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●セットリスト
1.What you want
2.もういいかい？
3.容姿端麗な嘘
4.LOVE
5.A-E-U-I
6.不透明な雪化粧
7.起死回生STORY
8.リブロックアート
9.トナリアウ
10.ReI
11.Ladies and Gentlemen
12.PSYCHOPATH
13.DIP-BAP
14.ワガママで誤魔化さないで
15.LIPS
16.CATCH ME
17.カンタンナコト
18.狂乱 Hey Kids!!
19.BLACK MEMORY
EN1.ONE'S AGAIN
EN2.嫌い

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「技術の発展が本当に経済の発展に繋がるのか。いや、衰退に繋がるのか」
「便利だ便利だと、何も考えずに手を出していないか。自分の考えを蔑ろにしてはいないか。そんなことを今日は問いたい」
「感情は、自分に向けるものじゃなくて、人とぶつけるもの。それが、あなたはできていますか？」

アルバム『Kisses and Kills』のリリースに伴い、約半年にわたって開催されたTHE ORAL CIGARETTESの全国ツアー「Kisses and Kills Tour 2018-2019」。ライブハウスシリーズとアリーナシリーズから成るこのツアーは、セットリスト前半は「Kisses」（＝愛情）編、後半は「Kills」（＝憎悪）編という二部構成的な内容。匿名の影に隠れて石を投げることによって、いつの間にか自分の人生を生きられなくなってしまった人がたくさんいる、このご時世。人工知能が生まれ、今人間がやっている仕事はいずれ機械に奪われていくだろうと言われている、このご時世。そんななか、私たちはどう在るべきなのだろうか。どうすれば生きることができるのだろうか。彼らはそういうことを私たちに問いかけ続けてきたのだ。

「ただいまより！『Kisses and Kills』アリーナツアーファイナル、in横浜アリーナ公演を始めたいと思います！」と恒例の4本打ちが広い場内に鳴りわたると、オープニングムービーがスタート。すると、まず中西雅哉（Dr）がドラムセットごとせり上がってきた。中西が一発叩いて空気を引き締めたところで、“What you want”のイントロが始まり、爆発音とともに山中拓也（Vo・G）、鈴木重伸（G）、あきらかにあきら（B・Cho）がポップアップでステージに飛び出す。“もういいかい？”では中西渾身の連打をきっかけにバンドサウンドがブーストし、“容姿端麗な嘘”ではあきらのスラップが炸裂。4分割スクリーンが捉えるメンバーの表情はいずれも晴れやかで、客席の上階の方にまで視線をやりながら頬を緩めている。

ここで山中が、アリーナへ伸びる花道の頭上にある全面LEDの立方体を指しながら、人工知能の通称・KKくんを紹介。KKくんはいわゆるAIスピーカーのようなもの。ということでいくつかの実演を終えると、山中が「KK、愛を歌う曲ちょうだい」と投げかけ、 “LOVE”をスタートさせた。無数のシャボン玉が舞う光景が幻想的だった“不透明な雪化粧”では、鈴木が上体を反らしながら、長尺のギターソロを歌心たっぷりに奏でてみせる。

山中の弾き語りで届けられた“ReI”までが「Kisses」編であり、比較的明るい響きをした曲が主。しかし“ReI”の最中、満面の笑顔から今にも泣き出しそうな表情へ変遷していった山中の表情が物語っていたように、また、音源よりも温かみのあるアレンジで演奏された“LIPS”が後半戦に配置されていたように、「Kisses」的な感情と「Kills」的な感情は完全に分断できるようなものではない。白黒つけられないほど人間の感情は複雑で、だからこそ愛おしいのだ――ということも、彼らが伝えたかったメッセージに含まれているのかもしれない。

“ReI”終了後に暗転し、ムービーがスタート。「幸福」、「仲間」、「希望」などのポジティブな単語群が「憎悪」、「孤独」、「不安」などのネガティブな単語群へと反転していくなか、「人は時に希望を持ち負の感情を原動力とする」、「愛が歪んだ先の憎しみをここから与えよう」と表示される。ここで一旦捌けていた4人が再登場すると、“Ladies and Gentlemen”から「Kills」編がスタート。集まってきた光を山中がビートに合わせ押し上げるような演出を経て、“PSYCHOPATH”へ繋げた。さらに4日前にリリースされたばかりの新曲“ワガママで誤魔化さないで”も披露。前半戦とは一転、4人それぞれの音色は刃先が鋭くなり、それらが合わさることによって発生する禍々しさも増している。花道に出て行った山中が、身悶えるようにして身体を動かしていたのも印象的だった。

MCタイムに入るや否や、「6ヶ月ツアーやってきて今日が一番楽しいです！」と充実感を露わにした山中。彼曰く、以前この会場で先輩のライブを観た時、彼らがそのバンドにしかできないライブをしていたことに嫉妬し羨ましくも思ったが、それを機に「じゃあ俺には何ができんねんやろ？」と考えるようになった、そういう負のパワーが今回のライブの原動力だった、とのこと。「オーラルにできること、日本人のバンドにできること、最近よく考えてます。THE ORAL CIGARETTESというバンドは不器用ですけど、これからも応援のほどよろしくお願いします」とバンドの意志を言葉に変え、4人揃って深くお辞儀をした。

恒例のキラーチューン祭りでラストスパートへ。アンコールで最初に登場した中西が、「“BLACK MEMORY”の合唱、何なん？ 聞いたことないほどだったけど！」と興奮気味に語るほどの熱狂で以って本編は幕を閉じた。アンコールでは「弱くてもしっかり強くなれる！」、「俺がステージで証明するから！」と、“ONE'S AGAIN”を演奏。そのまま終わっても十分綺麗だったと思うが、ここで山中が唐突にギターを鳴らし、冒頭に引用したように語り始めたのだ。

「俺らは感情にこだわり続けます。この世から人間の感情が無くなりませんように」

そうしてこの日ラストに鳴らされたのは“嫌い”だった。真っ白なスクリーンを背に、客席からはシルエットのみが確認できる状態で楽器を掻き鳴らした4人は、残響音のなか、何も言わずにステージを去った。言葉尻を捕らえるような行為をしていては決して触れることのできない感情について歌ったこの曲を、白日に晒されながら演奏するラストシーンは、彼らが何と対峙し、何と闘ってきたバンドなのかということを物語っていたように思う。

5月には初のアジアツアーを開催、9月には大阪にて初の野外イベントを開催――と、2019年も相変わらず攻めの姿勢を見せるTHE ORAL CIGARETTES。そんな彼らはいったいどこからやってきたバンドであり、これから先、どこへと向かっていくのだろうか。その両方を見事に体現した、非常に本質的なライブだった。（蜂須賀ちなみ）


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