というわけでロッド・スチュワート御歳64(ウチの母親と同い年)、13年ぶりの来日公演である。ステージも背後の幕もドラムもキーボードも、すべてが純白に包まれたセット。スクリーンにはオープニング映像が流される。映画の予告編を模したユニークな映像で、タイトルは『The Rodfather』だ。場内に笑いと囃し声が広がる。ギタリスト2人、ベーシスト、ドラマー、パーカッショニスト、サックス奏者が控えるステージに、女性コーラス隊3人を連れ添っていよいよロッドが登場、エイト・ビートのポップな“サム・ガイズ”をスタートさせる。嗄れているようでどこか永遠の少年性を宿した、ロッド独特のハスキー・ボイスは健在だ。「ロッド・スチュワートが真っ赤なジャケットを纏って登場です!楽しんで!」と自ら紹介しつつ、豪華な名曲カバーも早々に連発。ボニー・タイラー、アイズレー・ブラザーズ、サム・クックとノリノリで歌いまくっている。バックの白い幕にカラフルな照明が当てられ、まるで昔のTVショーを観ているようだ。アイズレーズの“ジス・オールド・ハート・オブ・マイン”を歌っているとき、スクリーンにシュプリームスやジャクソン5のVTRが流されるので、余計にそんな感覚は強められてしまった。ステップを踏みながら熱唱するロッドは、ポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭う。超元気な64歳である。
今度はR&Bにアイリッシュなフレイバーがミックスされる“リズム・オブ・マイ・ハート”へ。ビートの高揚感と伸びやかなメロディで求心力を増幅させるこうしたミクスチャーは、彼のブリティッシュ・シンガーたる最大の持ち味と言える。更にはダイナミックなディスコ調ファンク・ロック“おまえにヒート・アップ(インファチュエーション)”。ロック・サウンドの時代性とか、イノヴェーションとか言い出したら完全にアウトな音作りではある。でも、手練のミュージシャン揃いであるバック・バンドはキレまくるギター・カッティングやバッキバキのスラップ・ショットの力押しでそれをアリなものにしてしまう。なんという強引な説得力でしょう。タフに生き延びるミュージシャンの真髄を観た気がする。“さびしき丘”“今夜決めよう”“ピープル・ゲット・レディ”とメロウ&スウィートな歌唱を聴かせたロッド(客席に向かって片膝付いて歌う姿がイカス)は、ここで21歳の愛娘ルビー・スチュワートをステージ上に招き入れてリード・ボーカルを委ねた。正直、1曲目は彼女の声が出ていなくてちょっと熱が引いてしまったけれど、調子が上がってきたのか2曲目の“レスキュー・ミー”は声に張りが出ていてなかなか良かった。そしてロッドが再登場し、CCRの名曲カバー“雨を見たかい”を投下する。大きなステップを踏みながら歌うロッドと、大きなシンガロングで寄り添うオーディエンス。まさにハイライトと言える瞬間だったろう。
ここで10分間の休憩が挟まれたのだが、その間、ステージ上のスクリーンにはサッカーの試合速報が映し出されていて、それが何ともロッドらしくて可笑しかった。やはりと言うか、ここからの後半戦は彼のロックン・フットボール馬鹿っぷりが全開になってゆく。チャック・ベリーやサム・クックのカバーを力強く聴かせると、フレッシュ&ポップなオリジナル・ロックンロール“燃えろ青春”へ。そしてスクリーンには緑と白の目映いストライプ。彼が熱狂的に支持するセルティックFCのゴール・シーンやサポーターの映像を背に、“胸につのる想い”を熱唱だ。カメラのおかげで気付いたけど、バスドラはおろか良く見たらステージの床の、ロッドが立つ中央のポジションにも大きなセルティックのマークが描いてある。でも客席から見ると逆向きになっているのであって、つまりこのマークは100%ロッド自身のために描いてあるのだ。そして、いよいよ佳境というときのパワフルなR&B“ホット・レッグス”だ。歌いながらもロッド、スタッフからサイン入りサッカーボールを受け取っては客席に蹴り込むのだが、これが何発も3階スタンドに飛んでいったり、あわやステージからアリーナを挟んで向かいの南側スタンドにまで届いてしまいそうだったりという、特大パントが連発。マジでびっくり&カッコいいロッド・スチュワート御歳64(ウチの母親と同い年)なのであった。ラストは“マギー・メイ”、“アイム・セクシー”、間を置かずアンコールの“セイリング”と、大合唱必至のヒット曲3連打。堂々の2時間。いわゆる懐メロ大会だったかも知れない。でも終始一貫して楽しい、見事なロック・ショウであった。
ロッド・スチュワートは、ロックの秀才ではない。革命的なアイデアで一時代を作ったというよりも、やはり時代と寝ることで栄光を手にし続けてきた天然のスター、天然のエンターテイナーである。今日我々の眼前にいたのは、音楽とサッカーが好きで、それを楽しむ彼自身をエンターテインメントとして見せつけるという、一人の男の姿であった。その姿はやはりチャーミングで、無節操だけど憎めなくて、そして超人的な力を感じさせるものだった。知識と思考から弾き出される新しい可能性の在り方を否定するつもりはない。ただ、その中でときに見落とされがちなエネルギーを、この人はその長いキャリアの中でずっと、保ち続けているのではないだろうか。(小池宏和)
1.Some guys
2.It’s a heartache
3.This old heart
4.Having a party
5.Rhythem of my heart
6.Infatuation
7.Downtown train
8.First cut
9.Tonight’s the night
10.People get ready
11.Preacher man(Ruby Stewart)
12.Rescue me(Ruby Stewart)
13.Ever seen the rain
14.Sweet R&R
15.Twisting
16.Young turks
17.You’re in my heart
18.Have I told you
(Sleeping dog)
18.Talk about it
19.Proud mary
20.Hot legs
21.Maggie
22.Sexy
アンコール
23.Sailing