゴランド』(2010)、そして『Ritual Spirit』(2016)の比較的最近のナンバーがほぼ半々の割合で組まれたセットだった。ゲスト・ボーカルは『ブルー・ラインズ』以来の盟友であるレゲエのレジェンド、ホレス・アンディと、『Ritual Spirit』でコラボを果たしたAzekelに加え、後半の“Safe From Harm”と“Unfinished Sympathy”で女性ボーカリストのデボラ・ミラーが登場するという布陣だ。
“Man Next Door”を筆頭とする、酩酊と没入を誘うリバーブの効いたダブ、レゲエ・チューンは主にホレスが歌い、“Ritual Spirit”を筆頭とするシンフォニックなエレクトロ・ソウル・チューンではAzekelのファルセットが存分に生かされる。そして3Dのエフェクトをかけたボーカル、スポークンワーズ的なラップとドラムンベース、アブストラクトに切り刻まれたヒップホップがダークで不穏な音像を立ち上らせていく。
彼らやポーティスヘッドを元祖とするいわゆるトリップホップは、2010年代後半の今、あらゆるベース・ミュージック、エレクトロ・サウンドに広義の概念として取り入れられて普遍化したため、マッシヴの今回のパフォーマンスも「トリップホップのレジェンド」としてのそれではなく、2010年代のモダンなエレクトロ・アクトとして並列に立ち、鳴らされているのが最高だ。そんな中で唯一、「そうそう、トリップホップってこういう感じだった!」と懐かしくなったのが“Safe From Harm”だった。
そしてトリッピーなダブ、メランコリックなソウル、ダークなヒップホップが渾然となったところでノイズ・ギターと地鳴りのごときドラムスが雪崩れ込み、爆発した“Future Proof”は圧巻!豊洲PITの音響の良さとの相乗効果もあってか、足下から頭上に突き抜けるような爆音のディテールが細部まで感じられ、パンクでとことんカオティックなのに、同時にどこか透徹した陶酔に襲われる。
「ドウモアリガトウゴザイマス」、「ハイ、スミマセン」と、曲間の3Dの日本語MCが非常にポライトなのも彼ららしい。ヤング・ファーザーズをステージに迎えての彼らとのコラボ曲“Voodoo in My Blood”のトライバルな呪術的ビートと、ファーザーズの野生のシャウトのコンビネーションにもぶっ飛ばされた。
この日のショウにおいて特筆すべきは、映像がサウンドとほぼ同格のアートとして展開されていたことだ。 “Future Proof”での映画『マトリックス』を彷彿させるデジタル・ウォールのように、グラフィック・デザイン的な映像もあったが、その他の大半を占めていたのがマッシヴ・アタックの明確なメッセージを孕んだ言葉と数字、そして写真のコラージュだった。
世界中の政党の名前(中には「自民党」も)が切り刻まれて浮かび上がり、各国の著名政治家の目元が次々とモンタージュされていく(中には安倍首相や小泉元首相も)。世界情勢から国内の時事ネタ、芸能報道まで、様々なニュースのヘッドラインが流れ、空港の離発着ボードを模した文字と数字の羅列や移民統計、パスポートの信頼度ランキング、国旗のモンタージュ……といった無数のトピック、そして「国境封鎖(日本語)」の文字と共にスライドされる写真の難民、移民の人々が、フロアの我々に何かを訴えるように見つめてくる。
クライマックスの“Unfinished Sympathy”が「僕らは一緒にこの中にいる(日本語)」というメッセージと共に幕を下ろしたように、今回のステージのテーマは紛れもなく難民問題であり、不寛容の時代への糾弾であり、団結の呼びかけだった。「バンクシーの中の人」とも囁かれている3Dだけに、納得のテーマだったと言える。
そして、それらのテーマが直接的かつ具体的な言葉と映像となって押し寄せてくるため、情報処理仕切れない局面もあり、無地のスクリーンに光だけが満ちていた“Angel”のように、音だけに集中してその圧を無心で感じたいと思った瞬間も正直に言えばあった。でも、「キテクレテ、“ミテクレテ”アリガトウゴザイマス」と最後に3Dが言っていたように、サウンドと映像と言葉、そのどれかひとつが欠けてもマッシヴ・アタックの表現は成立しないということなのだ。
深い余韻と共に、これからの私たちが共有していくべき新たな問題が提議されたライブだったと思う。(粉川しの)
〈SETLIST〉
Young Fathers
Drum Intro
Queen Is Dead
Feasting
War
GET UP
Rain or Shine
Old Rock N Roll
I Heard
Shame / Noisey Bit
Massive Attack
Hymn of the Big Wheel
United Snakes
Risingson
Man Next Door
Ritual Spirit
Future Proof
Girl I Love You
Voodoo in My Blood
He Needs Me ft. Young Fathers
Inertia Creeps
Angel
Safe From Harm
-encore
Take It There ft. Tricky & 3D
Unfinished Sympathy
Splitting The Atom