ミセス・フリントであるGEDO SUPER MEGA BITCHのDJプレイの後、いよいよ大歓声の中プロディジーが登場する。マキシムのアジテーションと共に繰り出されたオープニング・ナンバーは、いきなりの新作収録曲、既にライブではお馴染みとなっている“ワールズ・オン・ファイア”だ。高速の人力ビートにけたたましいシンセ・メロディが乗り、キースが吼える。フロアにはレーザーが走り、ステージ上方に4体が設置された巨大なインヴェーダー(?)の目が不気味に点滅していた。“ゼアー・ロウ”のバウンシーだが硬質なファンク・ビートでは、オーディエンス達のうねりが更に高く、大きくなってゆく。そして「Who wants to breathe !?」というマキシムの問いかけとともに“ブリーズ”へ。「Co〜me pla〜y m〜yga〜me.」のコーラスがフロアでも見事に決まっていて最高だ。エレクトロニック主体の音楽性の割に、こういうアンセムが作れてしまうところも彼らの強みだろう。
それにしても新曲群の絶大な威力といったらない。逆に前作『オールウェイズ・アウトナンバード、ネヴァー・アウトガンド』からのプレイは今回まったくなかった。それはやはり、メンバー全員が集結・参加して作り上げた新作のためでもあるだろう。しかし、『オールウェイズ〜』を制作したことから得られた収穫は、ことのほか大きかった。それは新曲群に如実に反映していて、つまりリアムのトラックが見事に鍛え上げられているからだ。今回のライブで大勢のオーディエンスの大きなうねりを見て気付いたのは、リアムが「タテノリの」ファンク・グルーヴを完璧に発見/発明してしまっているということだった。普通、16ビートのファンクのノリというのはある程度、オーディエンスの主体性というか自由裁量に任されるもので、ばんばん踊る人もいればゆらゆら揺れている人もいる、という感じなのだが、プロディジーのグルーヴにはそういうゆとりがない。髪の毛を引っぱり上げては宙に放り出し、次の瞬間には床に押し付けるというような、強烈なタテノリをもたらすものだ。100パーセント純粋な音楽、という名目で許された暴力。100パーセント純粋なエンターテインメント、という名目で許された不法集会。だからそれは会場全体に異常な熱量の興奮を生み出す。“ファイアスターター”や“ディーゼル・パワー”の熱狂に向き合ってみれば、やはりヴォーカル二人の存在は絶対なのだと思う。しかし、バンドの存続さえ危ぶまれていたというあの時期にリアムが『オールウェイズ〜』を作っていなければ、今へと連なるプロディジーは、音楽面においても無かったのではないだろうか。
オープニングの“ワールズ・オン・ファイア”もアンコール一曲目の“インヴェイダーズ・マスト・ダイ”も、90年代前半のレイヴ・サウンド回帰を思わせるフレイヴァーが確かにあった。でも、自らの世代のサウンドに責任を持ち続けることと、過去の焼き直しで居直ることとは、全然違うことだ。むしろ、焼き直しには終わらせない自信があるからそれをやった、というリアムの意図すら感じられる。オーディエンスも、そこで騙されるような馬鹿じゃない。プロディジーのビートは、過去のものから遥かに前進している。今日のライブの異常な熱狂が、流した汗の量が証拠だ。あれだけずっと歓声が響き続けるライブも、そうはないと思う。マキシムも終盤、言っていただろう。「俺達も君らをリスペクトしているよ」と。さて、新作が楽しみだ。(小池宏和)
1.World’s On Fire
2.Their Law
3.Breathe
(breathe dbstp)
4.Omen
5.Poison
6.Warrior’s Dance
7.Firestarter
(action riff)
8.Run With The Wolves
9.Voodoo People
アンコール
10.Invaders Must Die
11.Diesel Power
12.Smack My Bitch Up
13.Take Me To The Hospital
14.Out Of Space
15.Comanche