「今回のツアー・タイトルは“フジファブリック×FUJIFABRIC”ということで。前半が『the dark side of FUJIFABRIC』で、後半は『the sunny side of フジファブリック』」……とライブの序盤で志村正彦が解説した通り、ニュー・アルバム『CHRONICLE』リリースまであと約2ヶ月!というタイミングで行われる今回の東名阪ツアーは2部構成。しかも、幻妖なサイケデリック感と奇天烈ポップ感が織り成す絶妙のモワレ模様としてのフジファブリックの音楽を、「『フジファブリック』と『FUJIFABRIC』の対バン形式」という形を借りて、バンド自身が解剖し遠心分離し因数分解するという、実にコンセプチュアルなものだ。
ということで、結果的に「赤坂BLITZ・2Daysの2日目」となったこの日の追加公演、前半はフジファブのダーク・サイドというかプログレ/サイケ・サイド全開。特に前半で最も衝撃的だったのは、すでにライブの定番曲と化している新曲“Merry-Go-Round”……ではなく、「さあ、ここからがダーク・サイドの真骨頂ですよ」という志村のMCに導かれて鳴らした“打上げ花火”。もともと70年代UKプログレがクラシックから引用した「主題反復型」(同じフレーズが違う場面で繰り返し登場するアレンジの手法)とでも言うべき形を持つこの曲だが、この日の演奏はそれこそ、以前彼らが対バンした日本のプログレ・レジェンド=四人囃子が憑依したかと思うような鬼気迫るものだった。
10分間の休憩を終えて、サニー・サイドというかアッパー・サイドへ突入。ご丁寧にメンバー4人とサポート・ドラマー刄田綴色まで含めて全員コスチュームを替えてくるという念の入れよう。さっきまで深い森の奥をローギアで走ってた車が、いきなりトップギアで走り出したような感覚に、フロアもステージもこれでもかってくらいに盛り上がる。金澤が「トイス! フジファブリックです!」とPOLYSICS・ハヤシの名物MCまで持ち出して煽っていたのなどは、まさにその開放感の象徴と言える。
当然、4月8日リリースの新曲“Sugar!!”も炸裂! ≪全力で走れ 全力で走れ 36度5分の体温≫という言葉が、アッパーな4つ打ちアンサンブルとともに見る見る加速していく、フジファブならではのポップ・チューンが、その開放感と熱気をさらに高めるのに一役も二役も買っていた。
志村「前半……暗かったなあ!」
金澤「そりゃあ『トイス』も出るよね?」
志村「『トイス』も言いたくなるよ」
金澤「あれを言う前、たぶんハヤシくんって暗いんだよ、楽屋とか(笑)」
などという軽妙なMCも、ついさっきまでの重厚感とはえらい違いだ。
「スウェーデンはストックホルムで作ってきたアルバムが、5月に出ます!」という志村の告知に続いて、発売直前の新作アルバムからもう1曲、ミドル・テンポのセンチメンタルな名曲“同じ月”も披露したフジファブ。アルバムがとてもいい、という話を、この日の志村は何度も繰り返していたのが印象的だった。
「サニー・サイド」なフジファブの開放モードは留まることを知らず、「“Sugar!!”がWBC中継のテーマ曲だったので、WBC優勝はフジファブのおかげということで(笑)。それに引き換え北京五輪(の公式応援ソング)は民生さんだったけど惨敗だったのは……?」と志村が事務所先輩をネタにしたり、アンコールでは今回のツアー特製の紙製サングラスをつけて登場したり、金澤が『タモリ倶楽部』の「空耳アワー」の投稿でゲットしたTシャツをアピールしながら「今日、スペシャの中継入ってるんだけど、このTシャツってスペシャ的にNG?(他局なので)」とステージ前のカメラマンに確認したり……にこやかに錯乱したフジファブそのもののようなパフォーマンスを展開していた。
……というようなライブのリアクション的を見て、だったら全編「サニー・サイド」だけやって死ぬほど盛り上げればいいじゃん、と思う人もいるかもしれない。ただ、あの「ダーク・サイド」のサイケで壮大で、日常の裏側にある背徳の領域を暴き出すような危険なサウンドスケープは、間違いなくフジファブリックのものだ。そして、そもそも「サニー・サイド」でやってた曲、それこそ“Surfer King”のようなイケイケのナンバーにしたって、そのポップ感の向こう側で十分に錯乱したカオスが鳴っている。ということを、オーディエンスのために、そして自分たちのために、2部構成というスタイルまで持ち出してまで対象化する必要があったのかもしれない。違うかもしれない。いずれにしても、このジキル博士とハイド氏を同時に白日の下に曝すような今回の試みが、実にスリリングなものだったことは確かだ。新作アルバム『CHRONICLE』も、6月からの新作ツアーも、今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)