宇宙まお/渋谷duo MUSIC EXCHANGE

All photo by 木村泰之

●セットリスト
1. 正体
2. 潮騒
3. 涙色ランジェリー
4. セカイイチ☆片想い
5. ビールの王国
6. キッチンの恋人
7. 会いにゆく
8. 休みの日
9. 向こう岸
10. 電子レンジアワー
11. 君のいちばんにはなれない
12. サボテン
13. もう踊れない
14. ピザとコーラ
15. ロックの神様
16. 声
17. ベッド・シッティング・ルーム
18. 東京
(アンコール)
EN1. ヘアカラー
EN2. 愛だなんて呼ぶからだ
(Wアンコール)
WEN1. UCHU TOURS


今年1月8日に届けられた最新ミニアルバム『永遠のロストモーメント』のリリースツアーは、2月から愛知・大阪・茨城・宮城と縁深い地域含む各地公演を開催。今回レポートするのは、そのツアーファイナルにあたる東京・渋谷 duo MUSIC EXCHANGE公演の模様だ。最高傑作を携え、キャリア最大規模で繰り広げられた全国ツアーであり、宇宙まお & The Soul Hood Bandによる初のバンド名義のツアーでもあった。久々のバンドセットによるツアーだ。

メンバーは、バンドの名付け親でもあるバンマス=キタダマキ(B)、中畑大樹(Dr)、SUNNY(Key)、そして藤田顕(G)という、とんでもない顔ぶれ。デビュー直後から宇宙まおの音楽を支えてきた手練揃いではあるけれど、『永遠のロストモーメント』では久保田光太郎(peridots)プロデュースのもと、その技術と創造性を惜しみなく注ぎ込んでみせた。今回のライブは言わば、その凄まじいバンドサウンドにも押し負けることなく煌めく、宇宙まお楽曲の本質的なタフさが証明される機会でもあったのだ。

最新作同様にオープニングを告げる“正体”のビートポップが立ち上がり、自我の置きどころに迷うその心模様を音で映し出すように、バンドサウンドが刻一刻と変化しながら交錯する。切ない思いを運ぶキラキラとしたディスコポップ“潮騒”の華やかさに、オーディエンスはフィニッシュを待ちきれないとばかりに喝采を贈っていた。傷心女子の健気な反骨心が炸裂する“涙色ランジェリー”のイントロの中で、宇宙まおは挨拶しながら「最後まで楽しみましょうー!」と呼びかける。

ツアーの各地公演にも来場したオーディエンスをフロアに見つけて喜び、あらためてバンドメンバーを紹介。新作曲“ビールの王国”は、メロウな酩酊感が広がるMPBテイストのビール賛歌だが、先に「自分は酔っ払いが嫌い」と笑わせていたように、酔い過ぎにチクリと忠告するフレーズも盛り込まれている。何気ない幸福の時間を描くジャジーソウル“キッチンの恋人”では、遊び心溢れるアレンジが「何気ない幸福」の豊かさを後押しするようだ。

そんなふうに、バンドサウンドを前面に押し出したライブではあるけれども、アコギとハーモニカのソロ弾き語りで切々と披露されるJUN SKY WALKER(S)の名カバー“休みの日”や、テレキャスタイプのギターにスイッチして奏でられる“向こう岸”では、音の隙間に、言葉の行間に、膨大な思考と感情が流れ込む。過剰も不足もなく、しかし奥ゆかしい人間の思いを玄妙なソングライティングで伝える宇宙まおは、ここ数年の弾き語りライブによって、ソロアーティストとしての表現力をメキメキと向上させている。

この日、会場のはからいでドリンクとスペシャルフードが販売され、さながらホームパーティのような親密なムードの空間で、「セブン(イレブン)のピザが、おいしいんですよ。それを解凍する時間が、自分にとって大切な時間で。誰にとっても、ささやかだけど大切な時間って、あると思います」と語る宇宙まお。ブラシによるドラム演奏や、電子レンジの音のように鳴るパーカッション、ジャジーな鍵盤演奏などが盛り込まれる洒脱なアレンジの“電子レンジアワー”では、平易な温度感の中にも濃く豊かな時間が流れていて最高だ。

ツアー中、各公演でその土地にちなんだ楽曲を披露してきたということで、このファイナルでは忙しない東京の生活と過去の記憶が入り組んだ“サボテン”へ。孤独の寂しさを滲ませながらも、ダイナミックに躍動する。ライブも終盤に差し掛かるというところで盛り上げにかかるファンキーな新作曲“もう踊れない”では、アンダーグラウンドで燻るダンサーの感情が爆発する。すわ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズか、というサウンドで放たれるのは“ピザとコーラ”だ。ちょっと気取ったポーズでも取ってみないことには日々が動かない、そんな滑稽で悲しい人間の性が愉快に弾ける。「もんじゃ焼き♪」、「人形焼き♪」と、オーディエンスから募ったシンガロングのご当地フレーズも、ファンキーな響きをもたらしていた。

“ロックの神様”や“声”といった、表現のインスピレーションを辿る名曲たちも華やかなアレンジに彩られ、“ベッド・シッティング・ルーム”では孤独な思考がビッグバンを起こしては際限なく広がっていった。「東京は、生活する場所であり、何かを成し遂げなければ、と戦っている場所でもあります」と告げて届けられた本編最終ナンバーは、“東京”だ。絶え間なく失われてゆく風景の中で、夢はこの街の誰かに響いているだろうか。《東京 もっと感じたい》。悲しみや虚しさを抱え込みながらも、確かに響きあう音の中で、宇宙まおはその思いを投げかけていた。ダブルアンコールまで全21曲、記憶と情緒を重ねるほどに深く大きく広がる、ポップミュージックの宇宙がそこにはあった。(小池宏和)